隣に君がいる。それだけで充分。



その日の夜、ユーリから電話がかかって来た。今日はグランプリファイナルだったからきっとその報告だろう。ジュニアの大会はテレビで中継してないから、いつもユーリの電話で結果を知る。


「ユーラおめでとう!ジュニアを金メダルで終えられるなんてやっぱりユーラはすごいね!」
[こんなん余裕だろ。4日後にはそっち行けると思うから]
「うん、わかった!今日はゆっくり休んでね」


電話を早々に切って、ヤコフコーチから送られて来たユーリの演技をもう一度だけ再生してから布団に潜った。ユーリはロシアの妖精と呼ばれる程に綺麗で、衣装も髪の毛もキラキラしていて本当に妖精みたい。だけど本人はアイスタイガーだと言っていたっけ。タイガーとかライオンとかネコ科の動物が好きなんだよね、ユーリは。ピョーチャっていう猫も飼っててその子もすごく可愛い。実際には見た事はないんだけど、写真をたくさん送ってもらってる。


「早く帰って来ないかなぁ」


この日はとてもいい夢を見れた。それからの3日間は体調も安定していて、もうすごく調子が良かった。パーパもこれならどこかに旅行にでも行けそうだ、なんて冗談混じりに言っていた。もう少し早くそう言ってもらえたらグランプリファイナルの応援に行けたのにな。私が応援しに行ったらきっとユーリはびっくりするんだろなぁ。それですごく怒りそう。


「ニーカ」
「なあに、パーパ」
「お前にはもっと自由に生きて欲しいと思っているんだ。病気でできない事がたくさんあるけど、少しのワガママなら聞いてあげたいと思っているからな」


パーパはいつも私を見ると悲しそうな顔をしてごめんなって言う。私はそれがどうも苦手でパーパのことは好きなんだけど、会うたびにそんな顔をさせてしまう私が嫌になるっていうか私が病気だっていうのを思い知らされるっていうか、とにかく好きじゃない。


「ありがとうパーパ」
「ユーリ君が来るんだったね。パーパはも行くよ」


パーパは私の頭を撫でて出て行った。それからわりとすぐにユーリが病室にやって来た。パーカーのフードを被りダルそうに入って来る様子は、いつもと同じでその姿に安心する。


「いらっしゃいユーラ」


ユーリはいつもより機嫌が良くて、多分シニアに上がってヴィクトルと一緒の舞台で滑れるのが嬉しいんだろうなって思う。普段ヴィクトル選手の事をジジィとか言ってるけど尊敬している事には変わりない。今日は椅子を出さないでベッドの上に座ってリュックの中から金メダルを取り出して私にかけてくれた。


「これがジュニア最後の金メダルだ!」
「本当にすごいよユーラチカ!」
「ニーカも最近体調良いんだろ?さっき親父さんに会った」


確かにパーパが出て行ってから直ぐにユーリが来たから、廊下ですれ違ってもおかしくなかったかも。


「そうなの。どこかに旅行に行けるかもなってパーパが!」
「良かったじゃん、今度どっか一緒に行こうぜ」
「うん!絶対だよ!そういえば、シニアデビューの振り付けヴィクトル選手にしてもらうんだよね?」


何年か前にユーリが嬉しそうにヴィクトルにシニアデビューしたら振り付けしてもらえると報告してくれたのを今でも覚えている。あの頃からユーリはすごい才能だったからヴィクトル選手の目にも止まったんだと思う。たしかあの時は4回転してコーチに怒られてたときにヴィクトルが話しかけてくれたんだって言って気がする。


「そうなんだけど、ヴィクトルのやつ忘れてる気がする」
「忘れてても思い出させれば良いんだよ!」
「お前って結構強引なところあるよな」


ユーリ程じゃないけどね。一部でロシアンヤンキーっていうあだ名で呼ばれてるの私知ってるんだから。ユーリの言葉には微笑んで何も返さないでかけてもらった金メダルを手に持ってマジマジと見ているとユーリがスマホを取り出した。


「インスタ上げるから写れよ」
「私一般人なんだけどなぁ」
「そんなん今更だろ。ほら」


ユーリは私の肩を抱き寄せて手慣れた動作でセルフィーを済ませてそれをあっという間にSNSに上げてしまう。ユーリのSNSには度々私が写り込んでいるからユーリのファンの子は私が邪魔だと思っているんじゃないかな。


「私また入院着なんだけど…」
「いいんだよ、ニーナはそれで」


ユーリはそう言ってから私の頭を乱暴にに撫でて、ぐしゃぐしゃになった髪の毛を見て吹き出して爆笑し始めたので私もユーリの髪の毛をぐしゃぐしゃにしてあげた。




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