前世も来世も此処には無い



私は生まれつき身体が他の人より弱くて、小さい頃から入退院を繰り返していた。パーパがサンクトの病院に行く事になったからマーマがいない私も一緒に行く事になった。マーマも私と同じで身体が弱くて、私を産んでからすぐに死んでしまったらしい。私はお友達は多くはないけど、お家がお隣だったユーリとお別れしないといけないのはすごく寂しかった。あんまり外で遊べない私を見捨てないでいてくれた。ユーリはスケートがとても上手なんだけど、スケート場にはあんまり連れてってくれなかったっけ。私の身体を気遣ってのことなんだけどね。

私が転院してから3ヶ月もしないうちにユーリもサンクトのリンクに拠点を移して来て、また頻繁に会えるねと私はすごく喜んだ。私からユーリの所に遊びに行く事は出来ないけれど、ユーリはスケートで忙しいはずなのに頻繁に私の病室を訪れてくれた。大会に出るようになってからはその頻度は下がったけれども、その大会でメダルを取った時はいつも私にメダルを掛けてくれる。私ももっと健康だったらユーリみたいにスケートをやってみたかったなって思うこともあった。けど、きっとユーリには追いつかなくて私は今みたいにユーリのスケートを見てる事になりそうだな。そんな想像が簡単に浮かんで私はベッドの上で1人クスクス笑った。


「今日は体調良さそうだな」
「あ、ユーラ。来てくれたんだ」
「ほら、これじいちゃんから」
「わっ!やった、私コーリャおじいちゃんのピロシキ大好きなの!」
「知ってる。バレたら俺が叱られるんだからぜってぇバレんなよ」


ユーリは紙袋を私の膝に乗せると椅子を持って来てどっかり座る。その座り方は昔から変わらないな、と笑いながら受け取った紙袋の中身を見ると思った通りにピロシキが入っていた。その1つに齧り付きもう1つをユーリに差し出す。


「コーリャおじいちゃんのピロシキはやっぱり美味しいね」
「当たり前だろ。じいちゃんのピロシキが一番美味いんだ」


モチロンいつも美味しいんだけど、何よりユーリが一緒に食べている事が嬉しいんだ。ユーリが居ない時はいつも1人だからこうしてお見舞いに来てくれて一緒に過ごせるのが本当に嬉しい。一時退院しても、パーパは仕事でいないし友達もいないし1人で過ごす事になるから、ユーリがお見舞いに来てくれる時が一番嬉しい。


「来週、グランプリファイナルに行くからしばらく来れねぇ」
「そっかー、頑張って来てね。私はここでゴロゴロしながら応援してるからね!」
「今回も土産買って来てやるから、大人しくしてろよ」


ピロシキを食べ終えて、指先に付いたカスを舐めとるユーリにウェットティッシュを渡す。ユーリは毎回海外に行くとその土地でお土産を買って来てくれるから、色んな国の物で溢れている。その中でも私が幼い頃にとびっきり喜んだ髪飾りやアクセサリーなんかが多い。私はユーリに何も返せてないけれど、ユーリは私を見限る事なく今もこうして会いに来てくれる。いつかこの病気が治ったら、今までユーリがくれた沢山の優しさを返していきたいなぁ。


「ねえ、今日はすぐ帰らないといけない?」
「別に予定はない」
「ホント?なら中庭にお散歩に行きたいの!」


中庭はみんなほとんどお見舞いの人達と一緒に居るから何となく1人だと寂しくて行けないから、こうしてユーリがお見舞いに来てくれた時かナースのおばちゃんと一緒じゃないと行かない。ユーリにはその事は言ってないけど、きっと気づいてるんだろうなって思う。だから今回も何も文句を言わないで立ち上がってくれる。


「今回のグランプリファイナルってどこでやるの?」
「あー、今回はソチだから近い方だな」
「私も応援に行けたらよかったんだけどなぁ」
「はぁ?ぜってぇ来んなよ!お前は本当に大人しく寝てろよ!!」


わかってるってば、冗談だよ冗談。今だって点滴を引きずってる私は健康的には見えないだろう。あんまり外に出ないからかもしれないけど、肌の色なんか死んでるみたいに青白いのも全然健康的じゃない。


「ユーラチカ」
「あ?なんだよ」
「すっごく応援してるから今回も優勝してね!」


ユーリはきっと心配しなくても優勝しちゃうんだろうな。でも応援したい。私の大好きな幼馴染はスゴイんだよ、って自慢したい気持ちもあるけどね。


「ああ、今回もニーナに金メダル掛けてやるよ」




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