一人ぼっちの旅路の刹那を誰かと歩けたら



ユーリがヴィクトルが俺との約束忘れて日本に行った!とイラつきMAXで病室に乗り込んで来たのは今から10日くらい前になる。日本にヴィクトルを連れ戻しに行くから一緒に行くかと誘われたのが7日前。ヴィクトルさんがいるらしい日本に着いたのがおよそ2時間前になる。そして今最寄駅だというハセツ駅に着いた。まさか私も一緒に日本に来れるなんて思ってもなかったからすごい感動している。海外旅行なんて来れるなんて私の身体では無理だと思っていたけど、パーパを説得してくれたユーリには本当に感謝しないと。変な銅像の写真を撮っていたユーリの服を引っ張る。


「ユーラ!ユーラ!!」
「あ?何だよ」
「スパシーバ、ユーラチカ!」
「もう何回も聞いたっつーの。ヴィクトル連れ戻すついでの旅行だからな」


ほら行くぞと差し出された手を握って歩き出す。SNSに載せている写真の位置情報をマップ検索してアーケードまで来たのはいいけれど、ヴィクトルさんはおろか現地の人も少ない。本当にこんな所にヴィクトルさんがいるんだろうか。ユーリもだんだんとイライラして来ている。


「この位置情報でバンバンあげてるんだけどな」
「銀髪なんて此処だと目立つはずなのにね」
「ヴィクトル何処だよ!ヴィクトーーール!!」


そんなに大きな声で叫ばないでよ!少なくても人はいるんだから、みんな見てるし。不図、服屋さんが目に入り吊るされた服を見ると、すごくユーリが好きそうな服があった。言うべきかなとその服を見て足を止めてしまって、ユーリが私を振り返り視線を辿ったらしいのを感じた。


「クソヤバい…!オシャレじゃん!」
「タイガー買おうよ。お揃い!」
「おう、ちょっと待ってろ」


ユーリはお店に入って店員の人にとって貰うと、私を呼んで着替えるように試着室に案内される。少し大きいけど気にならない程度かな。試着室を出るとユーリはもう着替え終わってて店を出てから一緒にセルフィーを何枚か撮ってそのうちの1枚を早速SNSに上げたようだった。セルフィーからのSNSはもう習慣になっていたんだろうな。ヤコフコーチに居場所があっさりバレて直ぐに電話がかかって来た。


「ったく、うるせぇジジィだ。俺だって色々考えてるっつーの」
「すごい怒ってたね。ちゃんとヤコフコーチに言ってから来た方が良かったんじゃない?」
「いーんだよ。ニーカは気にすんなよ」
「うーん、でもお土産は買ってあげようね」
「はぁ?何で俺がジジィに買わないといけないんだよ」


納得していなさそうなユーリは私の手を引いてまた歩き始めた。眉間にシワが寄っているけど、ぼんやりしているような感じもする。ヴィクトルさんの居場所は分からないままだから、きっとアテもなく歩いているんだろうけど気づいたら海沿いの道路に辿り着いていた。


「って此処何処だよ!?」
「ユーラが引っ張って来たんじゃない」
「ヴィクトーーール!出てこいヴィクトル!!」


私少し歩き疲れたから何処かで休みたいな。でもこんな所で休んでも潮風で身体が冷えてしまうからどこか室内で休めたらいいな。隣でヴィクトルさんの名前を叫んでるユーリを見ながらぼんやりそんな事を考えていると、釣りをしていたおじいさんが話かけてきてお城の方を指差した。どうやら日本語らしくてユーリも一瞬訝しんだけれど、おじいさんがヴィクトルさんの名前を言った事とそれしか情報が無い事もありおじいさんの言う事を信じることにした。


「スパシーバ、じゃなくてアリガトウ?」
「?アリガトー」
『見つかるといいねぇ。ヴィクトル』


ユーリの真似をしておじいさんにお礼を言ってお城を目指す。歩きながらユーリがスマホでマップを開いてお城の近くを調べると、アイスリンクがあるらしく多分そこにヴィクトルさんがいるだりうと目星をつけてそのアイスリンクを目標地にした。


「ニーカ、ずっと歩いてるけど大丈夫か?」
「ちょっと疲れたけど、アイスリンクまでは頑張るからそこで少し休憩ね?」
「リュックとか重くないか?」
「ユーラがほとんど持ってくれてるから大丈夫」


私の服なんかも最初からユーリのキャリーに入れてもらってるから、私の荷物はユーリの荷物より遥かに軽い。その服も日本に来る前にユーリと一緒に買いに行ったんだけれど、その話はまたいつか出来たらしたいな。
ユーリはさっきよりもゆっくりと歩いてくれて少し時間がかかってしまったが、ハセツのアイスリンクに到着した。そこには異様なくらいたくさん人が集まっていて、ここにヴィクトルさんがいるんだろうなと思わせるようだった。その人混みを女の子3人で警備していて一般人は入れないようにしているみたいだ。


「私、入ってもいいのかな?」
「いいに決まってんだろ。中に椅子くらいあるだろうからそこで大人しくしてればいい」


ユーリはてを繋いだまま人混みを抜けてアッサリ入口の前まで来てしまった。そして女の子達に(たぶん)止められて、ユーリがその女の子達を睨みつけているとメガネをかけた男の人が走り込んで来て入口の扉にへばりついた。ユーリはこの男の人の事を知っているようで、盛大に舌打ちをしていた。その時の顔はタイガーというよりヤンキーって感じだった。すごく怖い顔。私の手を離したユーリはその男の人に近づくと何の躊躇いもなく回し蹴りをお見舞いした。なんていうかさすがユーリ。


『全部お前のせいだ。謝れ』
「顔を踏むのは流石に可哀想だよ、ユーラ」


そう言うとユーリはすごい嫌そうな顔をしたけれど男の人から足をどかした。ヴィクトルさんは見当たらないけれど、リンクの方にいるのかな。


「ヴィクトルがリンクにいるらしいから行って来る。ニーカはここで待ってろよ」
「うん。大人しく休んでます」


ユーリは私の顔色を見てから男の人について行った。あの男の人、なんか見たことはある気がするけど、誰だっけ?アイスリンクにいてユーリの知り合いって事はフィギュアの選手だと思うんだけど、思い出さないな。とベンチに座って考えていると、さっき入口の警備をしていた女の子3人組が私に話しかけて来た。


『あなたロシアのユーリのインスタにたまに写ってる人だよね?』
『あのコレよかったら飲んで!コンポタ』
『身体が弱いんでしょ?ブランケットもあるよ!』
「…ごめんね。私英語も日本語も話せないの。えっと…sorry. I can not speak either English or Japanese」


私はスマホの翻訳アプリを起動して日本語に訳して彼女達に見せると彼女達もスマホを取り出して画面を見せてくれた。その画面には【温かい飲み物です。飲んで。身体冷えたらいけません】と書いてあって、この子達はもしかして私の事を知っているのかもしれない。ユーリのSNSにたまにとは言え写り込んでいるから。


「ありがとう、もらいます」


飲み物を受け取ったら、女の子達は満足そうに微笑むとユーリ達が向かったリンクへ駆けて行ってしまった。話し相手がいなくなってしまったので私はユーリに宣言した通りに大人しく飲み物を飲みながらみんなを待つことにした。




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