楽しみと君が笑う



父さんが交通事故で亡くなった。俺が小学校三年生の夏だった。今でも鮮明に覚えている、煩い蝉の鳴き声と和尚が唱えるお経と木魚の音そして黒で統一された人の群れ。手汗でベタベタなのも気にしないで幼い妹の手を握り母さんの隣で父さんが入っているらしい棺を見ていた。交通事故で亡くなった父さんは、子供に見せられない姿だったらしい。

「泣かなくて偉いわね」

そう知らないおばさんに言われたが、泣かないのではなくて泣く理由がわからなかっただけである。大きな箱の中を見て泣く大人が、理解できなかった。父さんが亡くなったと理解できなかった。父さんが帰って来ないと理解出来たのは、葬式から数日経ってからだった。
それから俺は少しずつ道を外れ、中学に入学する頃には喧嘩が強くなって、後に俺が所属する事になる不良チームの団長となる男と出会い、高校卒業までやりたい放題だった。そんな俺を母さんもじいちゃんばあちゃんも何も咎める事なく、怪我の手当てやご飯の用意をしてくれた。だから母さんが初めて俺に頼んだ審神者という仕事を、よくわからなかったがやるだけやってみようと思った。


「主!こんな所で寝てると風邪引くよ」
「んんー、あとごじかん……」
「あーるーじー!!」


この女子力高い刀が俺の初期刀、加州清光。刀の付喪神らしいが、神様感は微塵も感じないし何回も言うが、女子力が高い。俺より妹と話てる時の方がイキイキしてるというか、会話が弾んでいるような気がする。今流行りのジェンダーレス男子という部類に属するのだろう。


「今日までに仕上げないといけない仕事があるんじゃ無かったの?」
「今日が終わるまでまだ時間があるだろ」
「それクズの言い分だよ」


横になっている俺を揺さぶっていた加州だったが、何を思ったのか急に揺さぶるのをやめて立ち上がった。それを重たい瞼を少し持ち上げて見上げていると、この刀はとんでもない事を言い出した。


「ま、主が起きたくないなら別にいいけどね。俺の部屋で妹ちゃん待ってるから行くね」
「おい待て加州清光」
「なあに、俺達これからイイコトするんだから離してよ」


加州の袴の裾を掴んで、行かせるかと力を込める。妹は最近転科をするらしくその準備が忙しいと言っていたが、その割に加州に会いに来ている。最初の頃は俺に会いに来てくれていた筈なのに、書類作成が苦手なおかげで妹に構えずにいた所為か加州に懐いてしまった。由々しき事態である。


「みーくん、まだ?」
「な、なんて格好してるんだ!めっちゃ可愛いよ!!リン!!!」
「えへへ、照れちゃうよ」


これから通う事になる学科は普通科とはまた違う制服になるらしく、どうやら俺の可愛い妹はこの初期刀とその試着をしていたらしい。目を引く真っ青なブレザーに赤いリボンがよく妹に似合っている。つい先週短く切り揃えられた髪の毛も漸く落ち着いて見る事が出来るようになっている。長い髪の毛も似合っていたから勿体無いと散髪を最後まで反対したが、短い髪も当然似合っている。


「そうだ、ヘアピンとかつけたらどうだ?」
「主にしては良い案じゃん」
「それなら、カエデちゃんから貰ったのが可愛いかも!」


取って来る!と言って押入れを抜けて行く妹を見送くる。あんなに可愛い妹が、この週明けから新しい学科に行くことになる。それは妹も忙しくなるということで、今はこうして本丸に遊びに来てくれているがそれもあんまり出来なくなってしまうだろう。俺も今日までの仕事を片付けたら鍛刀をして本格的に審神者としてやっていかないといけない。お互い忙しくなってしまうのは果たして良いと言えるのか。寂しくなるだろう。




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