01



暖かい春の日差しの下、一人で行くあてもなくただ町を歩いていた。桜はもうほとんど散ってしまったようだ。屋敷に居てもすることがなく、無駄に時間を消費してしまうと思い出て来たが、一人で散歩していても暇なものは暇だった。


「天祥院のお兄様の所へ行ってもお邪魔になるだけでしょうし、私に出来ることなんてこうして散歩で時間を潰すしか…」


どれくらいの時間を歩いただろう。気づけばひと気の無い、山の近くまで来てしまっていた。この山はあまりいい噂を聞かない。妖怪だの幽霊だのが現れ幼子を連れ去るという神隠しのような噂が下町で流れている。自分が幼子だと思っているわけではないが、何か面倒が起こってもお兄様に迷惑が掛かる。そういう場所には近づかないのが賢明だ。踵を返して来た道を戻ろうとしたその時。


「うわぁぁあっ!?」
「わっ!?」


茂みから自分と同じくらいの少女が飛びたして来た。突然の事で反応が遅れて少女とそのままぶつかり、押し倒される形で転んでしまった。幸い近くに石などが無く頭を強く打つことはなかったが、背中はきっと土で汚れてしまっているだろう。


「わわわっ!ご、ごめんなさい!!」
「いえ、お怪我はありませんでしたか?」
「あ、はい!私は大丈夫だけど、貴方が…」


薄い色素の髪を揺らして慌てたように立ち上がり、持っていたリンゴが転がっているのも気に留めずに私を立たせて背中についた土を払っている少女は、そのまま土下座でもしそうな勢いがある。


「高そうな着物汚してしまった…!私切腹とかしないといけない感じですか!?!!?」
「落ち着いてください!!私は大丈夫ですので、ほら、リンゴ拾わないと」
「そうでした!売り物にならなかったら泉さんに怒られる」


慌ただしい少女は今度は転がったリンゴを拾い始める。私も近くにあったリンゴを三つほど拾い少女に渡そうと差し出すと、ぶつかっちゃったお詫びですと受け取らずに走り出した。


「落としちゃったやつだけど、水で洗って食べてみてください!とっても美味しいですよ!」


そのまま町へ走って行ってしまった少女。名前を聞くタイミングがなかったから、少女の名前を知ることは出来なかったが、でも何故かまた会えるような気がした。


「慌ただしい人でしたね…」


家に帰って貰ったリンゴでも剥いてもらおう。




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