06



朝目を覚まして身支度を済ませた後、卓袱台に乗せられた朝ご飯を目の前に、何やら重苦しい空気が流れていた。多分、今朝の騒ぎについてなのだろうと予想はつく。レオさんの言葉からすると、その騒ぎの原因は私なのだろうというのも何となくわかる。だけど、私に体の異変なんて特に感じられないのだから、私自身困ってしまう。


「とりあえず、温かいうちに食べな。冷めると不味くなるから」
「泉さんの作るご飯は冷めても美味しいです」


少ない食材でやりくりして美味しいものを作ってくれる泉さんは本当にすごい。だけど、私のお手伝いをことごとく断るのは何故なのでしょうか。私だって女の子だから、少しくらい料理とか出来た方がいいと思うんだけど、いかんせん泉さんが私を台所に入れてくれないから練習もできない。閑話休題。


「…私、大丈夫ですよ。気を使ってくれなくても、ちゃんと受け止めます」


微かに覚えてる事がある。物置のような離れに茣蓙を敷いただけのような場所で、死んだように生きていた時の事。其処から助け出してくれたレオさんの温かい手を。


「悪い話だとしてもアンタは平気なわけ?」
「悪い話は、聞きたくないけど…。でもレオさんが辛い顔するのって、きっと私の所為だから…」


レオさんが辛い顔をするのはイヤだから。今までずっと何も知らないまま生きてこれたのは、レオさんと泉さんが守ってくれていたからだってわかってる。こんな暮らしをしてるのに、不自由なく暮らせているのにはわけがある事もわかっている。


「アンタが後悔しないってなら、別にいいんだけど」
「心配してくれてありがとうございます、泉さん」
「セッちゃんはツンデレだからねぇ」


ここに居る皆が優しくて、いつまでも甘えていたくなるけど、私もそろそろ大人にならなくちゃ。そう覚悟を決めた私とは裏腹に、レオさんの表情はいつまでも晴れることはない。前髪に隠れてはいるけれど、雰囲気で伝わってくる。


「………おれは、おまえに知って欲しいとは思わない。何も知らないまま生きて欲しいと思ってる」
「王様…」
「綺麗な世界だけ見てれば、リンは幸せなままで居られるんだ」


レオさんはいつも私の事を考えてくれている。気遣い、守ってくれている。私はいつもレオさんの隣には行けなくて、レオさんの背中ばかり見て来た。深夜に部屋を出て行くレオさんの背中を気づいてないフリをして見送り、朝目を覚ますといつの間にか帰って来ていたレオさんに安心する日々。


「だけど、いつまでもこのままではいられないです、よね。今朝だって、私がなにかしてしまったんでしょ?」


前髪の隙間から見えたレオさんの顔は、今にも泣きそうな表情で、今までレオさんに背負わせていたモノの重さを感じた。


「アンタが泣きそうでどうすんの。しっかりしな。リンを守ってやるんでしょ、アンタが連れて来たんだからアンタが最後まで守ってやんなよ」


泉さんの言葉は厳しいが、その表情からは優しさが見受けられた。違うのに、守ってもらいたい訳じゃないのに。顔を上げるレオさんと引き換えに私は俯いた。




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