はじまりの夕暮れ



中学2年と3年の間の春休み、たまたま出掛けた先でA組の人に絡まれた。こんな容姿をしてるから今までも絡まれることはあったが、その時は偶然にもカルマ君がいることが多かったから事なきを得ていた。だけど今回は1人の為、どうやって逃げようかと考えていた。

だから気づかなかった。女の子が近づいて来ている事に。


「ちょっと邪魔なんですけど」
「あー?んだよ。関係ねぇだろ」
「邪魔だって言ってるんですけど。脳無しですか?」


長い髪の毛を2つに結わえた女の子。一年生の時に同じクラスになった事のあるその子は、この時史上最悪な程イラついていたと後に語ることになる。


「うるせぇな!引っ込んでろ!!」


A組の彼はその子の態度に、苛つきを隠す事なくあろう事かその子に殴りかかって行った。まさかいきなり殴りかかるとは思ってなかった僕は、声を掛ける事も出来ずにその様子をただ見ていた。その子は見るからにか弱くて、足も腕も中学生男子なんかよりずっと細い完璧な女の子であった。それなのに、彼の拳を小さな手のひらで受け止めると、誰が想像出来ただろうか。


「これ、正当防衛になりますよね」


そう問われた疑問符の付いていない疑問文に答えが返って来ることはなく、しかしその子も答えを求めていたわけでもないようで、A組の彼をその細い足で蹴り上げてから勢いそのままに振り下ろした。あんなに綺麗に決まった踵落としを実際に見たのは初めてかもしれない。そもそも踵落としを見る機会なんて普通に生活していたら無い。


「なんか言うことあるんじゃないの?」
「ひぃ、ごごごごごめんなさい!!」
「私じゃなくて潮田くんに言うべきでしょ」
「望月さん!もういいよ!」


彼の頭を踏みつけているその子、望月リンは一年生の時に比べると危ない感じになっていた。見た目と反してやってることが不良のそれである。僕が止めてやっと頭から足を退かした望月さんは、納得していないような顔をしていた。


「ほら、優しい潮田くんに謝ってからどっか行ってください」
「クソっ、タダで済むと思うなよ!!」
「謝ってどっか行けと言ったんですよ?」


結局謝ることなく逃げて行った彼に文句をぶつぶつ言っていたが、幸い僕も望月さんも怪我はしていないからと必死に丸め込んだ。あのまま望月さんを放って置いたら彼が五体満足でいられたか怪しい。


「助けてくれてありがとう、望月さん」
「別に大した事はしてないですよ。望月もイライラしてたので」
「ううん、でも何かお礼させてよ」


僕がそう言うと彼女は少し悩む仕草を見せて、じゃあと切り出した。


「望月が喧嘩強い事、みんなには内緒にしておいてほしいのです」





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