朝餉はあれから結局何も話が進まないまま終わり、レオさんはいつものように町へ行ってしまった。泉さんにアンタも気晴らしに外に遊びに行って来な、と社を追い出されたのがつい先刻の事。いつもなら、山菜とか木の実なんかを収穫して町へ売りに行ったり嵐姉さんの所へ遊びに行ったりとか何かと理由を付けて町へ行くけど、今日はそんな気分にならなかった。
「リン、浮かない顔してどうしたの?」
町へは行かず、山の中で適当な木に凭れ掛かって座り込んでいると、頭に何かが降ってきて声が掛けられた。驚いて見上げるとイタズラを成功させて笑うゆうた君がいた。頭に乗せられているのはどうやら花冠みたいだ。
「…浮かない顔してるかな、私」
「うん、今にも闇に飲まれそうな顔してたよ」
ゆうた君は私の隣に座って私のほっぺを引っ張って無理やりに笑顔を作る。彼はこの辺りを住処としている妖狐で、泉さんと交流があってその流れで私とも仲良くしてもらっている。私が十の歳に知り合ったからそれなりに長い付き合いになる。
「ほら、笑って笑って!」
「いはいれふお(訳:痛いですよ」
「ああ、ごめんね。手加減難しくて」
人間の女の子って脆いから気をつけないとね。なんて笑うゆうた君は完全に面白がってる。解放されたほっぺをさすりながら今朝の事を話した。
「それは大変だね。泉さんの呪いでも抑えられないなんて、リンの見た目からは想像出来ないね」
この辺りの妖怪や鬼達の中で、泉さんは地位が高いんだろうな。でも、凛月君のお兄さんも鬼神だって聞いた事があるから、その弟の凛月君も地位が高いのかな。
「私、レオさんに守ってもらいたいわけじゃないの」
「それは知ってる」
記憶の奥底に微かに残ってるモノがある。誰もいない狭く汚い小屋で過ごしていた時の記憶。窓から満月を背負って手を差し出すまだ幼いレオさんの姿。その時から私は守られていた。
「俺ね、まだ野孤だった時に出会った人間がいてさ。この姿を許してくれた奴なんだけどね」
「ゆうた君の?」
「そうそう。その人間が双子でね、殺されたんだって弟を」
双子は凶兆なんて可哀想な話だよね。とゆうた君は笑ってはいるけど、その顔は割と最近何処かでみたような泣きそうな表情だった。
「偶然に名前が一緒だったんだって」
「ゆうた君……」
「お揚げ、貰っちゃったからね。『ゆうた君』に会いたいって願いは叶えられないけど、姿だけならって」
いつも明るいゆうた君がそんな過去を背負っていたなんて知らなかった。
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