08



朝餉を終えたおれは、気不味さから逃げる様に町へ来ていた。思えば最近はリンとこうやって、気不味い雰囲気になった事は無かった様に思う。幼い頃は良く些細な事で喧嘩して、セナに二人で怒られたっけ。どっちが多く川魚を取れたかとか、木登りで高く登れたとか、当時はそれが重要だったけど今思い返すと本当にくだらない事だったな。


「なあに、それでリンちゃんに何も言わないで出て来ちゃったの?」
「だって、駄々捏ねたの自覚してるし……」
「男の子なんだから、だってなんて言わないの!」


麺屋の店主、鳴上嵐はおれ達の事情を知る数少ない人間だ。持ち前の面倒見の良さで来るもの拒まずらしく、度々人ならざる者をこの店で見かける。この店の売り上げ一番は『きつねうどん』らしい。


「それにしても力があるのも大変ね。普通の人間で本当に良かったわ」
「ナルの何処が普通なんだよ」


先ほども伝えたが、この店には人ならざる者が来店する。という事は、店主であるナルには客が見えているという事。リンやおれ程の力は無くとも、それらを感知する力は持っている。それを除いても、男なのに女みたいな喋り方をしたりクネクネしてるナルはどう見ても普通ではない。失礼ね、なんて言っているが自分にも自覚があるのだろう、笑っていた。


「そういえば知ってるかしら?」
「なに?」
「この甘味処なんだけど、何か思い当たる節はある?」


カウンター越しに差し出された紙に書かれているのは見覚えが無かったが、何か特段に怪しい名前でもないし、普通の甘味処に感じるが。ナルの渡してくる情報は有益な物が多いが、今回のこれはなんなんだ。


「何処にあんの?杏亭、知らないや」
「あら、知らないの?意外ね。てっきり知ってると思っていたけど…」
「含みのある言い方だな」
「まあ、明日行ってみて頂戴。面白いものが見られると思うわよ」


さあさあお仕事しないと!と仕事が好きなわけでもないのにお玉を持って奥に引っ込んで行ってしまう。これ以上は話すつもりはないということなんだろう。紙には丁寧に店の名前の他にも地図が書かれていた。


「…取り敢えず行ってみるか」


明日行けとナルは言っていた。一先ず今日は帰った方がいいんだろう。




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