君の香りを抱いて
イレブンのじいさんが残した小箱の中には2通の手紙と青い石が入っていた。1つはイレブンとアネット2人の本当の母親からの手紙、そしてもう1つはイレブンのじいさんからの手紙。母親からの手紙には故郷のユグノアが魔物に襲われたこと、2人を逃がすことしか出来なかったこと、成長したら親交国のデルカダールを頼るといいこと、そして2人が王子と王女であり勇者である事が簡潔にまとめられていた。イレブンのじいさんからの手紙には、孫を労る言葉が並び、ここに流れ着いたのはイレブンだけでアネットの姿はもうなかったこと、なぜ勇者が悪魔の子と呼ばれているのか真実は自分の目で確かめるしかないこと、旅立ちのほこらの扉を開けるまほうの石をさずけること、そして最後に人を恨んではいけないと締めくくられていた。正直オレは、色んな事が起こりすぎて村を出た時よりも、手紙を読んで少し落ち着いた今イレブンが気持ち的に立ち上がれなくなると思っていた。だが、イレブンは立ち上がり歩みを止めなかった。
「デルカダール神殿が見えてきたよ」
「どうする?朝になってから行く?」
「見張りがいるだろうから、このまま暗闇に紛れて進もう」
長い階段を上り切った先に、レッドオーブが移されたデルカダール神殿の入口がある。イレブンは大丈夫だとしても、アネットは女だし大変だろうと思っていたが特に息切れも無く平然と上り切った。見張りがいると思っていたが、テントの中にも神殿の入口にも兵士がいる様には見えなかった。警戒を怠らずに神殿の中に忍び込むと、早々にデルカダール兵がいた。ただし、既に事切れているようだった。
「喜ぶべきじゃないけど、よかったって思っちゃった」
「あぁ…」
アネットは素直だ。兵士がなぜ死んでいるのか謎ではあるが、今のオレたちには好都合だと少なからずオレも思っていた。奥に進むと生乾きの血で書かれた『祭壇の間に急げ オーブが危ない』という伝言があった。オレたちの他にオーブを狙っている奴がいるらしい。オレたちは途中現れた魔物を倒しながら祭壇の間に急いだ。中途半端に開いていた祭壇の間の扉から覗き込むと、魔物が2匹オーブを狙っていた。
「あれはイビルビースト。光とか雷に弱いはず」
「ならオレがヤツらを引き付ける。」
「私も後に続く」
「…じゃあ、僕がデインで弱らせる」
唯一デインを覚えているイレブンに仕留めてもらう為にオレとアネットは前に出た。戦闘が始まって素早くアネットが片方にルカニをかけ、もう片方にオレがスリープダガーを喰らわせる。オレもアネットもきっとイレブンも、最初から2匹纏めて相手をするつもりは無かった。寝入った敵を放置してもう1匹を集中攻撃する。アネットが覚えたてのかえん斬りでそれなりにダメージを与え、敵がアネットを狙おうと向かって行った所を背後からオレが短剣を振り下ろす。そしてイレブンが放ったデインで弱らせる。
「よくもやってくれたな!」
眠っていたもう1匹が目覚めてイレブン目掛けてするどいツメを振り翳した。致命傷は避けられたが、利き腕にダメージを受けてしまっていた。
「アネット!イレブンにホイミ!!」
「…わかった」
敵に向かって行きそうになっていたアネットにイレブンの治療を指示して、オレはとりあえず弱ってる敵にトドメを刺す。残りの1匹をもう一度眠らせようとするが、躱されてしまう。
「ありがとうアネット。カミュ離れて!」
アネットに回復してもらったイレブンが、珍しく語尾を強めてデインを放つ。そしてすかさずアネットがルカニを唱えて、守備力が下がった敵にイレブンが走り込んできてかいしんのいちげきを叩き込んだ。流れるような息の合った連携で、無事に敵を倒すことが出来た。敵を倒した2人は喜ぶでもなく、オレに駆け寄ってきてホイミを掛けはじめた。
「カミュ怪我は?大丈夫?」
「それはこっちのセリフだ。腕は平気か?」
「アネットが治療してくれたから平気。アネットも怪我してない?大丈夫?」
「私は大丈夫。ちょっと疲れただけ」
イレブンがアネットに魔法の小ビンを渡す。その間にオレはレッドオーブを取りに行く。やっと手に入れる事が出来た。オレはオーブを手に、「美味しくない」「頑張って飲んで」「でも美味しくない」と言い合ってる2人の元に戻る。普段はこんなんだが、いざと言う時は頼りになる勇者様達だ。
「イレブン、アネット、オレは確信したぜ。お前達と一緒にいれば、いつかオレの願いは果たされるとな…」
「願い?」
「おっと、どんな願いかって質問はなしだぜ。これはオレの問題だからな」
「ふーん、わかった」
「カミュって意外と秘密主義だよね」
この2人に今マヤの話をした所で、どうにかなる訳では無いし、2人に要らぬ心配を掛けてしまうかもしれない。「いつか話してね」と微笑むイレブンに「気が向いたらな」と返すことしか出来なかった。オーブも手に入れた事だし、もうこんな埃っぽい所に留まる理由も無い。神殿を抜けて、近くのキャンプで夜を明かすことにした。
「明日は手紙に書いてあった祠を目指そう」
「うん。何があるんだろうね」
「とんでもないお宝があるかもな!」
そんな話をしながら眠りについた。翌朝海を見たことの無いアネットと寄り道がすきなイレブンの希望で海岸に少しだけ寄ってから、祠を目指した。海岸でプチアーノンが落とした白い貝がらをアネットに渡すと嬉しそうにポーチにしまっていたし、イレブンもふしぎな海草を鍛冶に使えるかもと拾っていた。追われてる身だが海に寄って良かったと楽しそうにしている2人を見て思った。寄り道を終え、細い道を進むと開けた丘に出た。ここには旅立ちの祠しか建物がないようで、馬は2頭いたが人の気配はしなかった。
しかし、崖の上から兵を引き連れたデルカダールの将軍が現れ、馬に乗ったまま崖を駆け下りてきた。
「おいおい、マジか!?」
「戻る?祠に行く?」
「祠に行こう!馬を借りて!!」
アネットの問いかけにイレブンは迷いなく祠へ向かうことを決断する。それにオレもアネットも反論も無く、直ぐに馬を目ざして走り出した。アネットをオレの後ろに乗せて祠を目指してスピードを上げる。後ろでデルカダールの将軍、グレイグと言ったか、が何か叫んでいたが生憎逃げるので精一杯で聞き取れなかった。
「カミュ、ボウガンで狙われてる」
「マジか!?ちゃんとつかまってろよ!」
「わかった」
そうアネットに指示するが、そもそもアイツらが狙っているのはイレブンだった。デルカダール兵が放ったボウガンはイレブンの馬に命中し、イレブンは振り落とされてしまっていた。オレとアネットだけで逃げ切っても意味が無い。もう一度アネットにつかまってろと声をかけ、馬を急な方向転換させてイレブンの元へ向かう。
「つかまれ!イレブン!!」
「…!」
差し出した手をイレブンはしっかり掴んでくれたので、引き上げアネットの後ろに乗せる事が出来た。イレブン自体に大きな怪我は無く、手のひらを地面に擦ったようで少し血が滲んでいる程度だった。それをすぐさまアネットがホイミで治す。イレブンを助けたまでは良かったが、さすがに3人も乗っていると馬の速度も落ちてしまい、再び放たれたボウガンを避ける事が出来なかった。
「おい!大丈夫か?!」
「なんとか…!」
「アネット!走るぞ!!」
擦りむいた膝から血が滲んでいるアネットの手を引いて旅立ちのほこらへ走り出す。なんとかほこらの中に入ることが出来たが、イレブンがまだ外にいるのにほこらの扉が閉まり始めている。アネットが珍しく大声でイレブンの名前を呼んで、手を伸ばしている。間一髪イレブンは扉が閉まる前にしっかりとアネットの手を取り、気づけば見知らぬ土地へ来ていた。
▽
祠を出るとそこはジメジメというかムシムシというか、今までいたデルカコスタ地方より気温が高い地域のようだった。イレブンもカミュもここが何処なのか分からないようだった。とりあえず近くの町を目指そうと提案したカミュの後を追い、歩いていると池のような所から煙か出ているのを見かけた。
「あれ、燃えてるの?」
「え?…あー。あれはね、燃えてるんじゃなくて水が温かいから湯気が立ってるんだよ」
「ふーん…。水が温かいのはなんで?」
「え、えっと、確かになんでだろう」
「原因はアレだな。あの火山が近くにあるおかげで、水が温まってお湯になってんだろ」
「さすがカミュ。物知りだなぁ」
「……お湯」
火山があるって事はここの場所が分かったな。とイレブンとカミュは地図を広げて現在地を確認し始めた。どうやら近くにホムラの里という町があるらしい。ひとまずそのホムラの里を目指してそこで宿を取ろうという事に決まった。海に寄り道した事もあり、もう日が傾き始めている。久しぶりにベットでゆっくり寝たいね、とイレブンが言うけど私はそのベットという物で寝たことがないから曖昧に頷く事しか出来なかった。
「結局夜になっちまったな」
「ごめんね、キラキラがあったから」
「たくさん素材集まって良かったね」
ホムラの里に着いたのは日が完全に沈んだ頃だった。イレブンと鍛冶の素材になりそうな物を集めていたら、夢中になってしまってカミュに少し呆れられてしまった。ホムラの里はデルカダールとは全然違くて、鉄の匂いがして遠くてカンカンと音がする。散策したそうなイレブンをカミュが説得して、今日はもう宿に泊まる事になった。グレイグ将軍に追いかけられた疲れがあったからか、イレブンの言っていた通りベットが心地よかったのか、私達はあっという間に眠りについた。
「わたくしつい先日、村の奥の方で蒸し風呂屋を開店したばかりでして。今なら先着100名まで無料でご入浴いただけます!この機会、ご利用されないと損ですよー!」
翌日、宿から出ると蒸し風呂屋の店主と名乗る小太りのおじさんに捕まった。カミュは乗り気じゃないけどイレブンは少し興味があるみたいだった。私は別に行っても行かなくてもどちらでも良かったけど、イレブンに「アネットも行きたいよね?」と期待のこもった顔で問われたので、結局「…うん」と答えてしまった。昨日宿で入ったお風呂とは違うらしい。
「僕はもう少し町を見てから行くよ」
「あんまり寄り道しないでくれよ?アネットはオレと一緒に行くか?」
「うん、そうする」
「それでは二名様ご案内〜!」
イレブンと別れ店主に連れられ階段を登って行くと女の子が男の人と何か揉めていたけど、店主は気にせずに進んで行くから私とカミュも足を止めることはなかった。蒸し風呂屋に着くと着替えを渡されて、カミュに念入りに着替えと蒸し風呂について説明されて蒸し風呂に入った。普通のお風呂みたいにお湯が無くて、焼けた石に水をかけて出た蒸気を感じるのが蒸し風呂らしい。入れば分かると言われたけど、私はあの暑さの中じっとしてる事は出来なくて早々に外に出ていた。そこでぱふぱふのお姉さんと話していると、イレブンとカミュが女の子を連れてやって来た。
「アネット、ここにいたのか」
「…お姉さんにぱふぱふの事教えてもらってた」
「いやいや、何教わってんだよ」
「あ、あのねアネット、この子迷子みたいなんだ。だから僕達で連れてってあげようと思うんだけど、どうかな?」
「何処に連れてくの?」
「ほら、ここに来るとき妹を探してる小っこいのいただろ」
赤い帽子の女の子が確かにいたし何を揉めていたのか気になってもいたけど、なるほど妹を探していたのか。イレブンによるとその女の子は里の入口の方へ向かったらしいので、とりあえず蒸し風呂を出ようということになった。ぱふぱふのお姉さんに別れを告げ、女の子が向かったという里の入口へ向かう。その途中でルコ(名前教えてもらった)が私の手を握ってきた。私はその手を握り返すでも振りほどくでもなく、そのままに歩き続けた。
「あたしそんな子知らないけど?」
大人相手に臆することなく話していた女の子に、ルコを引き渡そうとカミュとイレブンが話しかけると、女の子はハッキリと上記のセリフを言い放った。ルコが探していたのはお父さんで、この女の子とは全然関係ないという事。それから女の子が入りたがっていた酒場に行って、女の子の妹の行方を聞きいた。その妹は魔物の住処から逃げ出してきた女の子と入れ違いになったらしく、魔物の住処に向かうことになった。ルコのお父さんもそこにいるかもしれないらしい。
「アンタ、アネットっていってたわね。アンタの事はちゃんとあたし達が守ってあげるけど、アネットもあんまりボーッとしてないでよね」
「うん、…わかった」
女の子は名前をベロニカといった。見るからに年下の女の子に守ってあげると宣言されてしまったけれど、それはどちらかというと逆なのでは無いかと思う。荒野の地下迷宮を目指している最中に魔物に遭遇した時も、立派な両手杖を装備していたから魔術を使えるのだと思っていたけど、ベロニカはその立派な両手杖で魔物を殴りつけていた。それは迷宮についても続いて、私はベロニカに話しかけた。
「ベロニカは魔法使わないの?」
「あー、まぁ、ね」
「大魔法使いなんて言ってたけど、やっぱルコと里で留守番してた方が良かったんじゃねぇか?」
「うるさいわね!コレにはちょっとした事情があるのよ!!」
カミュとベロニカが言い争いを始めてしまった。ベロニカは里でもそうだったけど、なかなか気が強いんだな。
「ねぇ、あれは喧嘩?」
「あれは喧嘩って言うよりじゃれ合い?みたいな感じだから大丈夫だよ」
「イレブンがそういうなら」
イレブンと2人のやり取りを見ていたら、振り返ったベロニカに「さっさと行くわよ!」と言われたから、イレブンの顔を見るとほらねと言わん笑顔でかえされた。