水底に落とす気持ち
「まぁ、お姉様!なんというお労しい姿になられて」
ベロニカが探していた妹は地下迷宮の女神像のある泉の近くで倒れていた。妹の名前を何度も呼びかけているけれど、その妹はベロニカより全然大きくて、私と同じくらいの大きさのように見える。妹ってお姉ちゃんより小さいんじゃなかっただろうか。
「お取り込み中のところ悪いが、セーニャってのはお前の妹なんだろ?いったいどういう事だ?」
「ベロニカの方がお姉ちゃんなの?」
カミュと私が疑問を口にするとベロニカは今までの経緯を話し始めた。ベロニカを攫ったと魔物は色んな人を攫って、魔力を吸い取っていたらしく、ベロニカは魔力を吸い尽くされないように堪えていたら年齢の方を吸い取られた。いうのがベロニカが妹より小さい理由だ。
「つまり、こう見えてあたしはれっきとした年頃のおねーさんなの。これからは子供扱いしないでよね!」
「…うん、わかった」
「アネットは素直でいい子ね」
「それはわかったけどさ……。お前、身体がそんな状態じゃこの先やっていけないんじゃないか?」
カミュの言葉を待っていたかのように、ベロニカは魔力を取り戻すのを手伝って欲しいと言った。セーニャも続けてお願いして来た。ルコの父親も見つけてないからここで帰る訳にも行かないし、イレブンとカミュは困ってる人を放っておく様な人ではない。きっとベロニカの事も、ルコのお父さんの事も助けてくれるに違いない。
「ま、仕方ないか」
「乗り掛かった船ってやつだね」
「ふね?」
イレブンの言うふねがよく分からなかったけど、ベロニカに続いてセーニャも一緒に行く事になったみたいだ。泉の部屋を抜けて少し行くとまた扉があった。
「この奥に魔物がいるはずよ」
「とりあえず、少しだけ扉を開けて中の様子を確認してみようぜ」
右側の扉にの影にイレブンとベロニカとセーニャが、私とカミュは左側の扉の影から中の様子を覗き見ると、青くて丸いトカゲ(?)がペラペラな影にベロニカを逃がしたことに対する文句を言っていた。そうか、ベロニカはここから1人で逃げ出してきたのか。それってすごい事だと思う。説教されてる魔物をぼーっと見ていると突然ベロニカが大声をあげた。悲鳴に驚きベロニカの方を見ると、ベロニカのすぐ後ろに魔物がいてカミュに庇われるように後ずさりするけど、扉の向こうには青いトカゲがいる。
「な……なんだオメーらはっ!?このデンダさまのアジトに勝手に入り込みやがって!」
青いトカゲは入ってきた私達に驚きながらも、取り逃したベロニカを目ざとく見つけて、途端に機嫌が良くなった。ついでに私達の魔力も奪うつもりでいるようだ。トカゲは手下に命令をして私達に襲いかかってきた。
「こうなったらやるしかねえ!イレブン油断するなよ!」
「うん、もちろん。任せて!」
イレブンとカミュが先陣を切って敵に斬りかかるべく走り出した。ベロニカは魔力が無いから魔法を使えない。杖で殴る事も出来るけれど、今までの敵とは流石にレベルが違うからベロニカの分まで私達が戦わないと。あの魔物の足元にある壺の蓋をどうにか開けることが出来れば、ベロニカの奪われた魔力を取り戻す事も出来るみたいだけど。
「チッ、ブレス攻撃が厄介だな」
「カミュ、…ホイミ」
「あぁ、ありがとな。なあアネット、俺にピオラかけてくれねぇか」
「うん、わかった。…ピオラ」
私は難しい作戦とかを考えることが出来ないから、指示されたらその通りにする。今までもそうして来て乗り越えて来たから大丈夫。ピオラをかけ終わるとカミュはありがとなといってイレブンの所へ言って何か話した後、2人でゾーンに入った。私は最初に行った教会にいた『れんけい』を教えてくれた人を思い出した。2人がゾーンに入ると息を合わせた連携が上手くいくと。カミュはきっとそれを思い出して、イレブンを誘ったんだろう。
「行くぜ相棒!ヘマすんなよ!!」
「そっちこそ!」
カミュとイレブンは息の合ったタイミングで走り込み、イレブンが斬り込んでいるうちにカミュは壺を奪い取っていて、息の合った連携に私は思わず手を叩いた。カミュは奪った壺をベロニカへ投げ渡し、ベロニカが壺の蓋を開けると奪った魔力が紫の煙となってベロニカの周りを取り囲んでベロニカの姿が見えなくなった。
「お姉様…っ!?」
「…待って、セーニャあぶない」
「アネットさま……?」
ベロニカに駆け寄ろうとしたセーニャの手を掴んで引っ張る。そしてセーニャを狙っていた手下のカゲに向かって剣を振り下ろした。力いっぱい振り下ろした剣は、かいしんのいちげきとなってカゲを倒すことが出来た。セーニャを守れた事にホッと息を吐いていたら、イレブンがトカゲを追い詰めていた。
「魔王さまの右腕になるというオレさまの野望もここで潰えるのか」
「……魔王?」
「おい、その魔王ってのはなんだ?さっきもそんなこと言ってやがったな」
「いずれ魔王さまにやられちまうオメーらに何を教えたってムダさ……。命あっての特ダネとは…このことよ…」
トカゲはそう言い残して消えていった。その様子を見ていたカミュが小さく「いずれ現れる魔王か」と呟く。魔王の事ももちろん気にはなるけど、私はそっと視線をベロニカに向けた。壺から溢れた魔力の煙は漸くベロニカの姿が見える程度に薄れてきた。しかし現れたベロニカの姿はさっきとまるで変わってなくて、子供のままだった。
「そんな…。魔力は戻らなかったんですね……」
落ち込むセーニャの前にベロニカは指を差し出すと、その指から炎を出した。
「ご心配なく。魔力がアタマのてっぺんからつま先までギンギンに満ちてるのが分かるわ!」
でも年齢までは戻らなかったみたいね、とベロニカは特に慌てた様子もなく自分の姿を確認してでもまぁ若返ったんだからラッキーよね、と明るく笑い飛ばしていた。それにセーニャも笑い返しその姿も愛おしく思えてきたと言って、ベロニカの魔力問題は解決した。
△
ベロニカの魔力を奪ったデンダを倒した僕達は、ホムラの里で待っているルコちゃんのお父さんであるルパスさんを助け出し、再びホムラの里まで戻って来ていた。里に着いた時にはもう深夜になっていたので、翌朝にルコちゃんに会いに行こうという話に纏まりそのまま宿に直行した。デンダ戦で思ったより体力を消耗していたのか、ベッドに入ると数分も経たぬうちに眠ってしまっていた。
そして夜が明けた。
揺さぶられて目を覚ました僕は、どうやら寝坊したようで起こしに来てくれたアネットは身支度も済んでいて先に下に降りてるねと置いていかれてしまった。隣のベッドに寝ていたはずのカミュも居ないから、しっかりと寝過ごしたようだ。身支度を済ませて部屋を出て階段を降りると、僕以外の皆が揃っていて「とても遅いお目覚めで」とベロニカにジト目で挨拶された。
「はよ、よく眠れたみたいでよっかたぜ」
「うん、おはよう。ベッドだとどうしても寝過ぎちゃうね」
「ベッド、ふかふかで私も好き」
アネットは今まであのブラックドラゴンをベッドにして眠っていたらしく、初めてベッドに眠ったおとといは疲れてるはずなのにすごくテンション上がってたな。昨日はベロニカ達と同じ部屋に泊まってもらったけど、ちゃんと眠れたようで良かった。僕らがお尋ね者じゃなかったら、もっとアネットに普通の生活を教えてあげられたのにな。
「宿屋の飯も初めてだったろ?」
「私、ずっとカミュのシチューでもいい」
「カミュのシチュー美味しかったもんね」
「思ってたんだけど、この子ちょっと世間知らず過ぎない?」
うちのセーニャも抜けてるところがあるけど、それとはちょっと違う感じ。とベロニカがアネットを見ながら言う。その事を含めてこれからの事について朝食を食べながら話し合うことになった。朝食のメニューは昨日と同じ麦パンとソーセージとスクランブルエッグ、あとミルクという朝食として珍しくないラインナップだったけど、アネットにとってはご馳走だったようで頬いっぱいにパンを詰め込んでいた。昨日あまりに疲れすぎていたのか、夜ご飯を少ししか食べなかったから今お腹がすいている僕にパンはおかわり自由なのとても嬉しい。
朝食を食べ進めながらもアネットのことを二人に語る。生まれ故郷を魔物に滅ぼされ、生き別れた双子の妹はデルカダール城の地下に隠されるように魔物と過ごしてきたことをこれまでの僕の生い立ちと共に伝えた。
「やっと聞いてもらう時がきたわね。勇者であるアンタたちとあたしたち姉妹の使命について……」
ベロニカとセーニャは神話の一説を語り、僕らをその神話に出てきた勇者の生まれ変わりだと言った。テオじいちゃんも母親の手紙にも勇者だと書かれていた。そっと左の手の甲にあるアザを見る。今まで変な形のアザだとしか思って無かったけど、アネットの右手の甲にも同じ形の紋章があるのをのぞき見る。
「邪悪の神は倒されたはずなのに、なぜ勇者がこの世に生を受けたのか……。それはあたしたちにもわからない。そこで真実を突きとめるるためにアンタたちを勇者とゆかりの深い、命の大樹へ導く使者としてあたしたちが大抜擢されたってワケ」
得意げにそう言ってベロニカは、ミルクの入ったグラスをお酒のようにあおる。初めて会ったときに意味深に何かを呟いていたのは、この勇者の力を感じていたからだったんだろう。
「命の大樹か。そこに行けばすべての謎が明らかになるってんだな?じゃあ、さっさとそこに行こうぜ」
「アンタってホント考えなしね。命の大樹って空に浮かんでいるのよ。カンタンに行けると思ってんの?」
「かつて邪悪の神と戦った勇者様は、空を渡り大樹から使命を授かったそうですが、その記録も時の流れに埋もれてしまいました」
「なんだよそれ?あんたらにも分からないってことかい?」
てっきり僕も二人は大樹への行き方を知っていて、その上で僕らを探しているのかと思っていた。命の大樹の根元にとてつもなく長い梯子があってそれを上っていくみたいな。と考えながらもパンをちぎりながら話を大人しく聞いていく。
「うん?待てよ。何か分かるかもしれねぇぜ」
カミュがフォークをクルッと回してそう言った。曰く昨日助けたおじさんは界隈で有名な情報屋で、もしかしたら命の大樹についても何か知ってることがあるかもしれないと。ルパスって名前に何か引っかかってるような事を言っていたけど、情報屋の名前だったからだろう。話を聞くにしても宿屋にはルパスさんは泊まっていないようだった。
「たしか迷子のお嬢さんを迎えに酒場まで戻るとおっしゃっていましたね。とりあえず朝食の後は酒場まで行ってみましょう」
「うん。そうだね」
それから程なくして皆が朝食を食べ終わり、酒場へ向かっている最中にアネットが僕の袖を引っ張ってきた。どうしたの?と声をかけると少し悩んでるようで、眉間に少しシワを寄せていた。
「セーニャが言っていた神話に出てきたのは邪悪な神」
「うん、そう言ってたね」
「昨日のトカゲの魔物が言っていたのは魔王さま」
「あー、確かに。魔王さまって言ってたね」
「敵は二人いるってこと?」
「え?」
いや、神話の邪悪な神は勇者が倒したからもういないはずだし、魔王っていうのも本当か分からないし。
「命の大樹に行けばわかるのかな、たぶん」
「ふーん、そっか」
元からさして興味が無かったのか、明確な答えがもらえなかったから興味をなくしたのか、分からないけれどアネットはあっさり納得して歩き出した。ドキドキしてしまった。あんまり詳しく皆の話を聞いていなかったのがバレたのかと思った。
「おーい、イレブン!はぐれるなよ!」
「う、うん!今行く!」
酒場に着くとカウンターに親子で並んで座っているルパスさんとルコちゃんがいた。入れ違いにならなくてよかったと思ったのと同時に、あれからずっとここで飲んでいたのかという疑問が浮かんだ。ルパスさんはカミュの言った通りに情報屋で、生まれつきの不運体質を逆手にとって厄介ごとに巻き込まれながらもそれをネタに商売しているらしい。そんなルパスさんから命を助けたお礼に得た情報は、砂漠の大国サマディーにキラキラと七色にかがやく枝を見かけたという物。
「お城の中に七色にかがやく枝ですってっ!?行ってみる価値はありますわ!」
「そうね。枝とは言え命の大樹。ずっと輝き続けるってことは勇者を導いてくれるに違いないわ!」
嬉しそうにセーニャが声を上げると、ベロニカも嬉しそうに声を弾ませた。僕とアネットはただ静かに事の成り行きを眺めていた。情報屋のことを思い出したカミュのことをベロニカが褒めると、得意げに鼻を鳴らして腕を組んだ。そうして、次の目的地が決まった。
「それではお姉さま、ひとまずサマディーに向かいましょう。ここから南西の関所を抜けて進んでいけば、サマディー王国にたどり着けるはずですわ」
砂漠にあるオアシスの周りに作られた国がサマディーだと補足を受け、水ややくそうを買いそろえてから出発する事になった。ホムラの里もイシの村に比べたら相当暑い所だったけれど、サマディーはもっと暑い所らしい。村を駆け回っていた僕はともかく、アネットはずっと地下にいてお日様を浴びてきてないから少し心配。たくさん水分補給させよう。
各々分担して色々買い物をしてから里の入り口で集まる事になり、僕とアネットは水と食料を頼まれたから市場に向かった。食料の買い出しは自分たちが好きな食材を買うことができる事だと思う。アネットにキャンプで何が食べたいか聞くと、「シチュー」とすぐに返ってきて「僕もシチュー食べたい」と大きい声で返してしまい近くにいた主婦に笑われてしまった。ここに来るまでのキャンプでカミュが作ってくれたきのこがたくさん入ったシチューも美味しかったけど、お母さんが作ってくれた鶏肉とカボチャが入ったシチューも美味しいからアネットに食べてもらいたい。だからちょっと荷物になるけど沢山買い込んでしまった。入り口に行くと皆もう集まっていて僕らの持った荷物にカミュは苦笑いを浮かべながらも少し荷物を持ってくれた。そして出発する直前にベロニカに呼び止められて一度行った街に簡単に移動できる呪文を教えてくれた。
「「イレブンさま、アネットさま。これから先長い旅になると思いますが、私たち姉妹をどうかよろしくお願いいたします」」