日陰で育った花は黒い
ヴァンが教えてくれるのはその日によって違うけど、最近ではもっぱら譜術について教えてもらっている。私が元々譜術を扱うのが苦手で術暴走を起こしてしまうのを誰かがチクりやがったから、譜術の基礎を徹底的に叩き込まれている。幸い譜術の素養はあるみたいで、詠唱は問題ないんだけど発動しようとすると、威力が強すぎたり弱すぎたりどうも上手くコントロールが出来ないのだ。それで演習場を氷漬けにしてしまいそれをチクられたという訳だ。
「お前はホントにコントロールが下手だな」
「それだけの威力を持ってるなら、コントロールできればいい戦力になるのにね。コントロールできれば」
ヴァンとシンクは味方識別を登録しているからダメージは無いけれど、今日も豪快に凍らせてしまい上記のダメ出しを喰らった。悔しいけどシンクの言う通りでコントロール出来ないと連携もままならないし、下手すると味方にダメージを与える可能性だってあるのだから私を簡単な街の警備や譜術使用を禁止されたりするんだ。
「音素を集め過ぎてしまうのが原因だとするなら、制御アイテムをディストに作ってもらうのも1つの手だな」
「え、……ディストに?」
「なんだ、嫌か?」
「あー、別に制御アイテムが嫌なわけじゃないけど。ディストってほら、薔薇とかフリフリ好きじゃん。ああいうのは無理。嫌」
自分のことを薔薇のディストって言ってるような奴のセンスは理解できないし、したくない。でもまあ、アニスのぬいぐるみを武器に改造してしまうなんて凄いとは思うけど。
「そんな事言ってる暇なんて無いんじゃないの?アンタこのままコントロール出来ないと任務に出してもらえないか、出してもらえたとしても連携取れずに死ぬだけだよ」
その通りだ。素直にそう思った。だけどディストってあんまりいい噂を聞かないし、前に1度だけ話したことがあるけどすごい上からモノを言うから腹が立ってそれ以来会話をしていない。ディストもヴァンの計画に加担しているみたいだから、いずれは話すことになるとは思っていたけど。
「……ディストの所に行ってくる」
「ああ、その方がいいだろうな」
「時間までに戻って来なかったら解散でいいから」
「わかった、行って来なさい。ディストも悪い奴ではない」
ヴァンは大雑把に私の頭を撫で付けて、送り出してくれた。ヴァンは撫で方が雑なんだよ、ボサボサになった髪を直しながら第二師団へ向かう。第二師団はどこから行っても遠い場所にあるから行くのでさえ面倒なのに、その上ディストと会話をしなくてはいけないというダブルで面倒臭い所なのだ。ディストと深い関わりがあったわけじゃないけど、それでも彼の面倒臭さは神託の盾では有名な話だ。だから足取りが重くなるのは仕方の無いことだと主張したい。
「私が音素のコントロールが完ぺきだったらあんな変人の所に行かなくても済んだのに…」
愚痴を零した所で音素のコントロールが出来るようになる訳じゃないし、第二師団に向かわなくてはならないのも変わらない。足取り重く辿り着いたディストがいるであろう第二師団研究室の扉を叩くが、当の本人が出てこない。本当にいないのか、研究に夢中で気づかないのか、それとも居留守か。
「失礼しまーす。ディストさんいますかー?」
ドアを開け研究室に入るが、誰もこちらを見ない。只でさえイライラしてるのにこうして無視されると態度が悪くなっても不思議な事ではないだろう。もう一度大声で呼びかけると、奇声を発しながら奥の方からやっと出てきた。
「うるさいですよ!!大声で呼ばなくても聞こえてます!!!」
「じゃあさっさと出てきてください」
「おや、アナタはヴァンが拾って来た小娘じゃないですか。何の用ですか?」
人を小娘呼ばわりする失礼なコイツが自称『薔薇』のディスト。通称『死神ディスト』だ。音素を研究しているらしいけど、ぶっちゃけどういう事をしているのかは私には難しいので詳しくは知らない。でも健康診断も第二師団が担当する事もあるみたいだから、幅広い音素を研究しているんだろう。前に話した時が私の健康診断をした時のことだ。
ヴァンとシンクに言われた事をザックリ説明して、譜術を上手く扱えない旨を伝える。音素をコントロールできるようなアイテムを作って欲しいと言った所で、ディストは1度詳しく調べるからと奥の健康診断の時にも寝かせられた厳つい譜業にまた寝かせられた。
「音素を集めすぎてしまうというのは、おそらくアナタ自身のフォンスロットが開き過ぎているからでしょう。封印術を使えば音素を集めすぎてしまう事は無くなると思いますが、その分身体にも影響が出てしまうため今度は譜術以外で不便が出るでしょうね」
「速く動けなくなるのは困るんだけど」
「でしょうね。ヴァンからアナタの戦闘スタイルは聞いたことがあります。少し面倒ではありますが、この薔薇のディスト様がアナタが求める物を作ってさしあげましょう!」
ペラペラ喋り倒したと思ったら、その後採血や血圧なんかを測ってから部屋を追い出された。健康診断を受けただけのような呆気なさで、その記録で何が分かってどうやって制御アイテムを作るのかさっぱりわからん。略してさぱらん。まあ、説明されたとしてもさぱらんと思うけれど。ただその制御アイテムの扱い方が簡単な事を願うばかりだ。
息を1度大きく吐き出してから訓練場へ向かう。思ったより時間がかかったからきっとヴァンもシンクも稽古を終えていないだろうけど、いつもヴァンがいなくなってから自主トレをしているから、今日もやって行こうと思った。成人男性ばかりの騎士団で、皆について行こうとするとやはり他の人達よりも何倍も努力しなければ、体力面も精神面も追いつかない。行きよりは軽くなった足取りで訓練場に辿り着くと、シンクが1人でそこにいた。
「思ったより遅かったじゃん」
「どうしているの」
「アンタなら暴れ足りなくて戻って来ると思ったから。ボクも自主練したかったし」
動かない人形相手よりも対人の組手の方が実戦向きだし、有難い申し出だと思うけれど、素直に受け入れる事が出来ない。他の団員と違ってヴァンに目を掛けられてるのは互いに認知しているからそれを妬む事は無いと思うけど、私に関係ない事でストレス発散の為に組手と称したサンドバッグにされる可能性もある。私が訝しがってるのが伝わったのか、シンクは仮面をしていても分かるくらいの呆れを滲ませた。
「他の奴みたいにアンタを痣だらけにする趣味は無いから安心してかかってきなよ」
「それって手を抜いてやるって事?」
「そう聞こえたならそうなんじゃない?」
仮面の下で嗤う口元が見えた。挑発だと煽って私をその気にさせようとしているのだと、気付いたが私はその挑発に乗ってしまったのだ。
「エルナはお前と似た戦闘スタイルだから、互いに切磋琢磨し合えば必ずその努力は報われるだろう」
「アイツも拳闘士なの?あんなにひょろひょろの奴が?」
「拳闘士ではないが、身軽で素早い団員が多い第五師団で今一番身軽なのは間違いなくエルナだろうな」
ヴァンのそれは娘を自慢する父親のような贔屓目があるだろう。だけど父親と違う決定的な所が、そこに含まれる期待が【駒】としてしかないという事だ。それにエルナが気づいているのかは定かではないが、気づいていたとしても気づいていないとしてもどっちにしろ“可哀想”な奴だ。
「ああ、なるほどね」
ヴァンがボクらを似てると称したのは、そういう事か。
「お前はホントにコントロールが下手だな」
「それだけの威力を持ってるなら、コントロールできればいい戦力になるのにね。コントロールできれば」
ヴァンとシンクは味方識別を登録しているからダメージは無いけれど、今日も豪快に凍らせてしまい上記のダメ出しを喰らった。悔しいけどシンクの言う通りでコントロール出来ないと連携もままならないし、下手すると味方にダメージを与える可能性だってあるのだから私を簡単な街の警備や譜術使用を禁止されたりするんだ。
「音素を集め過ぎてしまうのが原因だとするなら、制御アイテムをディストに作ってもらうのも1つの手だな」
「え、……ディストに?」
「なんだ、嫌か?」
「あー、別に制御アイテムが嫌なわけじゃないけど。ディストってほら、薔薇とかフリフリ好きじゃん。ああいうのは無理。嫌」
自分のことを薔薇のディストって言ってるような奴のセンスは理解できないし、したくない。でもまあ、アニスのぬいぐるみを武器に改造してしまうなんて凄いとは思うけど。
「そんな事言ってる暇なんて無いんじゃないの?アンタこのままコントロール出来ないと任務に出してもらえないか、出してもらえたとしても連携取れずに死ぬだけだよ」
その通りだ。素直にそう思った。だけどディストってあんまりいい噂を聞かないし、前に1度だけ話したことがあるけどすごい上からモノを言うから腹が立ってそれ以来会話をしていない。ディストもヴァンの計画に加担しているみたいだから、いずれは話すことになるとは思っていたけど。
「……ディストの所に行ってくる」
「ああ、その方がいいだろうな」
「時間までに戻って来なかったら解散でいいから」
「わかった、行って来なさい。ディストも悪い奴ではない」
ヴァンは大雑把に私の頭を撫で付けて、送り出してくれた。ヴァンは撫で方が雑なんだよ、ボサボサになった髪を直しながら第二師団へ向かう。第二師団はどこから行っても遠い場所にあるから行くのでさえ面倒なのに、その上ディストと会話をしなくてはいけないというダブルで面倒臭い所なのだ。ディストと深い関わりがあったわけじゃないけど、それでも彼の面倒臭さは神託の盾では有名な話だ。だから足取りが重くなるのは仕方の無いことだと主張したい。
「私が音素のコントロールが完ぺきだったらあんな変人の所に行かなくても済んだのに…」
愚痴を零した所で音素のコントロールが出来るようになる訳じゃないし、第二師団に向かわなくてはならないのも変わらない。足取り重く辿り着いたディストがいるであろう第二師団研究室の扉を叩くが、当の本人が出てこない。本当にいないのか、研究に夢中で気づかないのか、それとも居留守か。
「失礼しまーす。ディストさんいますかー?」
ドアを開け研究室に入るが、誰もこちらを見ない。只でさえイライラしてるのにこうして無視されると態度が悪くなっても不思議な事ではないだろう。もう一度大声で呼びかけると、奇声を発しながら奥の方からやっと出てきた。
「うるさいですよ!!大声で呼ばなくても聞こえてます!!!」
「じゃあさっさと出てきてください」
「おや、アナタはヴァンが拾って来た小娘じゃないですか。何の用ですか?」
人を小娘呼ばわりする失礼なコイツが自称『薔薇』のディスト。通称『死神ディスト』だ。音素を研究しているらしいけど、ぶっちゃけどういう事をしているのかは私には難しいので詳しくは知らない。でも健康診断も第二師団が担当する事もあるみたいだから、幅広い音素を研究しているんだろう。前に話した時が私の健康診断をした時のことだ。
ヴァンとシンクに言われた事をザックリ説明して、譜術を上手く扱えない旨を伝える。音素をコントロールできるようなアイテムを作って欲しいと言った所で、ディストは1度詳しく調べるからと奥の健康診断の時にも寝かせられた厳つい譜業にまた寝かせられた。
「音素を集めすぎてしまうというのは、おそらくアナタ自身のフォンスロットが開き過ぎているからでしょう。封印術を使えば音素を集めすぎてしまう事は無くなると思いますが、その分身体にも影響が出てしまうため今度は譜術以外で不便が出るでしょうね」
「速く動けなくなるのは困るんだけど」
「でしょうね。ヴァンからアナタの戦闘スタイルは聞いたことがあります。少し面倒ではありますが、この薔薇のディスト様がアナタが求める物を作ってさしあげましょう!」
ペラペラ喋り倒したと思ったら、その後採血や血圧なんかを測ってから部屋を追い出された。健康診断を受けただけのような呆気なさで、その記録で何が分かってどうやって制御アイテムを作るのかさっぱりわからん。略してさぱらん。まあ、説明されたとしてもさぱらんと思うけれど。ただその制御アイテムの扱い方が簡単な事を願うばかりだ。
息を1度大きく吐き出してから訓練場へ向かう。思ったより時間がかかったからきっとヴァンもシンクも稽古を終えていないだろうけど、いつもヴァンがいなくなってから自主トレをしているから、今日もやって行こうと思った。成人男性ばかりの騎士団で、皆について行こうとするとやはり他の人達よりも何倍も努力しなければ、体力面も精神面も追いつかない。行きよりは軽くなった足取りで訓練場に辿り着くと、シンクが1人でそこにいた。
「思ったより遅かったじゃん」
「どうしているの」
「アンタなら暴れ足りなくて戻って来ると思ったから。ボクも自主練したかったし」
動かない人形相手よりも対人の組手の方が実戦向きだし、有難い申し出だと思うけれど、素直に受け入れる事が出来ない。他の団員と違ってヴァンに目を掛けられてるのは互いに認知しているからそれを妬む事は無いと思うけど、私に関係ない事でストレス発散の為に組手と称したサンドバッグにされる可能性もある。私が訝しがってるのが伝わったのか、シンクは仮面をしていても分かるくらいの呆れを滲ませた。
「他の奴みたいにアンタを痣だらけにする趣味は無いから安心してかかってきなよ」
「それって手を抜いてやるって事?」
「そう聞こえたならそうなんじゃない?」
仮面の下で嗤う口元が見えた。挑発だと煽って私をその気にさせようとしているのだと、気付いたが私はその挑発に乗ってしまったのだ。
「エルナはお前と似た戦闘スタイルだから、互いに切磋琢磨し合えば必ずその努力は報われるだろう」
「アイツも拳闘士なの?あんなにひょろひょろの奴が?」
「拳闘士ではないが、身軽で素早い団員が多い第五師団で今一番身軽なのは間違いなくエルナだろうな」
ヴァンのそれは娘を自慢する父親のような贔屓目があるだろう。だけど父親と違う決定的な所が、そこに含まれる期待が【駒】としてしかないという事だ。それにエルナが気づいているのかは定かではないが、気づいていたとしても気づいていないとしてもどっちにしろ“可哀想”な奴だ。
「ああ、なるほどね」
ヴァンがボクらを似てると称したのは、そういう事か。