月永先輩のお誕生日が5月5日だと知ったのが1週間前。そしてこの1週間何かと忙しくてプレゼントを買う時間も作る時間も無くて用意出来てない上に、お誕生日の当日である今日も夜までお仕事があって月永先輩に会えずじまいで私のメンタルはボロボロになっていた。一応、月永先輩にはお誕生日おめでとうメールを朝にしておいたけど、でもやっぱり会って直接おめでとうを伝えたかったな。
夢ノ咲学院は相変わらず色んなフェスというかイベントが企画されているからなかなかハードだなと思う。あんず先輩も居るには居るけれど、P機関(?)とかにも参加されているみたいだから去年ほど会えていない。瀬名先輩は海外と聞くし、司くんやお姉ちゃんそれから凛月先輩も新しいKnightsのメンバーの指導とかで何だか忙しそうだし、ゆうたくんも忍くんも同じような感じでゆっくりお話出来ていない。
結局、私が何を言いたいかというと。
「すごく、さみしい…」
新年度で環境が変わってみんな忙しいのはわかってる。きっとこのGWが終わる頃にはそれなりにみんな落ち着いてきて、放課後にお茶とか出来る余裕とかも出てくるのもわかってる。でも、もうなんか、今、とてつもなく寂しい気持ちなのだ。
「そういえば司くんが、事務所で月永先輩のお誕生日パーティーをするって言ってたような」
ああ、でも私プレゼント用意出来てないんだった。プレゼントも用意しないでパーティーだけ参加なんて出来ない。去年すごくお世話になったのに、プレゼントも用意出来ないなんて、もうめちゃくちゃ失礼。そんな恩知らずと思われたくない。
私は有難い事に、天祥院先輩の恩恵でSTARMAKER PRODUCTION、略してスタプロに所属している。だから月永先輩とは事務所が違う為、事務所に用がありました〜みたいな策も使えない。もう本当に『ぴえん』て感じだ。
普段の学校の帰り道より足取りが重いのは、きっと今日はライブもあって疲れているのもあるだろう。愛用のリュックがいつもより重い気がするのも、情緒がちょっとだけ不安定なのも全部疲れているから。ちょっとだけ公園で気分転換してから帰ろう。そうしよう。そう思い立った私の行動は早かった。渡ろうとしていた横断歩道を引き返し、学院から近い公園へ小走りで向かう。不思議と足取りが軽くなった気がする。
公園に着いた私は目的が合った訳じゃないので、とりあえず自販機で缶ジュースを買って手頃なベンチに座った。都会の夜空は真っ暗で星なんて見えないけど、月は今日も空で輝いている。
「今日は満月なのかな?」
「いや、満月は明後日だったはずだぞ」
「へー、そうなんですね。あんなに遠いと満月じゃなくても丸く見えますね」
へらっと笑い手元のジュースに視線を向けた所で私は止まった。
「ばぁ!」
「!!?!」
「わはははは、相変わらず面白いな」
なんで月永先輩がここに?とか、事務所でパーティーのはずでは?とか、いつからいたんですか?とか、頭の中で疑問がたくさん浮かんだけれど、パニックになった私の口から溢れ出たのは当たり障りのない挨拶だった。
「こ、こんばんは。月永先輩」
「うん。こんばんは、なまえ」
最初からそこにいたかのように、私の隣に座っている月永先輩にすごく懐かしい気持ちになった。月永先輩が卒業してからこうして会うのは初めてだったはず。海外で仕事をしたりしてるみたいだから、会う機会自体少ない。そんな月永先輩がこうして私の隣にいるのが何だか夢を見てるみたいだ。
「調子はどうだ?後輩に虐められたりしてないか?」
「いじめられてないです。」
「虐められたらすぐスオ〜に言うんだぞ。確か今年も同じクラスだったよな?」
「はい、あんず先輩が1年過した2-Aです」
本当に変わらずにあんずの事が好きなんだな、と笑う月永先輩。その姿がいつもそこに合ったような普段通りで、私の視線はまた缶ジュースに戻ってしまう。もっと言いたい事あったはずなのに、その言葉は私の口から出て来なかった。
「あんずから聞いたよ。最近1人で頑張ってるって、なかなか会えないから少しだけ心配だ、とも言ってたな」
「だってみょうじ、魔法少女だから…」
「ははは、それ懐かしいな!」
泣きたくなんてなかったのに、ポロポロ涙が溢れて来て、月永先輩は私が泣いてるのに気づいて慌てたように
「みょうじ、月永先輩に、おめでとうもちゃんと伝えたいし、……っ、プレゼントだって用意したかったんですっ」
「うん、うん。大丈夫だから落ち着いて、な?」
「うっうっ、月永先輩を困らせたくないのに…」
月永先輩は私の頬に両手を添えて親指で涙を拭ってくれた。ほら月永先輩困ってるから泣き止んでよ、涙止まってよ。
「おれのために悩んで泣いてくれてありがとな。ほら、もう大丈夫だから、おれのお願いきいて?」
「グズッ……お願いですか?」
「うん、それがプレゼントでいいよ」
月永先輩が涙を拭ってくれたからボヤけていた視界が晴れて、優しく微笑んでる月永先輩が見えた。なんでそんなに優しい顔をしているんだ。そんな顔されたらまた涙が止まらなくなっちゃう。
「ああ、よしよし」
止まらない涙にとうとう月永先輩が私を抱きしめて背中をポンポンと撫でて、私が泣き止むのを待ってくれた。しばらく涙が止まらなくて月永先輩の肩を濡らしてしまった。月永先輩が着てたジャケットの裾の端を控えめに握って、涙よ止まれ止まれと念じ続けた。
「なあ、このままでいいから聞いてもらっていい?」
「ぅぅ……はい」
「今だけでいいから、今だけでいいからさ、おれのこと名前で呼んでよ」
「なまえ?」
「うん、レオって呼んで」
子供をあやすような声で頭を撫でながら言われたお願い。鼻をすすってゆっくり息を吸った。
「れ、レオさん…」
「うん、なまえなんだ?」
「レオさん、お誕生日おめでとうございます」
「あはは、ありがとうな」
「レオさん好きです…ぅぅぅ」
「おれも大好きだ!愛してるよ」
「うわぁぁん」
「あはははは、もうお前大丈夫か?」
さらに泣き出した私にレオさんは笑い出した。それから私が泣き止むまでレオさんは、海外での話とか今日のパーティーの話を聞かせてくれた。レオさんがこんなに長く作曲をしないのは初めてかもしれない。
「ほら、そろそろ帰らないとお母さん心配するぞ」
「はい…。今日会えて嬉しかったです」
そっと体を離して前髪を流すように撫でて「明日休みでよかったな」と遠回しに顔が酷いと言われた。家帰ったらちゃんと冷やさないと。
「ね、最後にちゅーしていい?」
「はい、いいですよ。………えっ」
今、レオさんなんて言った?私間違った答えを言ったような。と思っているうちにレオさんの顔が近づいてきて唇にあったかいのが触れた。チュッと音を立ててゆっくり離れていき、コツンとおでことおでこがくっついた。
「やっと涙止まったな」
「…すごくドキドキしてます」
「おれもドキドキしてる」
本当に帰らないと怒られちゃうな!と言って私の手元に転がっている結局開けもしなかった缶ジュースをレオさんはポケットに入れて、流れるように私の手を取って立ち上がった。私はその手をぎゅっと握り返した。
色とりどりの愛で
「明日からまた海外に行くから、またしばらく会えないけど泣くなよ?」
「泣かないです!!」
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