昔々、とある村があったんだと。その村は、昔っからある神さまの人形を、それはそれは大事にまつっていた。割れれば、米でのりを作ってくっつける。腐れば削って、新しい木を継ぐ。そうして、何年も何年も人形を守っていたそうな。
 神さまの人形は、いつもふたつ一緒にまつられていた。体はどちらも棒のようなかたちだったが、片方の頭は人間の男、もう片方の頭は馬のかたちだったんだと。神さまの人形は、いつもふたつ揃って、村のお堂に置かれていた。
 村人たちは毎日毎日、雨の日も嵐の日も、人形の前に米や野菜を備え、手を合わせて祈っていたそうな。一日でもお祈りを欠かせば、たたられるものだと、皆思っておった。
 さて、ほんとうに人形に神さまが宿っておったのか、村には大きな災いもなく、平和に時は流れていったんだと。

 ところがある日、村に大きな大きな雷が落ちてきた。
 ごろごろ、びかり。ごごーん。
 ふしぎなことに、雷は村人の家にはまったく落ちてこなかったそうな。代わりに、お堂にまっすぐ落ちていくのを見ていた村人たちは、こりゃあたいへんだとお堂に走ったんだと。
 あわててお堂の中を見てみると、大事な大事な神さまの人形は、男の頭のほうが焼けてまるごと無くなっていた。
 おかしなこともあるもんだと思った村人もいたが、何よりたいへんなのは人形の頭が片方、まるごと無くなってしまったことだ。
 代わりを作ろうにも時間がかかる。それまで片割れの頭がないままにまつるのは、恐ろしくってできやしない。

 そんなとき、ある村人が言ったそうな。
 こどもの頭だ。こどもの頭を、人形の頭ができるまで代わりにしよう。
 たしかに、人形は村のこどもと同じくらいの大きさだった。そして、おそろしいことに反対する村人はひとりもおらんかったんだと。

 その日の夜に、人形にいちばんぴったりな頭をしたこどもが、お堂へ連れてこられた。こどもはずうっと泣いていたが、連れてきた村の男どもは、だれも耳を貸さない。
 ずぱん。
 こどもの首は鉈で落とされ、血をきれいに拭って置かれた。こどもが祟ることのないようにと、村のばば様にしっかり弔われ、あたらしい神さまとして祀られたそうな。

 雷が落ちたあと、村はまた平和になった。
 しかし、ある日とつぜん、ばたばたと村人たちは死んでいったんだと。村のばば様が最初に。次に大人たち。こどもたちは最後まで残っていたそうだが、こどもたちがどうなったのかは、誰も知らない。

 そうして人はいなくなり、村はゆっくりと廃世にのまれて、その一部となりましたとさ。
 


 「どんとはれ。」


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