「…え、今なんて?」
次の任務を言い渡されたあと、軽く雑談をしていた最中で持ち込んだ私の話に、コムイは驚いた様子で軽く目を見開き聞き返してきた。
幻聴が聞こえたとでも言う様な口振りに、思わず失笑してしまいそうになる。
何度聞いたって、変わりはしないのに。
「別れましょう、私達」
「…何で?僕達ずっと上手くいってたじゃないか」
焦っている様子で肩を強く掴まれる。
この痛みは、今この瞬間が現実のものである事を証明している。
そう思うと、この痛みが心地良いと感じる。
だからこそ、言うのだ。
言わなければいけないのだ。
「僕の事が嫌になった?それとも他に好きな人が出来たのかい?」
「違うわ。好きな人が出来た訳でも、ましてやコムイが嫌いになったからではないの。今でも貴方の事は、一人の男性として好きよ」
「なら…!」
「でも、この事は付き合ってからずっと考えていた」
「…」
「こっぱずかしい事を言うと、私達がお互いを想う気持ちが強くなってしまった。それは、いけない事だと思うの。
貴方は科学班の人間で私はエクソシスト。お互いいつ死ぬかも分からない状態で交際を続けていくのは、どちらか先に亡くなってしまった時の喪失感が大きすぎる。
もしそのせいで任務に支障が出てしまったら…?そう思うと、私は怖くてしょうがなくなってしまう。だから…」
「むつき…」
「それに、折角コムイは室長になってリナリーもやっと回復したんだから、コムイはリナリーの事だけ考えていれば良いのよ。
私は今まで通り、エクソシストが不足してる分世界を飛び回らないといけないから、会ってる暇ないしね」
そう言って無理矢理笑顔を作り、有無を言わせない雰囲気を作る。
すると、何か言いたげに口を開いては閉ざしてを数度繰り返し、コムイは目を瞑って息を吐いた後、目を開けて視線を合わせてきた。
「……本当に、僕の事が嫌いになった訳じゃないんだよね。これからの為なんだよ、ね」
「ええ」
「じゃあ、しょうがないね。分かったよ」
そういうと、コムイは悲しそうな色を含んだ笑顔を見せた。
なけなしの良心が痛んだが、これで良かったのだと自分に言い聞かせていると、コムイがゆっくりと顔を近付けてきた。と、すぐに唇に軽く触れるだけの優しいキスが、降ってきた。
「でも、今日までは、恋人同士でいさせて欲しい。
女々しい事を言ってるのは分かってる。けど…」
顔を見られたくないのか肩に顔を預けて、きつくきつく、抱き締められる。
言葉とは裏腹に、離れたくないと言っているようだ。
コムイは優しい。だから、私はその優しさにつけ込んだ。
でも、彼はそれを咎めも卑下もしない。
それが、さらに私の良心を痛めた。
「…分かったわ」
そっと、コムイの背中に手を回す。
目を瞑って、息を吸う。
コムイの纏っている香りが鼻をくすぐって、安心して息を吐く。
大丈夫、大丈夫だ。
そう強く念じる。
きっと、上手くいくと。
(その日の夜は、どこまでも濃く、胸焼けを起こしそうなほど甘ったるかった)
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