同性しかいないスクールでは、特定の人物が異性の代わりのようになり人気が出ることがある。
例えば女性しかいないスクールでは背が高くボーイッシュな人物が男子生徒の代わりに女性から人気が出るし、逆に男性しかいないスクールではその逆で小柄な男子生徒が女子生徒の代わりに男性から人気が出ることがある。

それは、ナイトイレブンカレッジも例外ではなく、厳格で怒らせると大変恐ろしい目にあうといわれるハーツラビュル寮の寮長であるリドル・ローズでさえ小柄で中世的な見た目のためか密かに人気があり、更には彼に踏まれたいという特殊性癖を持つ猛者もいるらしい。
また、今年カレッジに入学した一年生のエペル・フェルミルも、儚げで可憐な見た目のおかげで入学早々から着実に上級生・下級生を問わず男子生徒の心を射止めているらしい。
そして、小柄で中世的な見た目を持つという点では僕、むつき・藤崎も例外ではなく、不本意ながら一部の男子生徒から時折恋慕を匂わせる手紙やら告白やらを受けることがある。

とある日のこと、自分は関わった覚えのない生徒から呼び出しを受けた。
人気のない廊下まで付いていったところ「今日はいい天気ですね」という当たり障りのない会話から始まり適当な話が延々と続き、どう返していいかわからなかった結果「はあ」「そうですか」などと適当に相槌を打っていたところ、いきなり会話の内容が変わり「最近君のことが気になりはじめて…」と告白劇が展開された。
僕に告白をしてはいるけれど、「今まで女性が好きだった」などと言っていたことから、たぶん目の前にいる生徒はもともと恋愛に関してはノーマルなのだろう。
それが同性しかいないカレッジでの生活を送っている結果、脳が麻痺(という名の故障を)してしまい、異性のようで無害そうな見た目をしている僕が目に留まってしまい、恋と勘違いしているだけなのだろうな…。などと相手を憐れむような思考は胸に留めるだけにして、ひたすら相手の会話が終わるのを待ち、断りの返事を入れるタイミングを量っていた。

「…だから、もしよければ僕と恋人として付き合ってほしいんだけど。」

やっと終わったか。と内心でため息を吐く。
いくら呼び出したのが放課後とはいえ、突っ立っている状態ではじめて出会った頃から告白までの長い道のりを延々と語られるのはとても辛かった。
今後告白するときは相手の気持ちを考えて簡潔に告白するか「長くなるんだけど…」と前置きをして椅子などを用意してから告白したほうがいいよ。とアドバイスをしたくなってしまうほど長い告白だった。
こんな自分語り込みの長話をする人間と誰が付き合うのだろう。
少なくとも僕は付き合いたいとは思わないけれど、もしこれで付き合うという人間がいるなら是非僕の前に連れてきてほしい。と思う反面、これで告白をバッサリ断れると思うと疲れてきていた足が少しだけ軽くなった気がした。

「ごめん。君の気持ちは嬉しいけど、君の恋人として付き合うことはできない。」
「…っ、どうしてか教えてもらえるかい?」
「カレッジを卒業するまでは、勉強に力を入れたいんだ。それに、」
「むつきさん。」

告白を断っている途中、突如として僕たち以外の声が割って入ってきた。
一見、物腰の柔らかそうな人物の声に聞こえるが僕にはわかった。
その声は、少しの怒りを孕んでいることを。
告白してきた相手は、不快そうに眉を寄せて、割って入ってきた声の主のほうへ振り返る。
そして、声の主が誰かを確認した途端、一気にその顔が青ざめていった。
そこには、オクタヴィネル寮の副寮長であり物腰は柔らかだが、やることは双子の片割れのフロイド・リーチよりえげつないと評判のジェイド・リーチがいたのだ。

「あ、あ…。」
「やっと見つけました。今日むつきさんはモンストロ・ラウンジの当番なのに、なかなかいらっしゃらないので探しに来てしまいました。」
「…それはどうも。手間をかけてしまって申し訳ない。」
「いえいえ。アズールにも貴方を探してこいと言われましたので。」

こちらの社交辞令など気にも留めていないといわんばかりににこりと笑って応えたジェイドは、そのまま僕の横まで近づいてくるや否や僕の肩に手を回してきた。
…いや、なんで手に肩を置くのか。
正直言って身長差などを考えると鬱陶しいからやめてほしい。

「そのようなわけで、大変申し訳ないのですがむつきさんは回収させていただきますね。」
「は、はい…!」
「それと…。」

次の瞬間、肩に回った手に力が入る。
ミシリと音が聞こえた気がするくらいの力で掴まれた痛みで、思わず顔を顰めてしまった。
力を入れた本人は向かいの生徒に対し、先ほどとは違い悪どい笑みを浮かべていた。

「今回は告白だけのようですので大目に見て差し上げますが、次、むつきさんに手を出すようなことがあれば…。頭のいい貴方なら判りますよね?」

そう言ってジェイドが更に笑みを深めれば、相手は元から青ざめていた顔を更に青くして言葉を発さず勢いよく首を縦に何度か振って、そのまま踵を返してどこかに走り去って行ってしまった。
そして二人きりになった途端肩に回されていた手が離れ、僕らの距離も少し離れた。
後で痣ができていないか確認しておこうと考えていたら、ジェイドがこちら振り向いた。
その顔は、先ほど告白してきた生徒に向けられていた悪どい笑顔ではなく、少し愉快そうな表情をしていた。

「まったく、僕がいないと貴方はすぐほかの方に告白されてしまうのですから…。なかなかに目が離せないですね。」
「…それは不可抗力な気がするのだけれど。」
「それにしても困ったものです。貴方に手を付けたのは僕が最初なのに…。また周りにあなたが僕のものだと牽制しておかなければいけないですね。」
「誤解を招く言い方はよしてくれ。僕は君のものではないし、君の告白はきちんと断ったはずだけれど。」
「おや、数度断られたくらいで僕が貴方を諦めると思われているなんて心外ですね。貴方のような面白い人を僕が諦める訳ないじゃないですか。」
「身体的特徴が少し他と違うだけで他は全く面白味もないんだから、さっさと諦めてほしいんだけど。」
「ふふ、ご冗談を。」

スッと細められたジェイドの目を見た途端、背中に悪寒が走った。
しかし、それに気づかなかったふりをして、この後の予定を確認しながら先ほどの話などなかったかのように、僕たちはモンストロ・ラウンジに向かったのだった。




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