屋敷の庭に、一人の少女が佇んでいた。
少女は鬼殺隊の証である黒い隊服に身を包み手には日輪刀を握ったまま、直前まで行われていた戦闘により荒くなった息を整えていた。
少女の左目は、鬼となってしまった身の弟との戦いによって引き裂かれ、血が止まることなく流れ続けていた。
いくら自分の身内が鬼になっていたことに一瞬の戸惑いを見せてしまったとはいえ、避けられたはずの攻撃を思い切り受けたことで、鬼の爪は眼球の奥まで届いてしまっていた。
その左目が回復する見込みが一切ないことは、少女自身が一番わかっていた。

彼女の荒い息以外辺りはしんと静まり返っていて、先ほどまでの戦闘など行われていなかったかのようだった。
しかし、彼女以外、屋敷の敷地内からも濃い血の匂いが漂っており、家屋や庭の荒れ具合からも、戦闘が確実に行われていたことを物語っていた。
少女、もといむつきは、血の匂いの元である自身の両親の亡骸と、両親のそばに落ちている鬼となってしまった弟が着ていた着物を暫く眺めて呼吸を整えたあと、その場に静かに膝をつき日輪刀を自身の首筋に当てた。

鬼殺隊に入ったからには、身内に鬼を出すことは隊律違反となる。
そして今回、不可抗力であるとは言え、身内から鬼が出てしまった。
隊律違反を犯した場合、鬼殺隊を脱退するか斬首となるのが通常となる。
一家の長女として家族の力になれればと鬼殺隊に入隊したむつきにとって家族が全員死んでしまった今、鬼殺隊を脱退するよりは斬首して家族のもとに逝った方が良いのかもしれないと考え、むつきは自ら斬首することを選んだのだ。

−家族のためにと思って鬼殺隊に入隊したけれど、それがかえって家族を危険に晒すことになってしまった…。
 父上、母上、入隊してから数えられるほどしか鬼を倒せず、家族に手をかけて生涯を終わらせる私をお許しください。そして弟も、鬼にされる前に救うことができなくてごめんなさい。
 私も、今そちらに向かいます−

荒れた庭の端に映る藤の花。
鬼殺隊に入ってから植えたその花は、あと少しで開花するというところで本来の役割を果たせず、鬼の頭である鬼舞辻無惨の侵入を許し弟を鬼の姿に変え、鬼となった弟は両親に手を掛けてしまった。
その事実が自分の無力さを表しているようで、とても虚しく、同時に歯痒く感じた。
しかし、全てが終わってしまった今となってはどうでも良いことだと、むつきはそっと目を閉じて日輪刀を持つ手に力を込めた。
その時、

「その斬首、待つんだ!」

という声が聞こえたと同時に、自分の意志と関係なく腕を引かれる感覚とともに、日輪刀がむつきの首から離れていった。
何事かと閉じていた目を開け視線を腕のほうへ向けると、目の前に赤色と黄色を混ぜた色が広がっていた。
それは見覚えのある、そしてとても久しぶりに見る同期の姿だった。
最近柱になったと風の噂で聞いていたが、炎を象った白い羽織を着ている彼は、まるで別人のように見えて、夜なのに何故か眩しさを感じた。

「れ、煉獄…。なんで…」
「うむ!君の屋敷で鬼との戦闘が開始されているから加勢し、戦闘が終了次第、君を親方様の屋敷まで連れてくるようにと伝令があってな。君の屋敷から一番近かったのが俺のようだったので、君の鎹烏の道案内を頼りに加勢に入ったのだが…遅かったようだな。すまない」
「…そう、なの」
「うむ。…それにしても、よく頑張ったな」

周りを見渡しむつきに視線を戻したところで、煉獄はむつきの頭に手を置いた。
むつきを見つめる表情は優しく、煉獄の手の温もりにむつきは思わず涙が出てしまいそうになったが、涙を堪えるために煉獄から視線を逸らした。

「とりあえず傷の手当てだな!親方様の屋敷に行くのはその後にしよう!」
「…分かった。悪いけど、自分じゃ手当てし辛いから手伝ってもらっていい?」
「ああ、勿論だ!」

親方様の屋敷に行くということは、何かしらの聴取がされるからかもしれないが、煉獄はむつきに事情を聞くことなく普段通りに接してくる。
それが、むつきにとってはとてもありがたかった。


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