『彼女は将来、悪魔に好かれやすくなる体質だ。注意が必要ですね』

『…何故それが判る』
『判りますとも!』

『だって彼女は…』



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「ただいまー」

大きなスポーツバックを肩に掛け、一人の少女が教会の扉を開けた。
彼女の声は建物全体に響き、やがて幼い頃から見てきた顔の二人が彼女の前に姿を現した。

「お帰り、姉さん」
「お、むつきじゃん。久しぶりだな!どうしたんだ?」
「やっとまともな休みが取れたから帰ってきたんだよ。
二人とも中学卒業おめでとう」
「お、おう」
「ありがとう。それ重かったでしょう、持つよ」
「あ、ごめんね」

一見すれば年子のように見える二卵生の双子の兄弟(見た目はあまり似てない)の燐と雪男が笑顔でむつきを迎え入れる。
雪男が、自身の肩にぶら下げていたスポーツバックを持ってくれた事に感謝していると、燐が雪男の隣からひょこっと手を伸ばした。

「土産ねえの?」
「ごめんね、今回は無いんだ」
「なんだ、つまんねえの。
…つかさっきから凄ぇ甘い匂いがすんだけど。
もしかしてイッチョ前に色気づき始めて香水とか付け始めたのか」
「え、別に香水もコロンも付けてないよ?シャンプーとかじゃなくて?」
「このキツさはシャンプーじゃねえよ。な、雪男!」
「…匂いなんてそんなに感じないけど」
「今の話、本当か?」
「いたっ!」
「「父さん」」

二人とは別に男性の声が降ってきたと思ったら、むつきの頭に強い衝撃が走った。
視線を上に移すと、自分の頭は育ての父親である獅郎の肘置きにされている。
その事に格段怒る事なく頭に痛みを感じながら、むつきは獅郎に話し掛けた。

「出掛けてたの?」
「さっきまでな」
「お帰りなさい」
「お前もな。…それより、むつき…ちょっと」
「?はい」

神妙な顔の獅郎に手招きされるがまま、二人と離れる。
声が聞こえないであろう距離まで離れると、獅郎の顔がググっと近付いてきた。

「…むつき、お前、最近変わった事はないか?」
「変わったこと?」
「そうだ。例えば仕事の時悪魔の襲ってくる頻度が多くなってきたとか」
「…あ、それはあるかも。今まで寄ってこなかった子でも寄ってくるようになったかな。
…あとは理事長がちょっかい掛けてくる回数が増えて……」
「…そうか」

そう言って少し疲れた表情を見せて肩を落としたむつきに同情しつつも、何かを考えるように眉間に皺を寄せていた。

「それがどうしたの?」
「いや、何でもないが…。一応注意しておけよ」
「?うん、わかった」

むつきが頷くと獅郎は「良い子だ」と言って頭を撫で、兄弟の元へ戻っていった。
しかしその表情は依然として硬いままだった…。


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『彼女は将来、悪魔に好かれやすくなる体質だ。注意が必要ですね』
『…何故それが判る』
『判りますとも!だって彼女は我々悪魔にしか分からない特殊な色香を微量ながらに放っているのですから』
『何だと?』
『あの甘い香りは悪魔を惑わす毒香。今は微量でも彼女が年を重ねるにつれ、香りは徐々に強烈になっていく。それは彼女を危険に晒し易くもするし、同時に彼が悪魔として覚醒してきたかどうかが分かるようにもなる。
…まぁ、一定の年齢を越えるか条件を満たせば香りはなくなりますけどね』
『その条件って何だ?』
『それはお教え出来ない。私は彼女を易々と手放す気はありませんからね』
『…本当、お前は性悪だな』

『それは、お互い様じゃないですか』



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