風魔小太郎は、この春、恋をした。

相手は自分が通っている美術大学で受付をしている、自分より三〜四つ年上の女性。
入学式のあと必要書類を提出した時に出会い、その時本人曰わくビビビ!と身体中を電気が走ったのだそうだ。
見た目も声も性格も、自分がずっと追い求めていた理想の女性像そのもので、出会ってすぐに彼女の名前を覚えた。

(藤崎…むつき)

それが彼女の名前だった。

「あ、おはよう風魔君。今日もいつもの自習室空いてるよ」

そう言って微笑むむつきに今日もまた小太郎の胸がキュンと鳴る。
彼女を見る度に「うん、今日もむつきは光輝いている」と小太郎は思った。

小太郎の通う学校には自習室と言う名のアトリエの様な部屋が複数あり、受付で簡単な手続きをすれば好きな時に自由に使えるのだ(勿論作品を造る前提で)。
むつきの眼には、風魔小太郎は作品と真剣に向き合っている熱心な良い子という風に映っているが、そう思われている本人はむつきに会って少しでも話をしたいが為に自習室を借りているだけだ(勿論むつきが休みの日は借りに行かない)。

今日も今日とてむつきの笑顔に癒やされつつ、話をしていた(と言っても小太郎は喋らないので頷いたりするだけな)のだが、急に肩に重みを感じた。
振り向くと、自称小太郎の唯一の男友達の猿飛佐助がニヤついた笑顔で肩を組んで立っていた。

「おはよう猿飛君」
「こんにちは、むつきさん。部屋空いてる?」
「今風魔君に貸そうとしてた部屋で最後なんだけど…」
「あ、俺様相部屋で全然OKだよ」
「良かった、じゃあ仲良く使ってね」
(なん…だと?)

思わず小太郎の口が開いた。
佐助になるべく長く会話をしようとしていたのを邪魔され、その代わりと言うように佐助がむつきと会話をし始め、挙げ句の果てに同室とは…。今日は何という厄日だろう。

いつの間にか話は終わり、佐助に襟首を掴まれ小太郎はずるずると引きずられる形で事務室を後にした。
嗚呼、むつきの笑顔がどんどん遠くなっていく。

小太郎がいつも使っている自習室は特に中の設備が良いと言う訳ではなくて、扉のガラスからいつでも##nam e1##が見られるから。というストーカーのような理由から使っている訳だが、それを佐助が見逃す筈がなく。
今までの小太郎の行動からその他諸々で悟った佐助は、部屋に入るなり嫌に爽やかな笑みを見せて小太郎に顔を近付けた。

「はっは〜ん、そういう事」
「…」
「だから今まで一緒に居た女の子達との関係切ったんだ。急に縁切りしたから俺様ビックリしたんだよー」

結構グダグダ続けてそうだったから。と本当に意外だったという声色で佐助が言うように、むつきと会ってから少しの間、小太郎は本人の性格故か男友達よりも女友達が多く尚且つ女関係も身の回りの世話を殆どやってもらうくらいダラダラとだらしなかった(来る者拒まず去る者追わず)。

そんなんだから一生女達と縁は切らないんじゃないかと佐助は踏んでいたのだが、二ヶ月前不意に「もう良いや」と小太郎は独りごちに呟いて、携帯から今まで一緒に居た女達のアドレスを全て消去し、更には直に会う事も全くと言っていいほどなくなった(女が勝手に寄って来ても無視)。それを実際に隣で見ていた佐助は目が飛び出すほど驚いたものだ。

「まさか##name 1##さんが原因だったとは。むつきさんってどっちかと言えば可愛い系じゃん。綺麗系の子とばっかり居たから本当に意外」
『別に綺麗系が好きな訳じゃない。勝手に寄って来たのがそういうのなだけ』
「うわ、今の非モテ男が聞いてたら確実にボコられるよ」

携帯を取り出しカチカチと打ったかと思ったらこの文字。
流石はモテ男である。
その後「本気なんだね」と真面目な声で言えば、小太郎は暫く何の反応も示さなかったが、小さく頷いた。

「ま、適度に応援するわ。
…それよりさ、授業で出た来月の文化祭ん時に出す課題決めた?」
『…まあ大体は』
「やっぱり今年も日本画?そっかー。
俺はさ、男女一組の顔にペイントして髪も結ってーみたいなのを写真に収めようと思ってんだけど、なかなか良いモデルが見付かんなくてさー。
…小太郎やってみない?」
『えー…』
「モデル料もちょっとは出すよ。それにむつきさんにも声掛けてみたんだよね。
もしかしたらむつきさんと共演出来るかもよ?」
『やる。絶対落としておけよ』
「へいへい」

どうやらむつきの事になると判断力が鈍るようだ。それは良い事なのか悪い事なのか…。分からないが、とりあえず今は良い方に捉えておこうと佐助は考えた。
そして小太郎がやる気になった以上、むつきを確実にやる気にさせなければと人知れず意気込んだ佐助だった。



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