「最近一護、私に隠し事ばっかりしてるよね」
「……え」
今現在二人が居るのは一護の部屋。
天候はいつ雨が降っても少しもおかしくない位の曇空で、その曇り加減はカーテンを閉めて電気をつけるには少し明る過ぎるの為電気は付けていなかった。
「家に来ないか」と誘ったのは一護自身なのに、萌苗に未だ何一つ話掛けはしない。だから、萌苗は最近の一護に対して思っている事を口にしてみたのに、彼から出てきたのは間抜けな声で、萌苗は少しばかり苛つきを覚えた。
「何でそう思うんだ?」
彼からの疑問詞を聞いた途端、萌苗は核心に触れた様な気がした。
その反対に二人の距離が離れていったとも。
「何でって……一護の行動見てれば誰だってそう思うよ」
「そうか?」
「そうだよ。……こんな事言うの凄く悪いと思うけど、朽木さんと会ってから…、一護凄く変わった」
自然と声のトーンが下がる。何だか自分で喋ってる内に馬鹿みたいに泣いてしまいそうで、それを堪える為にベッドの上で膝を抱えて 顔を埋めた。
一護の顔を見ない為に。
「…」
その一護は只 椅子に座り、机に無造作に置いてある紙切れを見つめていた。
「朽木さんと一護が会ってから、一護と喋った記憶があんまりないの…。…私、一護の暗い顔しか見てない。喋ったとしてもいつも素っ気ない返事ばっかりで、「一緒に帰ろう」って誘っても「一人で帰りたい」とか「ルキアと帰るから」とか断られて……。大怪我して学校に来た日だって、こっちは凄く心配してるのにバツが悪そうな顔して「何でもない」って言うし、最近チャドや井上さんや石田君とかとばっかり喋ってるし。……私ばっかり、除け者にされてる……」
さっきから膝を包んでいる手の震えが止まらない。まるで止まる事を知らないみたいで……。
―こんな事を…言いたかった訳じゃないのに…―
部屋の電気を付けなくて正解だった と萌苗は思った。今萌苗の目には涙が浮かんでいて、とてもじゃないがこの情けない顔は人には…、ましてや一護には見せられない。
遠くで、一護の溜息が聞こえた気がした。
「…私には言えない事?」
「……」
「何で…何にも喋ってくれない、の?」
段々と涙を含み震えた声が部屋一面に広がって 空気と一緒に消えていく。
「…俺はルキアに会ってから…俺を取巻く世界が全部変わった」
萌苗が喋らなくなった代わりに、一護が小さく、でも芯の通った声で話始めた。それを、萌苗は音をたてずに聞く。
声を出さずに涙を流すのはとても喉が痛くなり、苦しい。でも、一護は多分もっと苦しい思いをしている…と勝手に理由付ければ、萌苗はそれすらも我慢出来た。
「お前との価値観が違ってきたんだ……アイツに会って、それから色んな事が起こって、井上達と親しくなって……。でもお前は、変わらなくて…」
「……」
「お前も俺とずっと一緒に居たから、チャドや井上達と同じ世界に入ってくると思ってたけど……ならなかった。だから、俺はそんなお前を危険にさらしたく無かったから…かもしんないけど、自然にお前を避けてた」
そう言い終わると ガタ と小さく椅子が動く音と共に、一護は萌苗の方へ向き直ったが、萌苗は依然顔を膝に預けたままだった。
―今、萌苗は泣いている―
そう思うと、胸がとてつもなく締め付けられた。
―あんなにも萌苗の事を強く想っていたのに、萌苗を泣かせた奴は俺がブン殴ると決めたのに、結局萌苗を泣かせたのは俺だ―
最初に萌苗を愛してると、付き合ってくれと言ったのも一護で。
最終的に萌苗を傷付けたのも一護で…。
何て、自分勝手なのだろうと 一護は自分に吐き気を覚えた。
「ゴメン、萌苗…俺」
「謝らないで」
一護が謝ろうっした途端、相変わらずな体制で、萌苗は静かに一護の謝罪を遮った。声の震えは大分治まったようだ。
「何で一護が謝るの?謝らなきゃいけないのは、私の方なのに。私が……私がいつも通りに振る舞ってれば…何も知らないフリしてれば良かっただけの事なのに…」
そう言うと、萌苗はベッドから降り、部屋の扉へと足を運んだ。
その時一護は下を向いていたため、萌苗がどんな表情をしていたかは見ていなかったが、何だかこの時、一護の胸の中をザワザワと嫌な感覚が襲った。
「…萌苗?」
「ゴメン、帰る。一護、ゴメン…本当にゴメンね」
萌苗が一護に謝ると同時に、ドアがパタン。と静かに閉まった。
雨が……降り始めた。
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