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ちょっと前までは、擂鉢外の一角で羊という未成年で構成されたグループのリーダーをやっていた。
とある情報を集める為に動いていた矢先、まあ流れでポートマフィアを手を組む事になり、そのせいで羊の奴らに不安を抱かせてしまった結果、俺はあいつらに裏切られてしまった。行く宛も無い俺は、成り行きでポートマフィアの傘下に入る事となった。
別に裏切られた事に対して怒ってはいない。俺の行動というのはあいつらを不安にさせちまって、その結果がこの様だっただけだ。今まで好き勝手やってたツケが回ってきただけである。まあ、少し寂しい思いはあるが。今度は間違えないように、俺の足りないものを持っている首領の為に忠誠を誓い、今は紅葉の姐さんの下で働いている。
やはりと言ってはなんだが、羊とポートマフィアの勝手というのは全く違う。そりゃそうだ、ただの餓鬼が威勢を張ってるだけの羊と、横浜の夜を取り仕切るポートマフィア。構成員の数も、規模も、掟も、何もかも違うのだ、当たり前である。規則やら色々書かれた資料の束を渡され「これ全部覚えろ」と言われた時は目眩がしたが、時間のある時はそれに目を通し、それ以外は身の振る舞い方を覚える為に姐さんの後ろについて回る。今までの忙しさとはまた別で、それはもう毎日必死である。休憩時間も惜しいので、その間にも紙の山になってる資料を見て頭に叩き込む。あまり頭は良いと言えない自分は、こういう暗記のものは人一倍時間が掛かるのだ。そんな俺を見かけた姐さんが「あまり根を詰めるでないぞ」と缶コーヒーを買ってくれた。それは15の俺にはまだ苦くて、飲むのに苦労した。

そんなある日の事だった。姐さんに同行した任務の帰り、首領に報告しに行こうと廊下を歩いてる時、名前という女に出会った。というよりは、廊下を歩いてるそいつの後ろ姿を見た姐さんが声を掛けたのだ。部隊は別らしいのだが、その女は姐さんが世話を焼いているらしく、よくそいつの事を楽しげに話している。見た目やら性格やらは姐さんからよく聞いており、姐さんは「ああ見えて案外強い」だとか、「物凄く可愛い」だとかよく話していたのだが、初めて対面したそいつは、俺が思っていたよりかは至って普通の女だった。こんなにひょろい女が本当に強いのか疑問であった。
「そういや姐さん後ろに立ってる子は?」
「嗚呼、先日入った新人でのう、私が世話を焼いてるのじゃ。」
「初めまして、名字名前です。貴方は?」
「中原中也だ」
「宜しく」笑みを浮かべる女に適当に返事しながら、そういや初めて名字を知ったと気づく。姐さんは基本的に名前を呼んでいるので、まあ知らないのは当たり前なのだが。

「すまんのう、久し振りに顔を合わせたらつい長話しすぎてしもうた」
「いえ、問題ありません」
「それにしても、少し見ない内に綺麗になっておったのう、この時期の成長はあっという間じゃ。愛いやつめ」
「はあ」
「見たかえ?名前が使ってる簪。あれは私が送った物でのう、よく似合っていたろう?」
「そうですね、姐さんはセンスがおありのようで」
「そうじゃろう、なんせ名前の為の特注品じゃ。」
久しぶりに会えた事が嬉しくてつい長話をしてしまったとクツクツ笑っている。そのまま姐さんはあの女の話を始めて、俺はただそれを聞く。どうやら任務や俺の教育で中々会えなかった所をばったり会えて嬉しかったようだ。いつも笑みを浮かべているが、一層嬉しそうなオーラを出す姐さんを見て、昔から一緒に居る奴とは既に縁が切れてしまった俺には姐さんの感情など分かりはしないが、いつかそんな存在が出来るのだろうか。
「あれも、もう少し時間があれば善いのじゃが」
「そんなに忙しいんですか?」
「名前は随分長く居るからのう、それに強い。外の仕事は大体あの子に行くのじゃ。」
「へえ」
「はぁ、外の仕事は危険が伴うというのに、首領は何を考えておるのじゃ、名前が傷物になってしまうではないか」
どうやら、あの女は相当強いらしい。それに古株で首領のお眼鏡に叶うときた。あんな一般的な体格をした女が、本当に強いのかという疑問と興味が湧いた。まず俺が目指すなら姐さんよりあの女だろう。
「姐さん、本当にあんなひょろっこい餓鬼が強いんですか?」
「あの子は、それはそれは強い。首領も認めている程じゃ」
「それは潰し甲斐があります」
「血気盛んじゃのう。戦意が失せてるよりかは善い善い。
じゃがな、あれはほんに強い。強さを見誤るでないぞ。」
姐さんの殺気が混じったようなその瞳に、俺は背筋を凍らせた。

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