「嗚呼、そういや今日ってクリスマスか」
「クリスマスだァ?」
センター分けの白い髪をした男がふと思い出したかのようにそう呟き、橙色の髪をした男がそれに顔を顰めながら反応した。
12月24日、クリスマスである。数日前から街はイルミネーションによって夜は一層輝きを増し、それを撮影しようとカップルや学生たちがこぞって騒ぎ始めていたのは知っていた。温室育ちの人間とは違って、此方は抗争の真っ只中だ。故にクリスマスなどの行事など頭に入っていなかったし、今まで行事で騒ぐような余裕はあまり無かった。
「んだよそれ」
中也にとってクリスマスはイルミネーションを見て騒ぐ行事という日としか頭に無かった。それも今まで繁華街で見て勝手に想像していただけで、実際どういった行事かは聞いた事が無かった。7歳の頃に名前から一方的に聞いた事はあるが、言葉を理解していない時期の事を覚えてる訳も無い。
「善い子には寝てる間にサンタクロースって云う小太りした白髭の生えたおじさんが寝室に置いてる靴下にプレゼントを入れてくれるんだって。」
「不法侵入じゃねえか、んなの来たら俺がぶっ飛ばしてやる」
「否、まあ…うん、そうなんだけどよ…んで、悪い子には何処か連れて往かれるんだ。」
「誘拐じゃねえか。サンタって奴餓鬼が趣味のとんだいかれ野郎じゃねえか…」
中也は心底引いた表情を浮かべていた。それに対して白瀬はそういう考えを持った事が無かったと逆に関心を浮かべるのであった。

その日の夜、中也は目を血走らせながら周囲を警戒していた。お昼の時間に聞いたサンタクロースと云う男が来たらぶっ飛ばす任務があるからだ。名前や他の仲間達が悪い奴だとは思わないが、その基準というのはサンタの野郎に託されているのだ、それにプレゼントを渡しに来るにしても不法侵入で捕らえないといけない。中也は眠気が襲ってくるも頬や太ももを抓り、眠らないように尽力する。
午前1時を回っただろうか。既に皆は就寝しているのか辺りは物音1つ聞こえない静寂がその場を支配していた。中也はほとんど目も瞑っている状態であったが、遠くの方でぺたり、ぺたりと足音が聞こえた。
その音はどんどん中也の部屋に近づいて来てる。中也は警戒を増して暖かい布団からガバリと上半身を起こし、廊下に躍り出た。
「誰だ!?」
「おわ、!?中也?起きてたの?」
「名前か…?」
中也は一気に脱力した。不法侵入者だと思っていた奴が、まさか仲間な上名前であったからだ。
「おい名前、今日は何の日か知ってるか?」
「ん?クリスマスだね」
「そうだ。クリスマスっつーのはサンタっつークソペド野郎が部屋に不法侵入したり誘拐したりすんだぜ。こんな時間まで起きてたら危ねえだろうが。おら、こっち来い」
「え、ちょ、中也?」
名前は中也が盛大な誤解をしている事を何処から訂正していくか悩んでいれば、腕を掴まれて彼の部屋に連れ込まれた。
「おら一緒に寝るぞ。これで手前が誘拐される事は無え」
「あー…うん、分かった。おやすみ」
「おう」
名前は声から眠そうな中也をこれ以上起こすのは可哀想だと思い、サンタの誤解については起きてから訂正しようと既に寝付いてしまった彼の隣で目を瞑った。

「ああああああ!?!?!?」
「え、何?」
「中也の部屋からか?」
朝になった。名前は既に起きて活動している中、拠点の内部から叫び声が聞こえた。名前は共に行動していた白瀬と顔を見合わせ、叫び声が聞こえた方に足を向ける事になった。
「中也!どうしたの?」
「おおおおおい名前、サンタの野郎が…!あの野郎俺の見張りを潜り抜けて来やがった…!」
「否、がっつり寝てたじゃない」
ベットの隣にあるサイドテーブルにあるプレゼントボックスを見ては、中也は頭を抱えながら唸っていた。対して名前と白瀬はそんな中也をどうすれば善いのか分からないという心情が滲んだ目で彼を見つめ、やがて白瀬は莫迦らしいと一蹴してその場から去ってしまった。
「まあ、とりあえず開けてみたら?」
「爆弾だったりしねえか…?」
「その場合敵に投げつけてやれば善いと思う」
「そ、それもそうか…よし、開けるぜ…」
恐る恐るプレゼントボックスを開けてみれば、その中身は中也が以前から欲しくても値段が高く手を伸ばす事が出来なかった革靴がそこに鎮座していた
「ま、まじか…俺が欲しかった革靴じゃねえか…」
「善かったね中也」
「サンタの野郎、実は善い奴だったのかもしれねえ…」
中也はその場で靴を履いては嬉しそうに「どうだ?」と名前や他の仲間達に見せびらかしては楽しそうにしている姿が目撃された。

深夜1時、名字名前は1つのプレゼント箱を持って歩いていた。それは弟分である中也にプレゼントするものであり、中身は革靴。それなりに値の張った代物であるが、そこまで物欲の無い名前はお金が有り余っていたのだ。どういった反応をするだろうと少し楽しみにしながら中也の部屋に近づいた時、彼の部屋から物音が聞こえた。
いつもは就寝しているこの時間帯。真逆、こんな時間に起きているのか。名前は咄嗟にプレゼント箱を背中に隠す。間一髪かそれは廊下に出てきた中也に見られる事も無く、また彼の部屋に招かれた事によってこっそり部屋に入るという任務も無くなった。名前は内心ガッツポーズをしながら彼の死角になるよう先にベットに寝転ばせ、プレゼントをベットの下に置いて布団に入りこむ。既に彼は眠気によって深い眠りの中に入ってしまった。名前はその事を確認してはサイドテーブルにプレゼントを置き、彼の隣で眠るのだった。