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 ギシギシ、「あっ、やっ」。

 ちゃぶ台に置いたノートパソコンの画面一杯に、組敷かれた美人。どうにもギリシャ画よりも体型は細い。
 顔は確かにこう見れば、女性のよう。火照った頬と苦しそうな眉間、吐かれる甘いだろう吐息。

 しかしそれを組敷いてほぼ修正など意味のない、美男子の股関辺りに顔を埋めて上下しているそいつはかなり恋顔で健康的な小麦色だ。ボディビルダーというか、ただの霊長類にしか見えないのが、ギリギリ俺の性欲を貧相にしていく。

 行われている“情交”を眺めては、正直溜め息。溜め息が出たら若干胃液が混ざった気がする。

「うっ、」

 思わず息を呑んだのが、体勢を変えその霊長類の股間を口にする彼の表情は空虚でしかないところ。そこに少しは美学を見る気にもなるから、どうにもやめられないようなやめたいような心境で眺めている。

 なるほど、少し見上げる視線とか、顔だけ見ればなんとか俺でも抜けるんじゃないか、あまり表情が崩れないが一筋の汗が首筋へ流れる様やら、今よりも若干気の強そうな若さがちょっと揺らぐ。何よりまぁ、美人だし。

 確かに、現在よりそいつは痩せている。最早画面からは目を反らして少しパソコンをずらし、体育座りをして膝の上にスケッチを広げる。

 シャーペンでその様を殴り書きしようとすればアングルが変わってしまった。今まさに霊長類が、後ろへまわり、「うぁぁっ、」と一言吐いてしまったような体勢で。

 それって痛くないのか、いや、痛いとかでなくそれってやっぱりこちらからすればもう少し修正して欲しい、やっぱり痔とかに…。

 巡らせていれば、耳に掛けていたヘッドホン(5万円高音質)が突如離れ、振り向く。
 AVの本人(だろう)サナトがヘッドホンを両手で取り上げたらしいが、俺に向けられたのは明らかにこの画面より無表情、だが軽蔑は伺えるほどには瞳に俺を映して「おはようございます」と低く言った。

 これは凄く差別的だぞ。

 息を圧し殺したように圧縮された怒りが「朝からお元気で」の一言に感じられた。気まずい色々な焦燥に刈られる。

「いや、あの、お、おはようサナト」
「で、どうですそれ」

 非常に殺意を細めた目で、促すようにパソコン画面を見つめるサナト。もうわりと中盤かも。画面の“サナちゃん”はなかなかに苦しそうだが色がある。体勢はしかし攻め型(霊長類に跨がり上下)。

 だが背後に立つサナトには殺気やら冷気があった。

「いや、別にこれといって」

 サナトの一瞥が最早虫けらを見下ろすくらいに冷たかった。俺としたことが疚しさに閉口。

 サナトは溜め息を盛大に吐いて画面上の×をクリックした。無言でヘッドホンを返してくると同時に、明らかに俺の股間を見下ろしていた。

「いや、違いますよサナトくん」
「はぁ、そうですか」

 いやその疚しさは本気で、ない。

 ふいっと背中を向け「バルサンでも食いますか画伯」とサナトが冷淡に言い捨てたのはいたたまれない。

「いや待てごめんってマジで!」
「はぁ、何がでしょうか」

 流石に俺がサナトの肩を掴めば嫌そうに、と言うかゴミでも払う仕草で手を叩き落とされてしまった。
 わりと強め。ゴキブリってスリッパで叩かれるとき多分こんな心境なんだと知った。

「な、何がって」
「いいんじゃないですか?そう言った趣味がおありとは。流石芸術家は変態ばかりと」
「いや〜、ホントにそれはないんだよ」

 萎え萎えだったよマジで。
 ただこのギャップは少しグッと来るくらいにどーにかしたい。

「僕はここにいてそう言った感じで見られるわけですか。まぁ、過去なんでしょうから仕方ありませんけれど僕としては覚えがないので些か居心地が悪いですね」
「そうじゃなくてぇ、」
「なにがですか」

 明らかに怒っている。
 これは言い訳をしておこうかと考えるも、背中が語る。「コーヒーでよろしいですか」と。

「はい、いいです、はい」
「どうぞ勝手にいれてください」
「いや、も〜、」

 何に翻弄されているんだ、俺。

 サナトは本当に自分の分のインスタントしか用意しなかった。

 静かに座ってコーヒーに息をかけてゆっくり飲む姿がまぁ、絵になるとはこの事で。
 仕方なく自分でインスタントを入れて俺も隣に座ると同時に「ふぅ、」とサナトは溜め息を吐いて目の前のパソコンをぼんやり眺めた。

 気まずいが、まるで割りきったかのような虚無でサナトは「インスピレーション、あったんですか?」と聞いてきた。

「え、あぁ、はぁ…」
「まぁ、ならいいんですが」

 言いながらサナトはコーヒーをマウスの横に置き、パソコンを弄って履歴から無料動画サイトを探し当てては、自分であろうビデオを再生した。

「あっ、」

 それ。

「無修正って、ホントに無修正なんですね」
「いや、」

 君今開いたやつ。

「有料ぅぅ!」

 あっさり有料のやつをなんの迷いもなく開きやがった。
 これは…。

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