6


「まぁ後は、頭良いなら察したと思うけど、この病院に置いてやべぇこと監視したいんだろうと思う、ウチの会社は。やべぇ会社だからね。ケータイまだ切れてないっしょ?」
「どうかなぁ?電話繋がるかとかやってみてないけど…」
「繋がるよ絶対。逃げないように」

 うーん、これが「極度の被害妄想」なんだろうな…必要性を感じないし。

「俺はクビだから持ってないけどね」

 うーん…?

「ケータイ届けたのは君?」
「いや、俺じゃないから別の人だと思うよ。でも履歴書とか身元わかるもんもなんか、ないみたい。ここは詳しく知らないけどそんなの良くあるから」
「…ちなみに君はなんで今…仕事出来なくなったって」
「あー俺のはもう少し前向き。中毒なって絶倫すぎて仕事なんなくなっちゃった。もうね…全っ然治まんねーの。そうすると演技だってバレちゃうっしょ。いくとこれくらいになるみたいだけど」
「なるほど。それを聞くとあいつは依存症というより恐怖症に近いのかな?潔癖らしいし」
「うーん、多分それかも?当時は同じ感じはちょっとあったけどね、バンバン仕事入れてくれって、嫌なくせに。
 俺はあんたでも良いと思うけどね、他人だからこそ」

 勝手なんだろうか、やっぱりわりと君は世話焼きなんだろうし、気にしいだと思うけど、あぁ、そうだった。

「いや、勝手だけど君は結構良い奴なんじゃないか、て今の時点の客観で思うよ」

 良いところばかりは言わなければならない、とかセンセが言ってましたな。
 彼ははははと笑い、「ホント勝手だね」と言った。

「うん、まぁ君も大変だろうけど頑」

 そうだ頑張ってとか言っちゃダメなんだっけ。面倒だな、確かに。

「…はは、ありがと、頑張るよ。けどあんた俺なんかより」
「そうだなぁ」
「まぁサナには俺は会えないけど、てのも病院に言われてるからね。まぁ、忘れてるのも本当らしいし。そゆことで」
「わかった。わざわざありがとうな。確かに体験談の方が断然良いよ、こう言っちゃなんだけど。君のお陰でまぁあいつはなんとかなると思えたよ」
「参考になったみたいでよかった。いいよなぁ、人生リセット」

 そういえば、セックス依存症の大半は幼少期のどうたらがとも言っていた。
 ということはミノルくんだってきっと辛いことはあった…と見るのは“好機の目で”とかいうやつなんだろうか。

 けどこうして気にしすぎも良くないか。うん。くだらねぇ、ゴミ箱捨てちまえ。

 そうだ、と思い付き「もしよかったらさ」と切り出すことにした。

「んーまぁ裸デッサンとかあるにはあるけど、今度個展やんだよね。よかったら来て、顔パスする」
「あーそうなんだ、俺絵とかわかんねぇなぁ」

 やっぱりそうか。この距離感。
 きっとミノルくんに会うのはこれが最後なんだろう。

 戻ってる最中だと言うのに“センセ”はパタパタ走って我々をわざわざ発見したようだ。
 タバコ臭さに顔を一瞬しかめたが「起きましたので、」と告げる。

 ミノルくんは空気を読んで「じゃー俺ヤオツセンセーのとこ行ってくるよ」と若干早口に戻したようだ。

「あと五十嵐さん、診断書を渡さねばならないのでお会計と共に出してくださいね」
「ん?」
「事業主なら、まぁ今後わかりませんけども」
「っはは!頑張ってねイガラシさん8000円だよ診断書!」
「は?」
「ハシダくん早く行きなさい」

 マジかー別に良いけどセコッ。なんなのこの病院。

「今もずっと神月さん、このあと仕事が仕事がって錯乱してて、大分落ち着きましたけど」

 ん?
 起きてたの?いや、そう言えば起きましたんでとか言ったけど寝てたの?
 ん?錯乱してて落ち着きましたとかこの医者やっぱよくわかんねぇけどどっちなの、説明する気ある?
 しまう。

「あー、多分この後画廊の打ち合わせがあるからだと思いますよアシスタントですし」
「は?」

 意外とだから、お前らが言う“普通”なんだっつーの。

「そりゃぁあいつの仕事ですから」
「…はぁ、そうですか」

 ミノルくんは少し早歩きで前を行き、自ら、もう関係ない奴となっている。この一面を医者が知るかは俺には想像が出来ないけど。

「何話されました?」

 ミノルくんの背を見つめ医者は言った。

「いやぁ彼なんかサナトを気に掛けてたみたいだったんで。前向きに仕事してるよと伝えました」
「そうなんですか……」
「あのさぁ、」

 うーんけどやっぱやめよ、しまったんだし。お前ら何様なん?なんて言っても得しないし、“仕事”なんだ仕方がないな。

「うーんと、この病院カード大丈夫だよね?領収書切りたい」
「……はぁ、お会計で伝えて頂ければ」
「…そゆことで」

 ミノルくんがちょっと笑ったような気がしたが、彼はそれから待合室に戻ったし、俺はサナトが連行された部屋に連れて行かれた。

- 51 -

*前次#


ページ: