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「楓、」
ダルいような、けど甘い空気。
向けられた背中の右肩甲骨辺りに、小さな黒子を発見した。
それを食めば、「ん、なに…?」と楓がまだ切ない声をあげた。
「黒子」
「…そこ?」
「うん」
背中を抱き締め、恐る恐る、慎重にその腕に手が伸びる。
「真麻、」と、耳の横で聞こえるのだから、髪を掛けて「好きだよ」と吐き掛ける。
甘さに、また興奮してきて、太股の黒子あたりをすりすりと汚して、そして張った首筋を食む。
少し、身体を縮こまらせたようだった。
はぁ。
と腕の中が甘い。
そのまま楓の性器を軽く指先で弄れば、多分興奮はあるのだが、少し穏やかだった。
「…疲れたね」
「うん、でも、ね」
「ん?」
「中で、」
その、破壊衝動に俺はきっと。
「ダメだよ。明日が辛いでしょ」
「明日また、」
「いいよ。たっぷり、ゆっくり。
…息が熱いけど、眠い?」
「…ちょっと」
「よしよし」
頭を撫でると、気持ち良さそうに緩く微笑み、少しだけ身を翻しては、アゴをさらっと舐める楓。
堪らなくて、少し下を向いてぐちゃぐちゃにキスをするだけで、勿論興奮してしまう。第二回戦に「若いなぁ」という後頭部も緩く撫で、くしゃくしゃにして。
「…やっぱ、」
「うん…」
「いい?」
「うん」
背中を撫で上げ、また組み敷いて、肩にまわる手に、ああ捕まっていると体温を感じて。
髭で優しく耳から、首から、鎖骨から、乳首まで。食んで触れる場所すべてが甘い。混乱するような酩酊が、凄く。
結局、痩せていてより筋ばった肋骨も、腸骨も、痛々しいけど、舌触りが好き。
腹あたりを舌で舐めると「最近、さ」と言う。
「ちょっと、弛んできたかな」
「んー」
確かに。
出会った頃よりは年を重ねた。そうか、もう30が近いね、楓。
「けど、好きだよ」
「…そう?」
「より暖かい」
「ねぇ、」
臍あたりの筋に舌を這わせれば「まぁさ、」と切ない。
「温泉、」
「ん?」
「どこ、だったの?」
「…箱根?あたり」
「ん、そうなんだぁ、」
「気持ちよかった?」
「んん、」
性器を撫でる。
「あぁ、うん」と息が切れ切れになるのに、「またやろうね」と言えるのが、幸せだった。
「ま…あさ、」
「うん」
「あぁ、あの、」
頭を、乱すように撫でられる。だから、乱すように中を擦って。
「どうして、」あぁ、いまはさ。
「どうして、俺だった?」
「楓」
こんな灰色の俺なんかを、と濡れて虚ろに続ける。
「いや、」
真っ白な、その溶けそうな破壊衝動が。
「仕方ないじゃん」
せせらぎに降り注いだその衝動を、ただ見送っていきたかったんだよ、俺はずっと。
「いつか、行きたいね、楓」
「うん…?」
「箱根湯本?」
「まぁさ、」
休憩をするように、一回キスをして。
何もかもぐちゃぐちゃで、甘く溺れていく。「力を抜いて」と、息を吐くように導いて。
楓の目は酷く、怯えたような泣きそうなような色っぽさを持っていて。
虚ろなそれは確かに、灰色に見えるのかもしれないけどさ。
何度目かにしても苦しいくらいにキツかった。
何度でも、何度かわからなくなっても。
「あっ、」と、実に色っぽい。だが仰け反って逃げそうなので、抱いたまま起きる。
それで余裕なくも「あぁっ、」と笑った楓の細い腰を掴んだ。
「好きだよね、楓これ」
「んんっ、」
「俺もね、まぁ、捕まえてる感あって好き」
「ん、うん」
「だから、」
行かないでね、どこにも。
「はっ、」と呼吸が止まり、締まり、楓は射精した。
くったり凭れた楓の耳元に聞こえるか、わからないから「好きだよ、」と。聞こえているかはわからないから。
それもいつかわからなくなるまで。灰色で真っ白なこの破壊衝動に、混乱するように。
息をなくすまで、好きだよ。飲み込んで、この世界に酔っていたい。愛とか、そんな何色かわからないものの意味が、なくなるまで、ずっと。逃げるよりは、追いかけるようにさ。
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