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「ひさしぶり」
昼の光が射す白い部屋は、清潔感に満ち溢れ微睡むような、静かな空間だった。
カラカラ、カラカラと点滴を引き案内する本人は「はは、そうみたいだね」と爽やかに微笑み、自然とパイプ椅子をすすめてくる。
俺はパイプ椅子に腰掛け、友人は味気のないベットに入った。
面会というやつだった。
「わざわざありがとう。
見崎くん?に聞いたって」
ぎこちなく微笑む友人は少し困ったような顔。
彼が今作る最新の表情と俺が持つ彼の記憶が類似していた。その表情に「あぁ、やっぱりそうだ」と密かに懐古する。
「あぁ、うん。えっと、作田だけど…覚えてない…かな?あの、小中一緒だったんだけど…」
「…そっか。作田くん?」
そう口にすればふらっと、隣の席、あの光景が浮かび「隣だった、席。志波と」と口を吐く。
言葉にしてみればそこから、彼がシャーペンを口元にあてていた横顔が視界に広がってくるようだ。
「隣の席だったかな、小学校のとき。
あと…中学は…隣のクラスだったような…」
「そうかそうか」
少しは記憶を掴んだのかもしれない、先程よりも志波の表情は輪郭がはっきりして、柔和になったような。
俺の記憶のこいつはこんなに笑っただろうか。鮮やかで不思議な気がした。
「なんだか不思議だね」
志波が「ふふふ」と、唇で指を少し食むようなそれは、シャーペンのようだ。
志波はしかし、記憶よりかは骨格、その他は男子の逞しさあれど、生命は痛々しく儚くなった気がする。
勝手な話だがその生命感に衝撃を受けたのかもしれない。掠れた声も、浮くような鎖骨も細い指も。
何故か、前よりも明るくなった気がするのに切なさがあった。
「その見崎くんは凄いね。俺の今の連絡先、まだ知ってたんだね」
「高校で交換してそのままなんじゃない?」
「だろうね」
「なんか、でも皆知らなかったみたいだったけど」
「まぁ、そうだろうね。
でも、こうやっていつか会えるなんて、案外人の縁ってわかんないもんだね」
どこか、微睡んで焦点の合わない他人事のような物言いに、そうか、ひっそりと突然消えるやつはこうなのかとぼんやりと思う。
ぽつり、ぽつりと、1秒を刻むように液体が落ちている。焦れったく、止まってしまいそう。
この薬品がどんなものかは知らない。
時が止まりそうだと思ったとき「あ」と志波は言った。
「逆流してる」
点滴と繋がった右腕を凝視した志波はぼんやりと言った。
ぶら下がったパック、チューブを確認し「止まりそうなくらい遅いね」と、志波はチューブの真ん中にある緑のプラスチックを弄る。
繋がったあたりが少しだけ赤かった。
「えっと、看護師さんとか」
「あぁ、大丈夫だよ」
俺には緑のプラスチックの使い方はいまいちわからないが、志波は確かに、造作もなく調節出来たようだ。
また液体は落ち始める。
志波は少し半身が起きたベッドに寝直した。
チューブに混じった血液と液体の淡く滲んだ境目を眺める。
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