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「そうか」
「大変魅力的ではありますが、はい、ないんですね」
「…そうですか」
「あんたの荷物を」
「楓」
見つめればぎこちなく「…楓さん」と年下が言うのだから、「楓、」と正すしかない。
「…なんか、どうなんでしょう」
「そうだね」
「取り敢えず…家にあげて欲しいくらいには」
「俺もです」
「あぁ…はぁ」
「嘘でも、仕方ないし」
「…恋人でOKですかね」
「考えたら、じゃないとおかしい」
「…腑には落ちないので告白させてくださいな」
「いいよ。お返事は俺の自宅で」
「言い方が疚しいのでもう少しさ、」
「枕詞で」
「…案外太い神経してらっしゃること!」
「ははは、」
楽しい。
気がした。
互いに車を降りて、荷物もそこそこにして玄関で靴も脱がずキスをし縺れ、縺れるように真麻が楓をベットへ押し倒したときの絡む視線に大差がなく。
声も出ない、浸水しそうな吐息がどちらともなく「はぁはぁ」と呼吸を早めていく。
穏やかに、しっとりと汗をかく。溺れてしまいそうな時間の流れに「好きかも」と言った真麻は正直な気がした。焦れったいほど、じわりと長く触れ合った。
それが愛か恋かはわからない。
真夜中にシャワーを浴びてベットに座り、楓は「どうぞ」と真麻に声を掛ける。
相手は寝転びながら「大丈夫?」と返すのが不思議でならなかったのだが、疲れと若さと満足が浮かんだ額の髪を上げるように手を添えれば、嬉しそうだった。
「前も思ったけど、なんだか細くて不安になる」
「そう、」
着替えたスエットの腰骨あたりを少し下げ、そこを真麻が食むのがまたじわりとする。それほどに気に入ったのかもしれないが、少し伸ばした髭が痛い。
「髭剃りあるし風呂に入って」
「え?」
「じょりじょりする」
「そんなに嫌がってなかったじゃんか」
「痛い」
「無理させた?」
「違くて」
「ふはっ、」
笑って真麻は寝転んだまま、下腹の腰辺りを抱いてくる。
正直、シングルベットは狭かった。
見上げる年下の頭を撫でて「これって付き合うんだよね」と聞いてみる。
相手の驚いた表情に少し傷付くような気がしたが、
「あんたからそう言われると思わなかった…」
と魂が抜けたように言われた。
「…どゆこと」
「いや、」
より強く腰が抱かれる。これはどういうことだろうとぼんやりと楓が壁を見ていれば「うん、うん、」と真麻の熱が籠る声がくぐもった。
「なんだろ、そうか付き合うってこの感覚で」
「いや勘違いなら」
「嬉しい…かも。俺、なんだかマジで…」
感極まってしまったらしい。
起き上がって膝立ちで体を抱き締められ生々しい臭いがする。
ドキッとしたのも楓には久しぶりだった。やり場は忘れてしまったけど、真麻の左手をふと取り甲を食んで「そうだね」と返せば、背中にまた、下着越しだが性器が当たって見つめ合う。
「…もっかいだけいい?」
「元気だなぁ…。風呂入って欲しいんだけど…」
そのままキスしてまた押し倒されて。パンツだけの真麻が上に見える。
凄く楽しそうで無邪気な笑顔に「ひひっ、」と笑ってしまった。
「楽しい?」と首筋で言われて「髭、」と返事して。着た物の意味はなくなりそう。
真麻の顔が真横で埋められた時、ふいに楓は「っ……、」と、何故だか泣きたくなって歯を噛む。
それに気付いた真麻は顔をあげるが、「どう?」と聞くのに笑顔になれる。
寂しくはないよ、少し怖いだけなんだ。
それを言う間は息遣いに変わって行く。
暖かいなぁ。
けれど何故か恥ずかしくて、不完全で。
殺されるまで、呼吸不全なままに生きていくとして、それは無様なのかもしれない、だが無様でも拾っていける。
落としたものを拾った手は血塗れのままだったのかもしれない。探したけれどもう、見つけられたのは自分の血塗れの手だったかもしれない。その混乱に水浸しでいようと、息は熱いまま朝になる。
ここには、透明な自分。誰でもない日に眠くなった。
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