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 警察庁は、静かなる狂気を孕ませていた。

 樹実はまず、何食わぬ顔をして理事官室に入り、そこにいたやつらを拘束した。
 そのままパソコンにログインし、脅しながらパスワードを聞き出す。自分に必要なデータを引き抜き、最後にそのデータをデリート。デリート時にウイルスがサーバーを犯す。

 その作業の間、特テロ部の名狙撃手だった吉田美玲《よしだみれい》が理事官を連れ、とある捜査資料を持ち出す。
 持ち出しが成功した時点で理事官を射殺。

 美玲は女のわりに、男勝りなやつだった。見た目も、金の短髪で迷彩服。実は元自衛隊の、完璧なる軍人だった。

 その頃には異変に気が付いた者たちが騒ぎ始める。あとは、向かってくる者を威嚇したり殺したりしながら長官の部屋へ乗り込む。

 拳銃片手に長官室のドアを蹴破った。
 護衛の3人の銃口と、警察庁、曽田《そだ》長官の挑発的な視線が一斉放射。すぐさま美玲がサブマシンガンを向ける。

「来たな」
「ちわっす。何でも屋の茅沼っす。長官にお届け物でーす」

 そう言って樹実は、護衛に目もくれず真っ直ぐに曽田の前まで歩み、あの頃の捜査資料をテーブルに叩きつけた。
 この間に一人の護衛が、美玲の射撃によって死亡した。その時点で曽田は、「やめろ」と命じ、他二人の護衛は動けない状態に陥った。

「君は、何がしたい」

何がしたい。
他でもない、自分がやって来たことへの腹いせと、何より…。

「なんだろな」

これはなんなのか。

「…今更これをほじくり返して何になる」
「何になる?覚えがあんのか」
「覚えとは?
 君は何か勘違いをしている。我々がこの戦いで何をしたというのか」
「話の出来ないやつは嫌いだな。何をした?そうだな、何もしてねぇな。なーんも。
 俺たちは全てこれらの、政府を、警察組織をクリーンにするための仕事をしてきたはずだった。だが実際は…なんだかな。
 だがその影の組織が俺じゃダメだったんだよ、長官。
 俺じゃ若すぎたんだ。あんたよりか血気盛んだ。だからこうして寝首かいてクーデターってやつを起こしに来たのさ」
「ほぅ、自分も荷担していたくせにか」
「…そうだな、まったくだ」

 樹実は長官の机に座り、足を組んで長官の目の前でゆったりとタバコに火をつけた。

「だがな長官。あんただってバカじゃないだろ。つまりは、俺にとっちゃそんなことはどうでもいいのさ」
「じゃぁなんだって言うんだ」
「そうだなぁ、何だろうな。書類に目を通すのがあんたの仕事だろう」

何をしているか。
そんなのこっちが聞いてやりたいものだ。

「まあ気付いたよ。
 どの組織に入っても結局のところ正義は、悪の上で成り立つってな。だが別にこれは正義感なんかじゃない。そんなもんはとっくに捨てている。
 そうだなぁ…疲れたかな。安息が欲しい。せめて、宗教施設を薬付けにしてダメなら討伐、成功したら軍隊にして国の物なり海外に売り飛ばして金にするってのはわりと安息じゃないな。あんたらもう充分稼いだし技術も手に入れただろ?俺から卒業してくれ」
「樹実さん、それ、どーゆーことですか」

 声をあげたのは美玲だった。
 彼女は表情も手元の銃口も変えぬまま機械のように、樹実に尋ねた。

「どうもこうもそーゆーことだ。君、分かっててついてきたんじゃないのか?」
「私は…ただ…」
「職務を全うしたいだけなら引き返して就職を探した方がいい。俺は最早こうなるとテロリストだ。そして俺たちが追っていたエレボスのボスということになる」
「…は?」
「つまりエレボスってのは、俺が作った軍隊なんだよ、お嬢さん」
「あんた、今まで…!」
「仕方がない。国がそれを求めた。薬や軍隊や兵器をな。美玲、俺は軍人だよ?国に飼われた殺し屋だ。
 俺たちがしてきたのは、ダメになったヤツらを排除することなんだよ。始めからそーゆーことだったんだ。な、長官」
「お嬢さん、ダメだ。この男を信用するな」

わからない。

 美玲は俯いた。その瞬間に曽田は他の護衛二人に合図をした。護衛二人は隙をついて美玲に向け再び銃を構える。

「長官」
「なんだい、お嬢さん」
「私がついてきたのは紛れもなくその人です。私は、その人について行きたい」

 そう言って美玲は樹実に銃口を変えた。だが、樹実は怯まない。

「あなたが言うことは胡散臭いですがその人が言うことは信用ができます。なんせ上司ですから」
「…良い女だね、美玲」

 樹実は美玲に銃を向けた。

「お前が部下でよかったよ。部下じゃなかったら嫁にしていたな。
 だが悪いな、俺を殺すのは、お前じゃないんだ」

 美玲と、その他護衛に対して樹実は銃を正確に撃ち込んだ。3人が倒れたのはほぼ同時だった。

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