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「でも君、無所属だったよね」
「はい、まぁ、基本的には…」
「急にどうして?」
「特に意味はないんですが…まぁ、社会勉強、みたいな」
「しかし君だけは経歴が不透明だな。正直だが、秘密主義なタイプなのかな?」
「…まぁ、あまり護衛についた人の事は話さない方がいいでしょう?」
「そうねぇ…」

 眼鏡越しに鋭い視線を送られているのがわかる。多分探られてる。まぁそりゃぁ、先日SPが暗殺されたともなれば慎重にはなるだろうが。

 ワインを漸く一口口付けて「美味しい、」と呟いてみる。こう言うときは相手の警戒心を取るのが、一番効果的だ。

「気に入ってくれたかい?」
「はい、とても。よくこちらにはいらっしゃるようですね」
「まぁ…古くからの知り合いでね」
「そうですか…。ちょっと、緊張しちゃって…」
「あぁ、そう?」
「…素敵なお店なんですが、何分こういったところには、あまり馴染みがないので」

 そう潤が言えば速見は、気をよくしたのかまた高そうなものをオーダーする。

 ぶっちゃけ食う気にはならなかったのでそんなに手を付けずにいたのが却って好印象を与えたようで。
 30分ほど胃が痛くなるような思いでニコニコと対応していたらまんまと、「君、なかなかいいね」と言われた。

「だが君のことがいまいち…見えてこないなぁ」
「そうですか?」

 でしょうな。わりとそーゆー、尻尾を見せびらかすような接待は得意だ。

「上品で頭も良い。元FBIなのだから仕事も出来そうだし人当たりも悪くない…しかしそれが素なのかビジネスなのか」
「ちょっと、買い被ってません?俺もあなたの事、雲の上の感覚です」
「雲の上かぁ、情緒的な言い方をするねぇ。僕は一介の警察官僚ですよ」

 よく言うわ。ヘドが出る。
 笑いそうになった口元をワインでカバー。意外に飲めるぞ、しかし目的をまだ果たしていない。

「なんだかそれも少し遠い言い方ですね。
実は俺、貴方でこの仕事、最後にしようかなと思ってまして」
「…え?」
「ここだけの話ですよ?ワインが美味いので」
「また、どうして?」
「俺ずっと一人でやって来てるでしょう?でもSPって何かがないと出来ないことかなぁって。だけどなんて言うんだろうな…だからこそ渇くものがあるんですよねぇ」

 我ながらこーゆー時の悲壮感の出し方上手くないかなぁとか思いながら潤はまたワインを飲んだ。あっという間になくなってしまった。少ないなぁなんなのワイン好きの金持ちぶった官僚って。

「刺激が足りないんですよ。なんか」
「なるほどね。君、どんなことに興味があるの?」
「うーん、まだ見つかってないような…」

 首筋の裏に手を添えて考える素振りをした。これは潤の、本人すら気付かないクセである。

 首筋と腕の血管。なんとなく、この男から醸し出された色気というものに、速見は早くも毒され始めていた。

「君と話してると楽しいね。君、ゆっくり話さない?ここじゃ緊張するなら、僕の部屋で飲み直そう」
「え?」
「個人的に興味が湧いた。君をもう少し知りたい」
「…大した男ではありません。速見さんの暇潰し程度の話しか出来ませんが」
「かまわないさ」

 よっしゃ、掛かったと一人心の中でガッツポーズ。このまま暴いてやるよ、お前の後ろ黒さをな。

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