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「警視庁長官速見秀次郎。拉致監禁の疑いで任意同行願う」
「はっ、」
「ふ、ははは!」

 長官の間抜け面と流星の凶悪面。これが完璧に俺のツボを刺激した。それに、ダルそうに隣にいる野良にも。

「笑い事じゃねぇよクソ野郎」
「え?なに?」
「あーはいはい、あんたは黙って」

 気が抜けた長官の手から拳銃を奪い取る。そして銃を向けた。
 流星に。

「はっ?」
「長官、楽しかったよクソみてぇにな」
「正気か潤」
「えぇまぁ。だって俺一応この変態野郎のSPですから」
「トチ狂ってんのかてめぇ」
「まぁね、そうですね。どーせならぶっ殺されてぇな」
「…あっそう」

 流星は銃を下げた。拍子抜けした。

「んだよしゃべぇな、殺すぞこの野郎」
「お前なぁ…」

 こいつもまた早歩きで来たと思いきや。

「あっ」
「邪魔だ変態」

 長官を蹴り飛ばしたかと思いきや。

「へ?」

 気付いたら押し倒されてるってか馬乗りになってて。
 胸ぐら捕まれて銃を向けられていた。
 しかもいつの間にやらいつものグロックからデザートイーグルに持ち変えてやがる。わりと、本気で怒らせたらしい。

 お陰で俺の拳銃はすっ飛んだ。

「誰が誰を殺すっつった今、えぇ!?おいコラてめぇ何様だこの野郎、あぁ!?」
「だから、」
「だからもへったくれもねぇんだよなんだこれおい!なっさけねぇ逆に死ねよ逆に!えぇ!?
 教えてやろうかてめぇ死ねなかったんだよな、クソほどくだらねぇ、バカなんじゃねぇの?一周回って尊敬しちまうっつーのバーカ!」
「るせぇな、あのな、わかってんだって…」

あれ?

「泣いてんじゃねぇよ気色悪ぃ、殺すぞクズ」
「うっせぇなぁ!てめ、あのなぁ!」
「あ?なんだよなんだよ言ってみろよ勝算あんのか、この死に損ないがぁ!」
「うるせんだよ!」

 殴った。
 避けなかった。
 そのせいで見事に右頬にクリーンヒット。マジ動揺。

「え?は?」

 そしてその手を取って、ついでに自分の銃を俺に握らせてきて。

「そんなに死にてぇか?」

 結構余裕のねぇ面で言ってきやがるから。

「いや…、」

 わりとびびった。
 そして漸く解放され、起き上がれたのでまじまじと見てやると、流星はタバコを一本取り出して火をつけ、そのままアメスピを俺にぶん投げてきた。

「あぁそう。まぁいい。死にたきゃどうぞご勝手に。だがんな理由じゃてめえの骨なんざその辺の野良猫の餌にしてやる」
「…はぁ」
「おい長官。何いつまでも腰抜かしてんだよ早く立てコラ。こいつはくれてやるがてめぇは今からブタ箱行きだボケ。
 あ?立てない?呆れるな。こんなクソ野郎の為に何?五ツ星のクソセキュリティホテル取って金魚泳がして猿みてぇに欲情しまくって挙げ句それかよ。お前が吸ってきた酸素を返せ。二酸化炭素吐き出してんじゃねぇよボケ。殺すぞコラ」
「流星さん、一応上官も上官なんだからさ」
「あ?知らねーよ俺は今最高潮に機嫌が悪いんだよつーか犯罪者にくれてやる言葉なんてねぇんだよ」
「まだ任意同行ですから」
「知るか。俺はね、変態とバカと上官は大抵嫌いなんだよ。おいそこのクズ姫」
「あい、なんでしょ…」
「お前思い出したわダメだ死んだら殺す。高田からてめぇと俺と政宗のガン首揃えて菓子折り持って来いって言われてんだよてめぇも早く立ていつまでアホ面こいてやがる早くしろ2秒で出るぞじゃねぇと殺す。血祭りパーティー開催だ、バカ野郎」
「え、」

えぇぇぇ。何それぇぇ。

「早く!」
「わかった。俺が立ったらお前死んで。ムカついてきた」
「あぁ殺せ俺を殺すのはお前だって無駄口叩いてんじゃねぇよ」
「お前だよ!はい立った!死んで!本気でムカつく」
「あーあーはいはいうるさく元気ですねクソが。死んでやるから早く行くよ」

あぁ腹立つ。
けどなんか。

「ふ、は、」

笑えてきたよ。

「あー、ウケんだけど!」
「潤さん?」
「大丈夫?気が触れた?」

だってだって。

「お前どーやってここまで来たんだよぶちょー」
「ぶちょー権限だよ」

 タバコを捨てる。あぁそれは室内でやっちゃダメなんだっつーの。

「あぁ全く下品な男だねぇ。死ねよ一回」
「密葬な」
「わかってるよ」

 部屋を出ようとしたときだった。

「あっ、」

 長官を掴んでいた伊緒の手を逃れ。

「死ねぇぇ!」

 突進してきたのが左側だ、そう瞬時に判断したのが悪かった。

「あ、」

 ただ、利き手側でよかった。それだけだった。

「潤さん!」
「っは、」

 息が一瞬止まった。
 吐いてみたら左の腹辺りにナイフが少し入っていたが。どうにかこうにか利き手で、そうだなぁ、5センチくらいの深さで押さえていた。

 刺した本人はわりと驚愕な表情で。つうか痛ぇ。

「おい潤…!」

 肩をがっつり掴まれた。凭れるように体重は預けたが。

「あぁうぜぇ、」

 冷や汗がどっと出て来て痛さで最早視界も世界もぐらついてきたけど。

 力が入らんから取り敢えずナイフは抜いてその場に捨てた。そしてちょうど手についたM39のハンマーを、血で滑った手で引いて、そのままトリガーを引いた。

 反動でまた血が出た気がした。取り敢えず、立っていられなかった。

「おい、おい、潤!」
「あぁ、うっせぇな…」

 長官のキチガイみたいな発狂が聞こえる。「いてぇぇぇ!」とか言ってるから肩にでも当たったかな、長身だったし。

「潤、おい、大丈夫か、なあ!」
「うるさいって…言ってんでしょーよ…」

 喋らすなよバカ。何泣きそうな顔してんだよクソが。

「しゃべぇ、ほんと、」

 ダメだ咳き込む。同時に血も吐いた。マジか。結構ヤバイ?

「あぁわかったしゃべぇよ。喋んな、おい伊緒、医者、医者を呼んでくれ!まだいける、てかタオル!」

はっはー、ウケるぜ何テンパってんだよ。高々部下一人に。

「このばか…」

 手を伸ばしたらさっき殴った横っ面で。その手を握る流星の手が、暖かいんだかなんだか正直よくわかんなくて。取り敢えず血塗れだ。見ていると辛くなるから、まずは目を閉じた。

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