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「早坂。そいつうるさい。黙らせとけ」
「あ、あぁ…え?」

 取り調べ室を出ると、「今のはアウトです」と、山瀬に耳打ちされた。
 それを無視して江島の取り調べ室に向かう。二つ隣の部屋だ。

 外窓から見えた内部は、確かに騒然とするものだった。

「潤…?」

 潤が、江島に馬乗りになっていた。

 多分、スイッチが入ったのだろう。仕方がない。

 ドアを開けて、夢中になっている潤の頬に背後からバレルを当てる。

 潤は一瞬びくっとし、振り向き様に俺は腕を捕まれ、銃をすっ飛ばされた。

「あぁ…」

 漸く俺を確認し肩を撫で降ろすが、わかると睨み付けてきた。

「てめぇか流星」

 椅子はその辺に転がっているし、テーブルもずれている。揉み合いかなにかになったのだろうか。潤のジャケットはすぐ近くにぶん投げられてるし、シャツのボタンは外れてる箇所があるし。

 睨む潤の目は瞳孔が開いている。完璧にスイッチオンだ。これは江島が死にかねない。

「何があったんだ、一体」
「うるさい」
「潤、落ち着いて」

 こっちが落ち着いて、少し優しめに声を掛けると、潤はバツが悪そうに項というか首筋を押さえて、溜め息のように一息吐いた。

「落ち着いた?」
「…うっさいなぁ…」

 どうやら落ち着いたらしい。口調も瞳孔もいつも通りに戻っていた。

「じゃあま、まず離…」

 そう俺が言いかけたときだった。

 江島が潤の片手を引っ張り、そのまま体勢を崩した潤の上に乗り、息を荒くして片手で潤が首を絞めた。

 一瞬の流れ作業。

 江島の肩を掴むが、振り払われてしまった。江島は無我夢中と言ったように、潤のシャツのボタンを外す。

 なるほどそう言うことか。
と納得している場合じゃない。

「慧さん、救護班の要請をお願いします」

 入り口に向かって言い、俺は江島の横っ面に一発蹴りを入れた。

「流星さん!」

 潤から離れた江島の胸ぐらを掴み、一発ぶん殴る。

 こいつ、なんなんだ。やはりなんか、変態なのか、勃ってやがるぞこの状況で。

「大丈夫か潤」

 手に当たる骨の感触。後ろで潤の、咳き込む嗚咽が耳についてより感情が高ぶった。

 一発だけ江島にぶん殴られてより腹が立って鳩尾辺りを殴る。多分しばらくそうしていたらしい。「流星、もうやめて」と、苦しそうな声がして、振り向こうとしたら後ろから抱き締められた。

「え?」

 自分の手元を見てみると江島は気を失っていた。潤はなんかだらしないというか痛々しい格好だし、俺何してたんだっけと思えば、拳が血まみれだった。

 あぁ、なるほどね。

 離れた潤は「怖ぇよ、流星」と言って泣きそうになっていた。

「大丈夫か、潤」

 声を掛けたらついに潤は泣き出してしまった。

「おめぇだよバカ…。スイッチ入ってんじゃねぇよ…」
「え?」

 俺はお前のスイッチをオフしに来たんですが。何故泣いてんでしょうか。取り敢えず面倒だ。

「悪かった、ごめんごめん」

 そう言って頭を撫でようとしたら、ごつっと鈍い音がして。あぁ、そう言えば江島の胸ぐら掴んでいたような気がする。今のは頭を地面に打ち付けた音かな。

「あれ、てかこいつヤバイ?」
「やべぇよお前何発殴ったと思ったんだよ。いま猪越さんが救護班呼んでるから」
「あぁ、そう」

 殴ったのか。
 なるほど。俺がスイッチ入っちゃったのね。いつ入ったんだろ。

「流星さん…!」

 噂をすればなんとやら。救護班を連れて慧さんが入ってきた。

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