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 彼が言うとおり、部長も監督官も来なかった。
 なんでも昨夜、警視長官が暗殺され、それに監督官が関わっていたのだそう。

「星川監督官は明後日に退院予定だ。まぁ、それほどの怪我じゃない。
 ただこの事件は少々厄介だ。一度全捜査を引き上げてそちらに移行しようかとも考えたが、何分米国公安が国勢調査に乗り出した。下手に手を出すとこちらの捜査の阻害になる可能性があり、いまの我々には正直太刀打ち出来るだけの手だてはない。ここはひとつ、警視長官は潤に一任しようと考える」

 なんて無責任なことを至極真面目に副部長は語る。

「待った、政宗さん」

 だが、早坂くんもどうやら、持ち前の血気の盛んさで疑問は挺したらしい。

「納得がいかない」
「ああ。だろうな」
「はぁ?」
「俺も納得はいっていない。
 諒斗と愛欄はだが、しばらく俺を見てきてわかるか、そんなときの俺は次どんな手で出る?」
「は…?」
「…政宗さん、貴方は…」

 愛欄が、少し納得のいったような、しかし、最早仕方ないと言いたげな、安らかな表情で息を吐いた。

仲間とは、一体。

「それはつまり政宗さん、博打をしようという感覚ですか?」

 そう挺したのは慧さんだった。

「まぁ、感覚で例えればそうですね。競馬に近いかな。
 速見長官の件はまぁ大声じゃ言えないがいずれ出てきますよ。多分ね。
 しかし俺らには抱えている問題がまぁあるわけで。ここをきっちり押さえないと恐らくは、永遠にゴールにはつかない。俺たちが追ってるもの、それはシンプルに“エレボス”だ」

 副部長はボードに字をつらつらと書き殴る。所謂、相関図に近いものだった。

「そもそもの発端はホテルテロに始まった。ここから、みんなが集まり、この時に流星を射撃したやつの身元洗いから始まった。
 同時刻、大使館裏取引があり、そこでエレボスの取引を確認。
 この際に射撃してきたやつが竜ヶ崎連合会の會澤組の下っ端だと後に判明、それから會澤組を捜査するうちに証券会社ゼウス、帝都大学の|箕原《みのはら》|海《かい》…こいつはエレボスのボスとされる。あと|谷《たに》|栄一郎《えいいちろう》という学者が浮上した時点で會澤組の捜査が打ちきりになった、と言うよりは強制的に終了を迎えた。
 今の我々はここに立っている。
 この長官の話は今はモヤが掛かっているが博打だ。なんせ潤が勝手に拾ってきたヤマだ。
 だが、そもそも…なぜあいつは勝手にんな、死にかけてまで、しかも長官なんてもんを追ったのか。ここはまだまだ謎だ。だが実際問題、長官も、會澤組の突然な検挙も、俺は知らなかったが、国家公務員である二人は知っていた。そして今回の国勢調査だ」
「つまり…」
「あぁ、そういうことだ」
「不穏な話に我々は入ってきてしまったということですね」

 慧さんが静かに言い、そして紳士的に笑った。

「それはそれでわりとおもしろいですね」
「…流石だな、あんた」
「だがそうですね、若者がここには多いから」
「そーゆーことです。
 諒斗や愛欄、お前らにはまだ戻る場所はある。
 瞬、お前はどうする。まぁ3課じゃぁ、戻ったら多分こんな部署だったんだ、予想では交番勤務だろう。
 恭太はまぁ、ここの役割的には仕事には戻れるが多分、最初は批判的だろうな。
 霞は2課か。長官が殺されたからなぁ、それに関与した部署となるとお前も交番かもな」
「…何を根拠に」

 試しに僕は、
この大人に噛みついてみることにした。
 副部長は、そんな僕を物ともせず、冷酷なまでに冷めた目で僕を射てシニカルに笑った。

「経験上だ」
「はっ、」
「無責任なことを言うもんですね」

 斜め向かいの瞬くんが、言葉のわりにはやはり、いつもの無表情よりは柔らかい表情で副部長に告げる。

「僕らは確かに、ノンキャリアだ。それくらいの罵りは|あなた方《キャリア》から再三受けてそこまで…本部にまで来たんだ。交番くらいには行ってもいい、だけど俺は昔から、投げ出すのは得意ではない。それほど器用にやってこれたら、こんな部署でこんな雲みたいな組織は今頃追っていませんよ」

 クールながら彼には、熱がこもった何かが吹き出しているように見えた。
僕にはそれがない。

「じゃ、じゃぁ私だって…。
 折角ここまで来て戻って評判気にするとか、なにそれっていうか…それ本気で言われてますかぁ?みたいなぁ…?」
「俺だってさぁ!
 戻る場所があるとかなんだし、ねぇよ!あんたがそんなのわかってんじゃねぇの!?」

 一斉に若者から捲し立てられて副部長は、
何やら目を丸くしてたじろいだ様子で。
しかし次には、「ふっ、」と、笑っていた。

「知らねぇぞお前ら」
「知られなくても結構ですよ。俺は俺を貫きます。俺はホテルの時、流星さんと潤さんに脱帽して、政宗さん、貴方の包容力を羨ましいと思いました。いままで俺は、そんな仕事にしか出会っていなかったんだ」
「はぁ、そうか、あんときな」
「俺だってさぁ、久々の現場で…なんかこう…沸いたよ。けど、悔しがってたあの人や慧さんを見て、そうかって、思ったんだよ!な、瞬ちゃん!」

 諒斗くんが瞬くんの肩を叩くと、瞬くんがなにも言わずに深く二回くらい頷いた。副部長は「いつの間にちゃん呼びかよ」とにこやかに笑う。

「私はね、この前やめてやろうかと思ったけど!お宅ら大人が頼りなさ過ぎてね、それやめた!てか部長かっこいい!」
「は?」
「え?」
「か、霞!?」

 副部長と瞬くんが呆れ顔、察したのか愛欄は自分の顔を片手で覆う。諒斗くんが凄く情けない表情で、しかし衝撃を受けたように、「か、霞ぃぃ!」と嘆いた。

「どうやら政宗さん、あんた、優しすぎましたね」
「全くですね…。でも、そういえば…。
あーあ。あいつらにも、見せてやりたかったなぁ」

 遠い目をする副部長は、悲しそうでも楽しそうでもあった。

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