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 部長はそう言い切ると、溜め息ともつかない息を吐いた。

「お忙しい中失礼します」

 ふと、そんな空気の中、部署の開いている扉をこんこんと叩く音がした。
 その声の人物に、僕は並々ならぬ焦りや恐怖を感じた。

そして、

「…え?」

 人物を確認した部長の顔に何故だか驚きが見て取れた。

 部署の扉に軽く凭れて腕を組ながら微笑み、片手をあげてフラットに、驚いている部長に挨拶をする好青年。口元の黒子が艶かしい。

まさか、こんなところまで来るとは。

 しかしいくらなんでもなんだか、昔の友人に会うようなフラットさだ。海外が長いとはいえどうも…、

「祥…真、」

はっ、

「やぁ流星。君、こんなところに居たんだね」

何、これ。

 好青年、灰色スーツの|山下《やました》|祥真《しょうま》は、一度部署を見回してから取り敢えずと言った様子で警察手帳を出し、告げる。

「国政調査に参りました、山下祥真と申します」
「国政調査?てか、知り合いか流星」
「…まぁ」

まずいことになった。

「まぁまぁそう堅くならず。国政調査とか言ったけどほぼ雑用をこなしに来ただけだたから。まぁ続けて続けて。どのタイミングで行こうか物凄く迷ったんだよねー」
「え、あの…どの辺から何処にいらっしゃったんですかショーマくん」

 そう部長がぎこちなく言うと「うーん、」と、山下祥真は考えるふりをしながら言う。

「君が部下に薬買って来いよって凄い殺気立ってたあたりかな」

 そう聞くと部長は一人頭を抱えるようにして悶えていた。

「ん?どうしたの流星?人聞き悪かった?」
「それもだけど!それってほぼ全部なんだよわかるよね!」
「なんとなくは」
「マジかよタチ悪っ!」
「流星、というかみんなポカーンとしちゃってるから、まずは皆さんに紹介すべきじゃない?俺今不審な目で見られてるのすっげぇ嫌なんだけど」
「あぁ、はい…」

 さらっと笑顔で部長を流す。そんな様子に、「手慣れてんなぁ…」と副部長は山下に素直に感心していた。

「改めまして、現|機捜隊《きそうたい》隊長の山下祥真と申します。流星くんとは古い?付き合いです」
「えっ、機捜隊!?」

 それに部長は驚いていた。
 場は混乱を極める。しかしどうやら愛欄やら慧さんやらは雰囲気的に納得したようだ。伊緒くんすら、「なるほど…」と呟いていた。

「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてねぇよ怖いわなんだ君は誰なんだ!?」
「はは、面白いな流星。機捜隊の山下です」
「え、だってお前警察庁に」
「あー、それはtop secret。まぁそれは置いといて。
 ウチの|横溝《よこみぞ》が死んだのに君、関わってたよね?それを聞きに来たんだ。
 けどどうやらそれはここの問題が解決すれば得られそうだな」

 山下の笑顔が急にシニカルなものに変わった。この男、やはり、ただ者ではない。
 ふと、山下と目が合うと、山下は途端に笑顔を一瞬消し、僕にこう言った。

「君、何処かで会った?」
「えっ…」

多分、そう。

「あぁ、わかった。さっきのか。具合はどう?あんまり良くなさそうだな」
「あぁ…どうも」
「祥真、君は」
「流星」

 そして山下祥真は、睨むような、まるで人を射抜く冷たい冷笑でこう告げた。

「俺の飼い猫、わりと優秀だったよ」
「…それは、」
「さて、続けてくれ。君たちはこんなところで油売っている暇はないんだから」

 今度は柔和に微笑んだ。
 僕はそれで、今回の全容を全て、把握してしまったのだった。

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