3
そんな空気のなか、突然恭太が狂ったように、金切り声のような笑いを立てた。
もう限界か。
「じゃー僕がしたこたぁテロへの加担でっか」
舌も回っていない様子。
やはりそうか。
「恭太」
「僕ぁね、谷さんに、警察はクソだと、政府は何も認めないって、そー言われて、けどあんなやつ、結局犯罪者だし、耳なんて最初は傾けなかった」
「恭太、落ち着け」
「けどあんた言ったようなこと言われて、僕らのことまで言われてぼかぁ、そうかありえると、したら全部繋がって頭来ちゃって」
「恭太、やめて、」
立ち上がった恭太を愛欄が必死に止める。これはもう、初期段階に入っているだろう。
「愛欄、僕達だって」
そして恭太は情緒不安定に突然泣き始め、崩れ落ちるようにへたりこんだ。
「おかしいじゃないか」
その一言に、愛欄は、恭太に伸ばす手を引っ込めた。
「君が生まれてきたんも僕が生まれてきたんも、ありえないじゃないか」
「何が言いたいのよ」
「いいかい?
卵子は女性で精子は男性なんだよ!だけど君の父親と父さんはどうなんだ、僕のママと母さんはどうだってゆーんだ」
「やめてって言ってるでしょうが!」
珍しく声を荒げて愛欄は恭太の頬を引っ叩いた。愛欄も大号泣で最早二人に誰も立ち寄れないでいた。
「れも、僕ら血の繋がりがない」
「だから、」
「ねぇなんで」
「何が言いたいの」
「公安なんてやっていても結局君の父親はそんなことをしていたじゃない。医者なんてやっていたって僕のママはそんなことをしていたじゃない」
「私は、不満なんかじゃない」
「え?」
「…授業参観に父しか来なくても、いつもパパの帰りを父が待っていたとしても、たまにパパが帰ってくると喜んだ。
ほとんど二人共いなかったけど。だからあんまり帰ってこなかったけど恭太のママ、まぁ私の母にやっかまれながらも恭太と育って、それでも私は、だから、それをバネにして今ここにいるの」
「ふ、ははは…!
だからだよ。
僕なんて誰の血だかわかんないのが混じってる。それでママにも母さんにも愛された。この切迫を君は知らない。愛されることの切迫を、知らない」
「貴方は愛されないことの切迫をしらないじゃない」
「そうだね、これぁ傷の舐めあいだ」
ふらりと恭太は立ち上がって窓際まで後ずさった。寄りかかるようにして窓枠に座る。そしてそのまま自分の蟀谷に拳銃を押し当てた。
「恭太!」
「近付かないで誰も。
部長、あんた、良い線いってます」
「…そうか」
ただ、残念ながら俺はそんなんじゃ怯まない。
仕方なくそのまま恭太の元へ歩み出すと、その拳銃を向けられた。
「流星さん、」
「ちょ、きょうちゃん落ち着けよ!」
「お前ら俺に何かあったら部署移動だぞ。わかってるよな」
それだけ部下達に告げると、瞬も諒斗も顔を見合わせ躊躇っている。いつも明るい霞ですらも立ち止まって動けない。伊緒も、事の成り行きを見ているだけだった。
「こないでください」
「来いよてめぇ」
こちらが拳銃も出さずに充分、ジャンキーでも外さないだろう射程距離内に入れば、案外びびって何も言ってこない。
「喧嘩売ってきたのはてめぇだろ。何を吹き込まれたか最早何を言ってっか全然わかんねえけど聞いてもいねぇのにべらべらと、生い立ちまで話してくれて言い訳に使ったからにはなんかあるんだろ、聞いてやるよ。ちゃんと話せよ。てめぇが鮫島から薬品買い付けてきた理由をな」
「谷さんに言われたからですよ」
「へぇ、一端の公安がどうしてまた犯罪者の言うことなんざ聞いたんだよ。
俺の空想が良い線だと言ったな、つまりはあれか。同じようなことを谷に言われて挙げ句死んだから、鵜呑みにして今回試しにやってみた、そーゆーことか」
答えない。
「ご立派なこった。良い潜入捜査だよ、いま腹ぶっ刺されて這いつくばってる潤が聞いたらなんて言うだろうな。クソほどくだらねぇ。んな脅しに耐えられねぇようなら人間やめちまえよ。あ、やめてるかこのジャンキー公安が」
「おい流星、」
「うるさい…」
「あ?」
「うるさい…!あんたに僕の何がわかるんだよ!僕がどれだけずっと耐えてきたか…。大して目標もなかった、僕なんて愛欄の空欄に入り込んであのクソ野郎のコネで公安に来て、挙げ句なんだこの組織は。すべてを潰そうとしてる、医療やらすべて自由を奪って、美味い思いをする貧困格差が激しくて、結局開けてみたら富裕層なんて犯罪者まみれじゃねぇかよ」
「え?何言ってっかぜーんぜんわかんない。まとめてから言ってくださいクソガキが」
勢いだけ拾えばまぁ言いたいこともわからんでもない。しかしまともに取り合う気もない。
「あんたにはわかんねぇよ」
「そうだな。ただ多分ここにいる誰もわかんねぇよ。お前に潜んでるその言い表せないよくわからん感情は。これは良い言葉風じゃなく普通にわからん。
何が言いたい?お前は出生を憐れんで欲しいのか?それとも公安がクソだと訴えたいのか?それとも人生を変えた公安職に就いていた父親?への不満なのか?
そんなんで仲間を裏切ったのだとしたら意思が弱すぎる。そんな言葉じゃ片付かないほどお前人間やれてねぇよって俺は何に話てんだ?小学生かなんかの道徳の授業かこれ。ダルいんだけど。俺休日なんすけど」
振り向いて政宗に話を振れば肩を竦められた。祥真も苦笑いをしている。
「けどまぁ、タチ悪いことに犯罪なんだよ」
「…あんたは」
「あ?」
「きっと恵まれてんだよ」
「ここにきて妬みかよ。別に恵まれてねぇよ」
「だって、それでも受け入れてくれている。こんなバカみたいなこと言ってる僕の愚痴を、聞いている」
「いや、大して聞いてねぇよ。
お前、谷に何を言われたんだ。鮫島に何を言われたんだ。いままで普通にやって来ていて何故いきなり」
恭太はふと、窓の外を見つめた。7階から見えるそれを彼はどう感じたのか「息苦しいなぁ」と言って鍵を外す。
- 205 -
*前次#
ページ: