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「休日に悪かったな」
マルボロに火をつけて早々、政宗がぽつりとそう言った。
「あんた今朝言ったじゃないか。来たかったら来いって。だから来ただけですよ」
「俺、そんなこと言ったか」
「言いましたよ」
「荒川さん、でしたっけ。
あんた、流星とは俺より付き合い長いでしょ。仕方ないんですよ。流星は最早何かしてないと死んでしまいますから」
「そんなことねぇよ」
「あんたわかってるねぇ。
これ聞いていいかわからんが、お宅らは知り合いなんだろ?まぁ、なんのとは聞かねぇけど…なにぶんウチの部長は秘密主義過ぎてたまに面食らうからな」
そりゃぁまぁ。命取りになるし。
けどまぁぶっちゃけあの部署では、何を言っても多分何も変わらないんだろうけど。
「あぁ、俺らは同期なんですよ。同業者で同じチームとしてやってきました。まぁ、帰国は俺の方が早かったんですけどね。
ユミルもその仲間ですよ」
「あぁ、なるほどな…」
「正直びっくりした。君はもう少し…殺伐としているのかと思っていたから」
「あぁ、そう…」
「随分変わったもんだね。でも今の君なら俺に、「自殺は母国で勝手にやれ」なんて悲しそうな顔して言わないだろうな」
皮肉を言われた気がした。
しかし祥真は、案外柔和な笑みを浮かべているように見えた。
「その…」
「あの時俺は、「残酷だな」と君に返した。しかしそれもまた、君の気持ちと一緒だ。言葉が浮かばなかったんだ」
そうだったのか。
「まぁ君みたいなクソ上司のお陰であれから…ここまで俺はやってきた。しかし、まぁ…。ブレないねぇ、君は」
「祥真、君はどうなんだ」
「俺かぁ…」
ポールモールからまた一本取り出す。「あ、ハズレだ」とか言いながら、それでもなんだか楽しそうに笑って咥えて火をつけていた。まだやってたのかロシアンタバコ。
「あそれウチの部下もよくやる〜」
「あ、今日欠席の?」
「そうそう。あいつムカつくことに一ミリなんだよ」
「俺の知り合いも一ミリなんですよ」
「ちなみに俺のタバコにロシアンタバコしたやつな。同一人物」
「あぁ、なるほどねー。じゃぁここにいる君の部下がちょっとひょうきんなやつなんだねーきっと」
「ユミルほどじゃないけどな」
「あれは最早クレイジーだよね」
しかし祥真は一体。
祥真の仕事は一応、本来ならばこの部署に関しては終了。後は、こうなってしまったからには毛髪検査くらいなもんか。
「あとの仕事は毛髪検査くらいか?」
「まぁ、この部署に関してはね。こちらが聞かなくても充分取れたから」
そして、あの惨劇だった。
「てか流星」
「はい?」
「お前、調べてきたのか?」
「何がですか?」
「何がですかって…。
ニトログリセリンはまだ、お前の分野だがバルビツール酸とコデイン。昨日の感じだとさっぱりだったじゃねぇか」
「あぁ…」
あまり出したくなかったが。
鞄に入れるのも面倒だった、シャツとベルトの間に挟んでいたA5サイズの使いふるされたノートを見せた。その姿に祥真が、「まさしくスナイパースタイルだね」と笑った。確かに。
「何これ」
政宗に、件のページを開いて渡す。たったそれだけで政宗は、その筆記体や日本語を慈しむように指でなぞり、「これは…」と、感極まったような湿った喚声を漏らした。
「ああ」
「…そうか」
「なに、それ」
祥真が聞いてくるので、手の平で、見てもいいよと促す。
「俺の保護者が遺したもんだ」
まさかこんなところで助けられるとは思ってもいなかった。
バルビツール酸やらコデインは勿論だし、その他の薬物やら爆薬についてがびっしりと書かれたメモだった。
「保護者…?」
「そうだ」
「スゴいね、この人。最早…学者レベルだ」
「まぁ、学者みたいな人が知り合いにいてな。多分、それだろう。まさか、こんなところでもあいつの世話になるなんてな」
まったくあいつはどこまで。
どこまで何をひとりでやろうとしていたのか。こんなところでまで、捜査なのかそうでないのかわからない。だけど今回は助かった。
「いつ、これを?だって今朝は…」
「一度帰ったときに。ホントにたまたま発見したんだよ」
「保護者って、いうのは…」
「俺が昔世話になったやつだ。だからまぁ、祥真、お前が何を知っているかは知らないがそれはきっと的外れだ。というか俺自身も俺をよくわかっていないからな」
ただ俺がここにいるのはそいつがここにいた、そいつは今はいない。ただそれだけなんだ。
「なるほどねぇ…」
祥真は探るような目付きで俺を見るが、わりとこっちもそれには慣れている。ただ真実を語るように見返せば、祥真は口元で笑った。
こんな時だけ優男というのはどうして雰囲気を変えるのか甚だ疑問である。多分黒子のお陰だ。
「流星」
「…なに」
「射撃場行こうよ。こんな日は」
「あ、いいねぇ」
「…別にいいけど」
他にも祥真に聞きたいことはごまんとあったが取り敢えず、場所を変えるのもいい。
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