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「取り調べって、鑑識じゃぁしたこと…」
「実はありますよ」

 笑顔で慧さんは語る。「犯人が昔、僕を指名したことがありまして」
どんな事件だそれ。
 経歴、非常に興味深いな。しかし次には「じゃぁ俺が行きましょうか」と、鉄面皮後継者瞬が言う。

「あ、二人でやるってどうだい瞬くん」
「やる気満々ですね。まぁどちらも二人は残るし、あとは任せちゃってもいいですかね」
「それって二人で取り調べるの?」

 潤が頬杖をついてぼんやり言った。
 不満そうだがお前もわりと取り調べはあかん方じゃんか。

「そうですね」
「一人をストーカー、一人をマトリに派遣するってどう?」

 と話を振ってくるが。

「マトリはお前じゃないのか潤」
「は?なんで」
「前髪」

 はっと思い出したらしく「やべぇ、そうだったよ」と潤は頭を抱えた。

「うわくっそ、こんな時に何故いないユミル、俺の仕事鬼じゃん」
「まぁな」
「まぁお前が蒔いた種だがな」

 ずっとかちゃかちゃやりながら政宗は助言。というか横やり。
 面倒だが人員配置を考えよう。

「…すみませんが鑑識チーム、一番優秀なんでユミルの野暮用をお願いします。
 マトリは潤か瞬に任せよう。片方がマトリ、片方が先日の大学。霞と諒斗はそのままホテル」
「じゃぁ瞬、大学で」
「かしこまりました」

 二人の間で決まったらしい。
 ならば経つ準備をしようか。パソコンを閉じデスクを立った時潤に「ついでにタバコ」と、着たコートの裾を引っ張られたので見てみれば。
 潤はやけに含みある、気の強い視線を送ってきやがったので「はいよ」と。

「政宗は行きますか」
「いやあとちょい」

珍しい。
多分始業から二時間、吸ってないんじゃないか、だからかそのイライラ。

「いや、昼休みにしたら?」
「てめえらどうせ話でもあんだろ。まぁ流星、気を付けて」
「はい、いってきます」

 鞄やらも手に持ち「おら、行くぞ潤」と促せば潤もコートを羽織ってふらっと椅子から立ち上がり、二人で部署を出た。

「寒ぃから車入れろ」
「いや、車も寒ぃよ多分。まぁいいけど。風強ぇしな」

 潤がわがままを言ったので、俺たちは喫煙所でなく、車へ移動した。

 最近事件があってから俺は車種変更をした。半ば強制的に。帰ったら白のセダン、しかし右ハンドルという中途半端感がある車があって、正直「返って目立つだろう」と高田にメールをしたが返ってこないのだ。
 長くなるなら俺の車で話を聞こうかと考えたが、潤が受付で捜査車両の鍵を受け取ったので、そちらに乗ることにする。

 白の日本車だった。

 左を開けた潤を見て、そうか普通そうだよなとなんとなくぼんやり思いながら右の運転席に乗る。扉を閉めて早々、潤はタバコを咥えて火をつけた。

「お前、自分の出生を知らないらしいな」
「え、なんだいきなり」
「いや、あのライターの話だ。正直嘘か本当かわからんのは、お前のことを俺は知らないからな。判断出来ない」
「…あいつがそう言ったのか」
「夢みてぇな話だがな。お前の父親が高田の元相方じゃねぇかと言われた」
「は、いや…」

わからんけど。

「…俺の戸籍は適当なことになってるぞ。樹実だからな。まぁあいつの知り合いか何かの籍に入ったんだろうと思うが」
「つまり知らねぇわけだよなお前も」
「…何が言いたい?」

 正直その話は俺も、自身のことながら薄い。しかし俺だって潤に出会ったのは警察学校だ。身の内の話をするほどでもないし。

「いやどうせバレそうだから言っとくが、俺は前防衛省幹部の倅だ」
「はぁ、そう…」

 温室説、マジだったか潤。
 あ、でもなんか繋がってきたぞ。だからちらほら、海軍訓練所が出てくるのか。

「父親は10歳の時に暗殺された。このネタはあまり知られていない。息子の存在すら葬式で皆知るような状態だった」
「…なるほどな」
「だから俺も戸籍が曖昧だ。親戚やら、親戚かどうかも怪しいところを、たらい回しにされていたから。
 漁ろうにも俺の過去なんてそうやって難しいわけだが、あのライター、父親ならまだ調べがつくが、海上自衛隊幹部に預けられたことを知っていた」
「…それは事実、というわけだな」
「ああまあな。この情報を知っているのは当時の警察組織のほんの一握りだ。正直俺くらいのスパイじゃない限り一般のライターなんかが知れる情報でもない、知ったところで俺が生きてきた道筋を追えるヤツなんてごく僅かだ」
「…つまりヤツはわりとお偉いやつと繋がりがあるわけか。それがしかもこっちサイドで、だが敵方に回っている、と」
「お前、鮫島はわりと警察と繋がっていそうだと言ったよな」
「あぁ、なるほどね」
「実際のとこもしそうなら、俺の少しくらいだが一部情報が漏れている。そしてお前のネタがガチだとすればお前、」
「確かにわりとあぶねえな」

 しかし実感がない。
 ふと笑えば潤は「流星、」と、マジな感じで言ってくるが。

「悪ぃ。俺嘘偽りなく自分のこと、覚えてすらいないんだ。
 どこかの国で樹実に拾われ日本で国籍を得た。樹実が言うには俺はだが、日本人らしい。確かに、その日現地で話していた国の言葉がわからなかった。何故だろうな。多分日本人しかいないような場所だったのかもしれない」
「それって…」

 出生について、考えなかったかと言えばそれは嘘だが、正直記憶の何かが邪魔をする。思い出したくても出来ないのだ。

「…だから、環ちゃんなんだな、お前」
「え?」
「いや、今のは感想。まあ行くならそれなりに力入れて行けよ」
「そうだな」

 不器用ながらこれもヤツの気遣いかと。
 それから車を降りて振り向きもしない潤に、それを感じた。

今更何が出たところで。
それが過去なら、もうそれは俺でなく、ベトナムで死んだ一人の子供の話だ。付きまとうなら、亡霊だ。

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