4


 裏口で何者かにすぐ射殺されるビジョンも思い描いたが、当たり前ながらそんなこともなく。
 あっさりエレベーターに乗って、14階で降りた。確かに、目の前に社長室はあった。

 社長室に入ってすぐに射殺、もなく、先程の付き人が待ってましたと言わんばかりに茶汲みをしていた。
 鮫島の社長室は、今時スタイルなのか、椅子がなかった。鮫島は遮光カーテン、つまりは窓の方を一人眺めて切り出した。

「確か速見くんも、警察病院、つまりは警察の管轄内で死んだんだよね」

 これは一般的にも公表されているニュースだ。こいつが知っていることもなんら不思議でない。

「しかし結局真相にはまだ辿り着いていない。まぁ、内部犯だろうけど。彼の汚職まではまだ公表されてないかな」
「何故あんたが知っているのか」
「簡単だ。俺には広い人脈がある。だがいまいちそこだけは掴めないのは、意図的に情報操作がされているからだ」
「だからフリーライターなんて胡散臭いのを寄越したんですか」
「やはり、君もあれには動揺したか」

やはりか。

「しかし、彼も特に法には触れていないはずだ」
「残念だがストーカー容疑で引っ張ってる」
「あぁ、なるほどねぇ。
 しかしまぁ俺はなんとなく、こうなるのはわかっていた。
 君の部下の星川潤、そしてスパイの横溝暁子があれには関わったようだな」

…スパイ。
なるほどな。しかし、ならどこからのスパイだ。

「しかし横溝は組織に消されてしまい、情報操作に大きく星川潤が関わった、そうだろ?」
「は?」
「彼はあの、国家機密を揉み消した男の息子だ。血は争えないね」
「…あんたは何を知っている」
「おっと、これ以上が欲しいなら金銭を要求する。企業の死守だ」
「金銭を要求した時点で恐喝とも取れるが鮫島社長」
「俺は君のことも少なからず知っている。なんせ、君の父とは仲が良かった」

 さぁ、どちらが出るか。
 果たして、高田か、高田の相方か。

「しかし君は父を知らないはずだ。何せ彼は、その頃には妻を亡くしているはずだからね」
「…なんの話だ」
「辻褄が会わないんだ、君の出生は」

まぁ。
でしょうね。

「彼が最後に確認されたのは15年も前だが、その頃には彼の妻は死んでいた、ということだ」
「誰の話をしているかわからないんだが。あんた、フリーライター並の情報だな」

 依然として言えば流石に少しは動揺したらしい。押し黙り、しかし食いつくように、

「君が信じてる物が全て虚像だったら、君はそれを考えたことはあるか」

んなの。

「…ねぇよ」

 言い聞かせるように自分にも言い捨ててやる。心なしか自分の声が頼りない気がする。推し進めよう、そう考え、

「會澤、帝都大管轄、警察庁長官、全ての麻薬取引について、任意同行を願いたいが」
「闇に葬られた君の知り合い、茅沼樹実は君のハズなんだ」

 そう言われて。
 流石にこちらも言葉を失った。
なんだと言う。そんなことは、

「…誰だよそいつは、」
「忘れたのか、君の元上司であり唯一、」
「やめろ、知らない」

 冷や汗が出るような気持ち悪さ。
 俺が茅沼樹実だと、そんなはずはない。
 何故なら俺があの男を殺したからだ。

「戸籍で言えば君は充分に茅沼樹実だ。だからおかしいんだ」
「だから、」
「スパイ日本組織、高田創太のスポッターであった|壽美田《すみだ》|一成《いっせい》の息子は茅沼樹実となっている。君は死んだハズなんだ、7年前に」

はっ、

「意味がわからない。誰だって聞いてんだよ、クソ野郎…!」
「はっきりしたな。
 君はいま身を守る物が何一つない」
「デタラメだそんなの」
「さぁ、どうかな。しかし同郷からの情報だぞ?」
「はぁ?」
「まぁそれは言えないがな。
 あぁ、そうそう。君の恋人、可愛い子だが、可哀想だな、なにかと不便じゃ」
「うるせぇよクソが!」

 気付けば銃を抜いていた。
 はっとした時に付き人が俺を押さえようと手を伸ばしたのが見えて、反射的に裏拳してしまった。
 鮫島は高笑いをし、「暴行罪適用じゃないか?」と煽るが。
 取り敢えず銃を降ろし、「まだ話は済んでいない」と告げる。

「捜査撹乱の公務執行妨害だってこっちにはあるんだよ鮫島さん」
「恐喝じゃないか?一般市民を。証拠はあるか?」
「そちらこそ。誰に聞いたか知らんが人のことをおちょくるのもいい加減にしろ」
「君は自信を持ってそう言えるか?」
「言える。
 茅沼樹実は俺が射殺したからだ」

 何故か空気が変わった。
 こちらも捻り出した物だ。正直どちらも五分五分で劣性とみた。

「…なんだって、」
「茅沼樹実は、俺が殺したんだ。あの宗教施設で」
「はっ、」

 諦めたように鮫島は笑い、窓に凭れた。

「…感服だ。俺も掴まされたな。良い線行ってたんだけど」
「そのデタラメ情報は誰から」

 聞いてる最中だった。
 鮫島がふと、部屋の奥にある机のへ歩き、引き出しを開けた。
 そこから銃を取り出し、「あっ、」となった瞬間。

 自分の頭に当てて発砲した。遮光カーテンに血が飛び、俺はその場に立ち尽くした。

- 275 -

*前次#


ページ: