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 タバコに火をつけ漸く静まってきた気がした頃、風呂上がりの湿った臭いがして気持ち、身体が強張った。

確かに寝室はリビングの隣だけれども。

 ちらっと見れば環が寝間着を着て、長い髪をタオルで拭いていたのが色っぽい。
 何も臆せずに隣に腰を降ろした環に「あのっ、」と情けない俺。

 さっきは背中だし、タオル掛かってたから気付かなかった。けどそうだ、あれから環は指環をずっと首から下げている。

俺が、これならいつでも、
俺に何かあっても捨てられるからと、そう言って首に、ネックレスとして下げたのだ。

「お疲れ様です流星さん」

 笑顔でそう言ってくれる環はずっと、変わらない。

「うん…」

 タバコを消して気まずい気持ちを抱いた。

「風呂、入ってくるわ、汗かいたし」

 すぐに立ち去ってしまう俺は情けなさも少し感じていた。
 というか、保て理性。男は不便だ。しかし考えないようにしようと、複雑な心境で風呂に入る。
 生理現象だから仕方ないけど、半勃ちだった。マジで。

いや、気付かないフリ、でも待て、これっていつどうする。環が寝たのを確認したら致すの?と頭で考えて冷ましてみる。考えてみたら毎度そうじゃん。

不感症ではなく、これって度胸がないのかな。
だよなぁと一人がっかり。よしなんとかなった。

 しかしなんだか長めにシャワーを浴びた気がする。大丈夫か俺。逆上せてないかと言い聞かせてはまず髪を乾かしてみる。
 時間が経てばモヤモヤはあるが、うん、通常運行。いつもモヤモヤしてるよなと漸くリビングに行く気になった。

 寝室は閉まっていたが、ライトの明かりが漏れている。寝たかなぁ環。テーブルの上に起きっぱなしにしたミネラルウォーターをまた飲む。

 一息、よしと息を吐いてドアをスライドすれば、環がすぐそこのベットに座っていたので軽くびびった。

「起きてたの…」
「はい」

 環はぼんやりと俺を見上げてから少し、寂しそうに笑った。

「なんだか、お疲れですか?流星さん」
「ん、え、あぁ。まぁ」
「そうですか…」

間。
え、ちょっと気になるけど。
いつもとなんか違う。

「…どうして?」
「いえ…」

 そう言って顔を横にそらし、俯いてしまうのが、どう考えても切なそう。

なんだろ。なにかあったのかな。
隣に座って環を見つめてみる。

「…なにか、あったの?」
「いや…まぁ、寝ましょう」
「いや、気になるよ環」
「うーん…」

 ちょっと身を乗り出してしまった自分。わりと変に気持ちに余裕がないらしい。

「いや、あの…お疲れみたいなので、寝るのが一番かな、と」
「…ん?」
「少し、なんだか私に距離を置いてるのかななんて、被害妄想を…」
「環、」

そうか。
いや、ある意味帰ってから一連距離を置いているんだけど。
つか。

「…本当にそれだけ?」
「え?」

なんて。
煽っちゃってもまぁいっか。理性ちょっと揺らぐ。

「…寂しかったの?」
「…うーん」
「俺、少し気まずくてさ。さっき、ほら…」
「あぁ…。
 いや、あまり気にしませんよ?だって…」
「だって?」

 黙り込んで俯いて。
 白い肌。だけど首筋が少し赤くなっていて。素直に、可愛い。そんな姿。

「あのさ、環」

 ちょっとなんか変に笑っちゃいそう。落ち着け俺。鉄面皮だろ?
 けどそうだ、最短精神だったわと思い出したのは「はい?」と俺を見上げた環の後頭部に指を絡ませ、環の膝の上にあった手も握り、そのまま唇を重ねてしまったから。

 キスしていい?とか聞こうと思ってたのに。腕は項に回されて。
 啄むようなそれにも、試しに舌を入れてみても、すんなり受け入れてくれて。それが凄く幸せな気がして。

 どっちから雪崩れ込んだか、わからないけど。

 初めて見る環の、強く潤んだ瞳にはもう、微笑むことしか出来なくて。ただ、ちゃんと言おうと耳元で「好きだよ」と言えば、緩く後頭部は撫でられた。

「流星さん、」

 呼ばれて、瞳はかち合い、どちらともなく微笑んで。

暖かいなぁ。

ただただ抱き締めているいまでも、こんなに人は暖かくて愛しい。

「おいで」と、聖母のような優しい笑顔から、その暖かい春のような気持ちと、何より愛しさに、俺は緩くも夢中になって環を抱いた。

愛しくて、キラキラした時間が流れている。生きている、愛する、呼吸をすることはこんなにも素晴らしいと、感じた夜だった。

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