7
タバコに火をつけ漸く静まってきた気がした頃、風呂上がりの湿った臭いがして気持ち、身体が強張った。
確かに寝室はリビングの隣だけれども。
ちらっと見れば環が寝間着を着て、長い髪をタオルで拭いていたのが色っぽい。
何も臆せずに隣に腰を降ろした環に「あのっ、」と情けない俺。
さっきは背中だし、タオル掛かってたから気付かなかった。けどそうだ、あれから環は指環をずっと首から下げている。
俺が、これならいつでも、
俺に何かあっても捨てられるからと、そう言って首に、ネックレスとして下げたのだ。
「お疲れ様です流星さん」
笑顔でそう言ってくれる環はずっと、変わらない。
「うん…」
タバコを消して気まずい気持ちを抱いた。
「風呂、入ってくるわ、汗かいたし」
すぐに立ち去ってしまう俺は情けなさも少し感じていた。
というか、保て理性。男は不便だ。しかし考えないようにしようと、複雑な心境で風呂に入る。
生理現象だから仕方ないけど、半勃ちだった。マジで。
いや、気付かないフリ、でも待て、これっていつどうする。環が寝たのを確認したら致すの?と頭で考えて冷ましてみる。考えてみたら毎度そうじゃん。
不感症ではなく、これって度胸がないのかな。
だよなぁと一人がっかり。よしなんとかなった。
しかしなんだか長めにシャワーを浴びた気がする。大丈夫か俺。逆上せてないかと言い聞かせてはまず髪を乾かしてみる。
時間が経てばモヤモヤはあるが、うん、通常運行。いつもモヤモヤしてるよなと漸くリビングに行く気になった。
寝室は閉まっていたが、ライトの明かりが漏れている。寝たかなぁ環。テーブルの上に起きっぱなしにしたミネラルウォーターをまた飲む。
一息、よしと息を吐いてドアをスライドすれば、環がすぐそこのベットに座っていたので軽くびびった。
「起きてたの…」
「はい」
環はぼんやりと俺を見上げてから少し、寂しそうに笑った。
「なんだか、お疲れですか?流星さん」
「ん、え、あぁ。まぁ」
「そうですか…」
間。
え、ちょっと気になるけど。
いつもとなんか違う。
「…どうして?」
「いえ…」
そう言って顔を横にそらし、俯いてしまうのが、どう考えても切なそう。
なんだろ。なにかあったのかな。
隣に座って環を見つめてみる。
「…なにか、あったの?」
「いや…まぁ、寝ましょう」
「いや、気になるよ環」
「うーん…」
ちょっと身を乗り出してしまった自分。わりと変に気持ちに余裕がないらしい。
「いや、あの…お疲れみたいなので、寝るのが一番かな、と」
「…ん?」
「少し、なんだか私に距離を置いてるのかななんて、被害妄想を…」
「環、」
そうか。
いや、ある意味帰ってから一連距離を置いているんだけど。
つか。
「…本当にそれだけ?」
「え?」
なんて。
煽っちゃってもまぁいっか。理性ちょっと揺らぐ。
「…寂しかったの?」
「…うーん」
「俺、少し気まずくてさ。さっき、ほら…」
「あぁ…。
いや、あまり気にしませんよ?だって…」
「だって?」
黙り込んで俯いて。
白い肌。だけど首筋が少し赤くなっていて。素直に、可愛い。そんな姿。
「あのさ、環」
ちょっとなんか変に笑っちゃいそう。落ち着け俺。鉄面皮だろ?
けどそうだ、最短精神だったわと思い出したのは「はい?」と俺を見上げた環の後頭部に指を絡ませ、環の膝の上にあった手も握り、そのまま唇を重ねてしまったから。
キスしていい?とか聞こうと思ってたのに。腕は項に回されて。
啄むようなそれにも、試しに舌を入れてみても、すんなり受け入れてくれて。それが凄く幸せな気がして。
どっちから雪崩れ込んだか、わからないけど。
初めて見る環の、強く潤んだ瞳にはもう、微笑むことしか出来なくて。ただ、ちゃんと言おうと耳元で「好きだよ」と言えば、緩く後頭部は撫でられた。
「流星さん、」
呼ばれて、瞳はかち合い、どちらともなく微笑んで。
暖かいなぁ。
ただただ抱き締めているいまでも、こんなに人は暖かくて愛しい。
「おいで」と、聖母のような優しい笑顔から、その暖かい春のような気持ちと、何より愛しさに、俺は緩くも夢中になって環を抱いた。
愛しくて、キラキラした時間が流れている。生きている、愛する、呼吸をすることはこんなにも素晴らしいと、感じた夜だった。
- 290 -
*前次#
ページ: