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 その日帰宅したのは夕方6時くらいだった。
 はっきり言って遊ぶ元気がなくなるくらいに疲れた。
 家の前まで来て、美味しそうな匂いがしてはっと我に帰る。

 やべぇ、ホンマに3日くらい家を空けたわ。
 祥ちゃんと住み始めて、というか出会ってそんなこと、あまりなかった。精々あっても次の日朝帰りだった。

ヤバいな心配させているかな。

 流石に罪悪感が沸く。どうしよ、居なかった間の夕飯とかどうしてたかな。

 こっそり、静かに扉を開けて小さく「ただいま〜…」と、蚊の鳴く声で言えば、コンロが止まった音がして。

 リビングが開いた。
 祥ちゃんがダサ眼鏡と寝癖で、覗くようにしてこちらを見ていた。
 俺を確認すれば祥ちゃんは「あっ、」と言ってから駆け寄るように、玄関に立ち尽くした俺の元まで来て「おかえり!」と言ってくれた。

「た、たらいまれす」

 噛みまくり。動揺しすぎ俺。

「あーもう!潤!」

 抱きつかれた。
 髪を撫でながら「死んだかと思ったじゃん」と言った後に祥ちゃんは、不自然にその手を止め、肩を掴んで顔を覗き込まれた。

「…潤。
 遊び狂っていたね?」

ぎくっ。

 ふう、と息を吐いてから祥ちゃんは、なんだか人の体を探すようにぽんぽん触っていっては「やっぱり」と。

「若干痩せたし、目は充血気味だし。不健康生活をしたね君」
「…はいい…すみません」
「いや、まぁ別に良いけどさぁ…まぁ、心配はするでしょうよ」

 言い返せない。
 なんで心配するのとか、言ってしまいそうで打ち消しては「はい」と祥ちゃんはリビングへ促す。

「晩飯まずは、食べられるの?」
「うぅ、はい」

若干この優しさが。
なんだろ、泣きそうになるけど泣かない自分がいて。

 結局リビングへ戻る祥ちゃんの背中に着いていくだけで。
 ソファに座って漸く「腹減った」に至った。

「ふ、はは。
 はいはい。いま持ってくから」
「すんません…」

頭が上がらんわ。

 しかし今日はヘビーにハヤシライスだった。
 皿を置いた祥ちゃんに「オムタマにした方がよかった?」と言われたが、食った瞬間やっぱ泣きそうになって「ふん、」とあんまり返事が出来なかった。

「いやもう帰ってこなかったりして、とか考えたら作り置き出来るやつだな、とね。したら帰ってきても食えるし」
「ごめん…」
「なんか、遊び呆けてたわりには傷心してんな。自棄にでもなったの?」

そうですぅぅ。
自棄になって数日間アバンギャルドですぅ。心身ともに疲れてますぅ。

 答えずにいれば祥ちゃんは特に気にした風でもなく。ただただ前屈みになってテレビを見ていた。

 テレビは動物番組で。
 あんたそんなの観るやつだっけと。
 けどそれも口に出せなかった。

「…取り敢えず食ったら寝れば?風呂が良いか?ぶっちゃけ若干こう…
 タバコかな。シャブみたいな臭いがするんだけど潤」

 しかも。
 祥ちゃん、若干怒ってる。

「…タバコです」
「あそう」

こ、

「祥ちゃん怖いごめんなさい」
「別にいいけど。君の遊び癖はまぁまぁ把握してますから」
「なんか…」

そんなになんで怒るかな。
よくね?俺ってもうこのテレビの向こうの猿と変わんねぇじゃんか。

 ちらっと俺を睨み上げた祥ちゃんは、
なんだか俺の顔を見た瞬間に心配そうに、「あのさ、」と言ったが。
 続かなかったのか、ぎこちなく髪に触れてくる。
 流石に。

「やめて、マジ」

 払いのけてしまい、
それが虚しくなってついに涙が流れた。

「…なに、どうしたの潤」
「わかんな、い。けど嫌」

 祥ちゃんは黙って手を引っ込め、自分もハヤシライスを食べ始めた。

 無言が続いたがふと、
 「気持ちはわかるけど」と祥ちゃんは言った。

「多分それは自傷に近いもんかもなと、わかるから怒ってたんだけど。
 そこまで拒否られると少し傷付くじゃん」

わかってる。

「わかってるよ、祥ちゃん」
「うーん。ごめん、あんま伝わった気がしない」
「ごめんってば」
「あんまそれも響かない。
 心配してんのはまぁ俺の勝手だから気にしないで。俺こそ悪かったね」
「うぅ…」

 伝わらない。
 ちらっと祥ちゃんは、俺を見て、それから何事もなく食べ終わった皿を下げて。
 ついで戻ってきてはやっぱりぎこちなく俺の頭に手を置いて。

「君ん家に転がり込んだ俺が言うのもなんだけど、まぁ、俺に出来るのって飯作るくらいだから。連絡して」
「…うん」
「いや、ごめん。いま話すのはやめよう。凶器しか俺にはないわ、今」
「どして…?」

 純粋に聞いてみた。
どうして俺を心配するのと。
 祥ちゃんは、答えずに曖昧に笑った。

「わかんねぇ」

 それだけは、言ったんだけど。

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