8


「待て、」

 相手に44マグナムを向けながら瞬は鋭い眼光で睨み付けるも、動揺はする。

中曽根太一。

 丁度、身元を探していた元Hestiaの従業員だった。
 「辻井さん、」と諒斗が瞬の後ろで言い素直に「お前っ、」と相手に動揺を向ける。

「…中曽根太一、」

 中曽根は二人を見てから「久しぶりですね」と言う。
 銃を向けながら瞬が相手に近付いて行けば中曽根はその注射器を自分の手首に当て、「いいんですか」と脅す。

「一発で被疑者死亡。あんたら二人はそんな汚名を被る。また立場は悪くなりますね」

 瞬は止まる。しかし、銃口は中曽根に向けたままだ。
 「ふっ、」と嘲笑ってから中曽根はその伸ばされた左腕に注射器を当て、パーカの中、ジーパンのウエストに忍ばせていたコルトローマンを抜き取り、右手にローマン、左手に注射器を持ち代え、起用にリボルバーのハンマーを起こした。

 ローマンの銃口を瞬に向けながら中曽根はしゃがむ。
 瞬もハンマーを起こし、中曽根の足元に銃口をずらすも、「来たら撃ちますよ」と言いながら辻井の首筋に注射器を当てた。

 互いに.375マグナム。
 咄嗟の判断でリボルバーを握った瞬の頭の回転は正解だった。
 しかし、相手は.375を片手で持っている。状況的には瞬が有利だが、彼は一般人であり加害者だ。ましてや、この状況ならいつでもその液体で辻井を殺すことが出来る。

 息を呑んで諒斗は瞬の背中を見る。
 若手唯一のリボルバー使いに、自分のオートマチックは出る幕がない。
 これは何かの隙に辻井の元へ駆けていくのが得策かもしれない。

 例えば、そう。
 相手が注射器を離し、銃も手放した瞬間、とか。

「銃を下ろしていただけますか」
「出来ないな。その注射器をまずは置いてもらおうか」
「何言ってるんですか。いつでもこちらはこの人を殺せるのに対し、こちらはまだ貴方にチャンスを与えたのに」
「どっちが早いかな」

 カンマで、正直同じマグナムだが、銃身の長さから、スピードは正直ローマンよりスミスアンドウェッソンM29の方が勝るかもしれない。
 しかし、人質は開放されていない。この状況はどう打開するか。

 辻井が諒斗を見つめる。
 自分が仕掛けると言う合図かもしれない。

「…ウチの|千種《ちくさ》ユミルという化け物みたいな白人はどうした」
「何を言ってるんですかあんたは」

 針が少し刺さる。
 引けば良いのか、この腕は。微かに腕を引こうにも、上手く行かない。

「知らないのか」
「誰ですかそれは」

 徐々に液体は微力ながら流れている。
腕を引きたいが「お仲間を撃ちますよ辻井さん」と言われ辻井は抵抗を止めるが。

「別に仲間なんかじゃない」

 瞬が一発、言いながらトリガーを引いた。辻井の足元付近に。
 ぐっと辻井は息を呑んだ。

なんだこの新人。

 動揺したのか中曽根は「は?」と、少し震えた声で言う。間にまた瞬はハンマーを上げる。

「死んでしまったら殉職ですね、辻井さん」
「ま、マジで言ってんの?」
「当たり前ですよ傍迷惑な。まぁ、部長の首が掛かってるんで来ましたが、些かあんたを守るのは腑に落ちない」
「え、えぇ!?」

 動揺したのか中曽根は注射器を持った手は離し、「痛っ、」と言う辻井をそっちのけでその左手は銃に添えた。
 「瞬ちゃん酷い…」と言う諒斗は、言いながらも昔のよしみ、辻井を助ける手だてが出来たと確信する。

「なんか勘違いしてるようだが中曽根、この人はまずマトリじゃないし」

 距離を詰める。しかし中曽根も後ろへ後退り始めた。
 少し離れた今だと思った諒斗が動こうにも「動くな!」と中曽根は今度は諒斗に銃を向けるも、一歩一歩近付いてくる瞬にビビり始めていた。後退っていく。
 中曽根はまさかの仲間すら気にしない瞬の冷静さに、戸惑ったのだった。

「お前、どういうつもり、」
「どうもこうもお前だって仲間を殺したじゃん」
「違う、あれは」
「違わないよ」

 壁にぶち当たり極限に達した中曽根は「うぁぁ!」と、
銃口を自分の蟀谷に当てたのが瞬としては厄介だった。
 まだこいつには聞きたいことがありすぎる。
 「酷いなぁ瞬ちゃん」と言いながら諒斗は辻井の元へ行き、丁寧に注射器を抜いて「大丈夫ですか辻井さん」と声を掛ける。

 幸い麻薬は微量過ぎて効果はないだろう。どうやら、錠剤も吐き出してるようだし、と、諒斗は次に縄を解しにかかる。

「待てよおい、」
「待つか普通。
 拉致監禁と殺人未遂、麻薬取締法違反で現行犯かな」

 息を荒くして目を瞑り歯を食い縛った瞬間に瞬はがっと中曽根の、ローマンを握った右手を力を込めて掴めばそのまま拳銃は落ち、壁に誤発射した。
 「うわ、危なっ」と辻井と諒斗がハモるも、気にせずに瞬は素早く中曽根に手錠を掛け、「はい、午前10時14分、現行犯逮捕」と淡々と言った。

 だがすぐに、中曽根は痛そうに顔を歪め始めた。
 まさかと思い瞬はしゃがんで中曽根の頭を掴んで振る。
 口は開いたらしく、出血もそこまでない。開いたのを確認してから半ば強引に中曽根を横に倒して「はぁ、」と溜め息をついた。

「それ、案外死ねないぞ。無駄な抵抗は止めろ」

 そしてすぐに腕を引っ張り起き上がらせる。手錠が食い込み「いはっ、」とまともに喋れなそうだが「はい立て」と冷静だ。

「…マジで鬼」

 諒斗は辻井に肩を貸しながら立たせて呟いた。

- 305 -

*前次#


ページ: