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「…茅沼樹実に関しても、流星に関しても、戸籍が出てこなかった。つまりは最後まで調べられなかったから確証はないけど」
「…戸籍がない?」
「そう。
 そんな人物は端からいない、と言うことなんだ」

なにそれ。
それって。

「祥ちゃんはどうなの?」
「俺はまぁ、ボスのケリーがちゃんと、父親として養子と、れっきとして戸籍謄本がある。もちろんユミルもだ。
 だが流星と樹実さんの間柄が微妙なんだ。兄弟。そうなると流星は、前警察庁長官|曽田《そだ》|正孝《まさたか》の息子になるはずだが、曽田は茅沼樹実を認知していない」
「…それってあの、」
「そう、君ら前“特テロ部”の幹部がテロを起こした事件だね。
 茅沼樹実に近い人物とすれば曽田の愛人の“|茅沼《かやぬま》|舞子《まいこ》”。だが彼女には配偶者がいた」

 不透明だった部分が明かされていく。

「それが“|壽美田《すみだ》|一成《いっせい》”。高田の長年一緒だった相棒で、ケリーの秘書も勤めた男だ。
 そこには“|壽美田《すみだ》|樹実《いつみ》”は存在したが、壽美田樹実4歳で病死、同じ頃壽美田一成は22歳で、海外遠征で死去したことになっている。
 高田はそれで相棒を解消したんだ」

えっ。
なに、それ。

「…それ流星は?」
「多分…知らない」

そうか。
祥ちゃんは少し膨大な隠蔽をしていたのか。

「…まだ、信用出来ない。祥ちゃん、あんたはあのシャブ臭い警視庁長官を殺したから」

 祥ちゃんは驚いた表情をした。
 しかし「はっはっは!」と笑って言う。

「まぁ、バレるかもしれないなとは思ってた。潤はあの|暁子《あきこ》と組んでいたし」
「暁子は」

祥ちゃんが殺したの?
聞けない。
まだ闇は深い。

「…まぁ、橋渡しだったとだけ。俺は確かに暁子を殺した」

なのに。

「…どうして」
「君はどうしてあの女を信用したのか。だから、スパイ容疑なんだよ」

 ニヒルにまた笑う。

「俺は祥ちゃんがわからない。暁子がスパイなんて端からわかって」
「俺の足元にいてエレボスモグリでバレた。これが答えかな」
「は?」

何言ってんだ。
何、言って。

 祥ちゃんがふと俺を右腕で抱き締めて言う、「嫌いになれた?」と。

「なんで、」
「さぁ…まぁ、知らなくていい」

 そう言う祥ちゃんは少し、哀愁を帯びたようで。
 被害者はどうやら俺たちだけじゃない。俺もあの、警視庁長官を殺した証拠になりそうな画像を消したのだから。
 抱き締め返して告げる。「共犯者か」と。

「君は全てを美しく見ようとするね」
「そうでもない」

薄汚れている。
俺がしてきたのはそういうことだ。

 真実はそうシンプルではないかもしれない。じゃぁ、明日から俺は何を見ようか。

 まずはあのUSBメモリーの中身が気になった。見なければ、わからないことは世界に、たくさん散らばっているのだから。
 温室ではわからない、この世界を。

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