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 祥真は潤には出来るだけ微笑むらしいが、俺から見れば正直怖い。
 しかし潤も気付かない、というか意識は別のところに行っちまったらしく、荒々しく祥真に書類を投げては「なんだこのゴミクズは」と声を低くした。

「同感だな」
「同感じゃねぇよ、てめぇ一晩中いたんじゃねぇのか」
「いたよ?まぁ無理だから監視官に立ち会いはお願いしましたけど。俺が長椅子でひよってたのお前知ってんだろ」
「まぁね、シャツを買い与えましたからね」
「この血みどろシャツはそういうことか!」

 政宗は抱えていた紙袋を、複雑そうな顔で眺めた。

「…なんでこうなった」
「日本人だからだろ。お前庁官ネタ掴むくらいならわかるだろ?」

 ついでに祥真を見れば「ははっ、」ニヒルに笑った。

「スパイ容疑はこんなところでも不利だねぇ潤。俺もな」
「…そうね。まぁ否定しねぇけど」
「祥真はなんか掴んでねぇの?」
「よしてよなんでよ」
「お前の部下が潤に吹っ掛けたからだよ」
「まぁそうだね。汚職の件でしょ?なんもなかったらしいけどね」

 …カマ掛けたがどうにもわからんな。汚職ってじゃぁなんだよと政宗を見れば「ヤクの件だろ」と祥真に皮肉を返した。

「何?そこまでわかってるならあとは知ってるでしょ?司法解剖であの件は繋がったよ。だから俺もエレボスを」
「随分早かったな掴むの」

 祥真は睨んで口元をあげる。

「喧嘩売ってんの流星。君たちだって掴んだでしょうが」
「鮫島の件で間違いないか」
「君はだからルイジアナに行くと言ってんじゃないの?わかったでしょ、そんなもんだって」
「まぁな」
「で、これはどうすればいいの流星」

 環の書類をオーバーテーブルにそっと置いては、漸く少し考えたようにじっとそれを見つめた。

「どこで環を知ったんだ」
「わからない。高田さんに言われたから行った」
「まぁ、高田は確かに知っているからな。
お前はもしや高田のモグリをやっていたわけか」
「同業なら言うことは出来ないの、わかるよね?」

 仕方ないな。
確かにわからなくはない。ならば何故こちらに行き着いたのか、いつからなのか、どうしてなのか。明白ではある。

 試しにケータイを取り出し高田へ電話をしてみた。
 繋がったことに何故か違和感を感じた。
 着信もぷつっと、応答した音がする。 それに一同が注目してきたようだった。

「…もしもし」
『…久しぶりだねスミダ。まぁ、そろそろ来る頃だと思ってたよ』
「…手短に済ませます」
『怒ってない?気のせい?声低いけど』

なんだってんだろな。

「…山下祥真から連絡はありましたか?」
『…青葉環の件かな』
「そうです」
『逃亡したようだね』

読まれてるな。だが俺とは連絡がつく。これはきっと俺は予想外だった、と言うことか。

「…司法解剖の結果は出たので、俺はケリーの元へ一度挨拶しに行きます」
『殺されたいのか?』
「さぁ、誰にでしょう」

 沈黙された。
恐らく、言葉を選んでいる間だろう。

『君は一体何を言ってるんだい…』
「恐らく祥真は海外逃亡でしょう。持ち帰ればよろしいですか」
『そうだね』

そうだね。
これが答えか。

 祥真は声を立てずに笑った。

「わかりました。
あ、最後に一つ。
潤が共に免職になったそうで。元気にしてるといいですが」
『君らしくないね』
「そうでしょうか」
『君のいまの話し方は嫌いだと言いたいんだけど』
「あっそう」
『まぁいい。狂犬病予防にでも行ってくるよ』
「ご自愛を」

 こちらから切った。
暫くは掛かってこない、いや、もう掛かってこないかもしれないな。

「政宗」
「なんだ」
「…このケータイは政宗に預けますよ。
てわけだから、お前は退院だ祥真。潤は明日からまた」
「それなんだけど流星」

 政宗に高田ケータイを預ける。祥真が話を遮り、目を合わせればにやっと、場に似合わず子供のように笑った。

「ルイジアナには潤とユミルもいいかな」
「…は?」
「えっ、なんで」

 ふっふっふと笑う祥真と、「困る困る」と政宗が慌てる。

「困るって、大丈夫でしょあんな死にかけ部署」
「なっ、」
「いやぁ〜、
ユミルはひよってるし、自宅療養として。やっぱ嫁さんは報告しなさいって我が家のルールだから」

は…?

「なに祥ちゃんよほど根に持ってんのかおい」
「あー…」

なるほどね。
それがお前の守り方になったのね。変わったなぁおい。

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