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想像を絶した雰囲気。俯いて少し歯を食い縛るように見える祥真は「だから、」と続けた。
「まぁ、正直…わかるだろ流星。俺はどうしてこんなに…と、嫌になっちまったのはあったんだ。ほんの小さなことかもしれない、エゴかもしれないね。だけどそこで潤には…会えたかな」
見下ろせば潤は腕を組ながらパソコン画面から目を祥真に写し、特に表情は変えない。
「だから言ったじゃん。カッコいいよって」
それから潤は、少し表情は崩した気がするが、無表情の分類でやはり、真っ直ぐ祥真にそう言ったのだった。
「まぁ、腹括れたのがいまの正直な俺の感想。そうやって自分の世界は変わるんだろうなって。
また結局祥ちゃんは自己犠牲だから、根っこはきっと変わってないんだろうけど。腕亡くしといて正解かもね」
憎まれ口のように言った潤は漸く祥真に微笑んだ。
間はあったが「ははっ、」と祥真は笑い、目頭を押さえるように顔を隠しては、
「君らはホントに俺が嫌いなタイプ。真っ直ぐで、鉛筆みたいで…、
なんて優しくて綺麗なんだろうね」
そうか。
「…祥真。
俺からもまぁ、労うよ。自殺は自分で勝手にしろ、信じるなら」
「それ、俺が返答に困るって言ったじゃんか…全く…」
優男の困ったような湿ってさっぱりした笑顔に口元の黒子が目についた。お前にはお前の譲れない、ひとつのマグナムがあるじゃないか。
「…さて、まあ腹を括ったと言ったからには…見るか。
きっと戻れないけど、いいよね」
特に誰も返事はしないが、潤はちゃんと一人一人を見て、「まったくね」と溜め息をつくように言う。だが、吹っ切れたらしい。にわかに表情は柔らかかった。
「俺の日常も、ついに覆るかな、また」
そう言いながら潤はそのUSBを入れ、そこからCD-Rと変わらない動作を淡々と続ける。「past date」の「出会い」。
物語を開くような、雨さんのファイル。どうしてだろう、ここからあんたは海軍訓練所を乗っ取って壊滅させるんだろ?
優しい、笑顔が浮かぶ。
それは潤も同じ、いや、もっと来ているだろう。表情からは受け取れないが、雰囲気で感じる。
どうしてだろうね、と、心の中のノスタルジアに話しかけて、ファイルは開かれた。
「|秋津艦隊《あきつかんたい》殲滅」
その字から、物語を解くように、字を読み込んでいく。
「1998年夏の某日
あの日僕は『日本政府のベトナムへの兵器密輸出』に関わり、当時、僕が師匠と崇め日本海軍として誇りを持った|秋津《あきつ》|冬次《とうじ》を艦長としたその海船“|陽日《はるひ》”と共に、陸上自衛隊航空部隊“|鳴島隊《なりしまたい》”に爆撃を食らい、沈没したことをここに記す。」
僕たち“秋津艦隊”は兵器密輸入とは知らない。だがその頃状勢が不穏当であったベトナムの支援をする政府の姿勢、多さに艦長秋津冬次(殉職 93歳)も難色を示し断固拒否の態度を取っていたが、部下、前防衛大臣|中塚《なかつか》|昭夫《あきお》の警官学校校長時代の教え子、秋津艦隊准海将小嶋(殉職)と口論に発展した。
しかし僕が師匠を宥め、ベトナム支援を渋々承諾させたことによりその事件は起こってしまった。
雨さんの、物語のような報告書は悲痛な叫びのようなものだった。
件の、雨さんが属していた秋津艦隊は日本政府の方針で“ベトナム支援”の命を打って出航したが、日本政府、陸軍航空隊により攻撃され沈没した。
当時陸軍に属していた茅沼樹実は遺体や、沈没した海船の回収として派遣され、二人は出会うことになるが、それはそもそも当時防衛大臣だった中塚昭夫の世代交代を狙った|星川《ほしかわ》|匠《たくみ》(次世代防衛大臣、潤の父親)の陰謀だった。
これに気付いた樹実が雨さんを連れ、その日、|中十条《なかじゅうじょう》の空軍基地に訪問していた中塚、星川に談判しに半ばテロ紛いで押し入り、星川の陰謀だと明白になり、そのまま星川匠は防衛大臣となった。
秋津艦隊殲滅事件の全貌はそこまで。
そこからは二人の数々の功績、それに対する後ろ黒い理由がありありと記されていた。
彼らの仕事は各国にも出向き、数々の宗教団体と称した“日本人軍隊促進収容所(麻薬密売の取引先でもあった)”の殲滅、それに対する反乱分子を、詳細は曖昧にされているが、行われていた、と。
防衛大臣星川匠の元で行われたこともあれば、元海軍出身高田創太の名もあり、二人が密接であったことは読み取れた。
そうか。
二人は、そうか。
USBにもそれぞれ、陸海空軍の摘発的汚職は記されていた。
彼らは日本国家の元、たった二人ぼっちの戦士として、自分の信じた正義を貫き、歩んだようだった。時には反乱分子としてその国の重役も暗殺してきた、そういう仕事だった。高田創太は結局…今のスタンスのままそれを、
どうだろうか、今も正義と、信じているのか…それとも、二人を単純に切り捨てたのか。
俺に言葉なんて出るわけがない。樹実、どうして俺を拾ったのか。
雨さん、それでも潤に、愛情を注いだのかと、笑顔も浮かんでくるようで、どうしてもやりきれず、拳は痛いほど握っていたが何より。
悲しくて仕方がなかった。
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