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少し湿気きった空気の中、漸く俺たちの部署に何者かが入ってきて。
脱力したように、席に戻っていた右隣の政宗がそれを見てまた「は?」と言った。
「おい部署間違えてんぞ辻井」
辻井?
不信に振り向いた俺と潤の動作は同じだった。
「はよっす。
え、おはようございます」
言い直した。
前髪辻井はなんだか封筒を片手でひらひらさせながら俺たちを順番に見る。まずは壁に凭れて横目でクールに見た祥真に「なんすかあんた、は?」。
次に正面の潤を見て「どうしちゃったのあんた」。
政宗と俺をチラチラ見ながらひらひら書類は「調査依頼書」、なるほど辻井、本腰を入れたわけか。
「あのー、正式にここの手伝い許可降りたんすけどあんたら一体どーしたの?」
空気がガラッと変わる。
誰から答えようか、まず政宗が「おっ…おぅ…」と辻井の底抜けのアホさに尻すごんだときに瞬が出勤してきた。目が赤い。ホントに昨日は激務だったのかもしれない。
まず瞬は邪魔そうに辻井を見て、次に俺たちを見ると言葉を呑んだ様子だが、
「…早いですね、おはようございます…。
辻井さん、部署間違えてますけど」
言葉は見つからなかったらしい。
今の俺たちは確かに、どこからどう突っ込むべきか、慎重になるのは健全だった。
「おはよう。いや暫くお世話になるはずなんだけど…」
辻井と瞬は顔を見合わせ、怪訝そうに俺たちを見た。
まず瞬は無言で露骨に祥真に嫌な表情で、最早ガン飛ばすかのごとく頭の先から爪先まで見て「なんですか」と言い、
辻井は潤に「あの、なにそれ」と言う。
「…露骨に嫌な顔するね君。おはよう。俺もここに用事があって」
「国勢調査でしょうか、にしてはラフですね」
「あんたもラフだけど潤さん」
潤さん…。
「…そこのエセ国勢調査野郎と共に免職ですけど何か」
瞬と辻井は二人揃って「はぁ?」と潤に言い、やはり二人揃って俺を見た。
「…エセ国勢調査だしこいつはその…、素行が悪すぎて懲戒免職なんです、ハイ」
しかし、なるほどこれで。
欠員は埋まりそうだ。
政宗は「ふっ、」と少し、漸く笑って俺を見る。
そうだね政宗。
「…とっとと、終わらせようか、全部」
そう、これが。
多分俺たちの仕事なんだ。命を、掛けるほどの。
それから俺たちは次々と目が赤い部下たちに今の状況を説明する。それが最初の仕事で。
酷は承知だ、ただ、樹実も雨さんも言ってくれなかった、託してはくれなかった情報を全て、部下と共有することにした。
目的なんて、最初から一つでしかなかった。
ホワイトボードに立って、色々な感情を含んだ部下たちの視線を浴びて、俺は考え直した「次世代エレボス麻薬密売テロ事件」の構想を練りながら人員配置を書き込んだ。
ホテル、大使館テロ…荒川、星川(補)
會澤組、ホスト関連…卜、早坂
大学テロ事件(谷栄一郎の件を含む)…黒田、辻井
鮫島身辺…壽美田、山下(補)
その他補助
ホスト、會澤組、大学等…壽美田(會澤)、荒川(大学寄り)
総経理職…壽美田
総鑑識…猪越、山瀬
多分これでわりと合理的だ。ほぼ、皆がやって来た場所だ。痛手の潤ポジションも、なんとか政宗と俺でカバーできる。
ホテル、大学テロもほぼゴールに近い。恐らくは政宗が手伝わずともなんとかなる。
あとは會澤組と鮫島、この辺に力を入れたい。潤が追っている大使館テロ事件も、現地にいた俺か政宗でカバーできるだろう。その前に潤も政宗もわりとゴールに近付いていたのだし。ここに来て経理の強さが生きた。
「各々、ほとんど今までとやって来たことを継続して欲しい。ただ、監督官はいまやただの一般市民に成り下がってしまった。こいつは大いに各所を手伝えたが、それが制限されてしまい、変わりに余所者が二人導入だ。
一人は変態のようなスパイ技術だがこいつも制限つき。これは昔のよしみで俺が預かることにする。
もう一人は一応腐ってもマトリだ。しかし我々はこいつに貸しがありまくるので存分に使ってくれ」
「うぇーい」だの「性格悪っ」だのが当人たちから聞こえる。
「だが…。
正直もう、いい。俺から「駄目だ」は出さないようにする。ただ、ルールはひとつだ。安全第一。死ぬならここを離れてくれ。それが俺の未来へのエゴだ。
もうひとつ言うなら俺からの希望は…もう、ここで全てを終わらせたい。しかし、本当はそんなことより、それぞれに後悔もさせたくない。それが俺の最大の、エゴだ」
これでもう。
「ふっへっへ、」
それに潤がなんだか、物凄くキモい笑い声をあげ、
「はいはーい。監督官じゃねぇから言うわー。
早く仕事終しちまおー」
それから各々仕事に掛かる。
俺がホワイトボードからデスクに戻れば「流星」と潤が言った。
「口下手だがまぁかっこいいじゃねぇか。
…何も残さず、終わらそうぜ。死に方も、考えないようにさ」
「…は?」
まぁ。
「まぁ、そうだな」
「縛られんのは辞める。辞表。俺人生ナメてるから」
…全く。
「相変わらず可愛くねぇしうぜぇやつ」
「…なぁ、」
そして潤はやはり純粋な目で、俺を見て、綺麗な、子供のような笑顔で言うのだった。
「サボっちゃおっか、終わったら」
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