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 現れた片腕の男は普段より、遥かに澄んだ目をしていた。
 笑い方も、見たことがないなと白髪の研究者は皮肉にも意図を読み取った。

「同族だと思ってさ」

 相手の空虚な表情に、片腕のヤマシタはなんだか、穏やかながらも殺伐とする、一種の双極性障害のようだと一人感じる。自分なのか、相手なのか。

 戦は一人死んだ時点で始まるのだと、過去に学んだことがフラッシュバックした。

 「何に捧げてきたんだヤマシタ。気が触れたのか」と学者、箕原海はさして感情もなく言った。

「…俺は自分にしか物を捧げないと、抜けたときに決めたからね」
「じゃぁ正気じゃないな。片腕で俺のところに来るなんて」
「お前に言われたらおしまいだな」

 半壊した宗教施設で二人は話す。
 睨む箕原、穏やかな祥真。

 結果が物語ることに敵意は必要がないと祥真は、全てを失った12歳を思い出す。
 全てを、失ったはずだった。ただ、壊せていないだけだと、それだけ物語ればいいのだ。

「…君が今やっていることは、君が亡くしたその日の、敗者と同じことだと言いたい。
 俺は一つの破滅を臨んだ。ただ、死にたかっただけだったんだよ、ミノハラ」
「じゃぁ殺してやるよ」

 箕原海はジャケットの、内ポケットからスチェッキン・マシンピストルを抜いた。
 そうだ、やはり同族だなと祥真は片手でコンバットマグナムを抜くけれど、利き手じゃない。それは箕原海にもわかる。

「ふっはっは、バーカ!」

 と気が狂ったように笑いつつもスライドを引いている。

この同族にはせめて別の形で終焉を与えたい。
これは、自分の正義なんてものは。
エゴでしかない。

「…話聞いてから殺してくれる?いまフェアじゃないでしょ」
「元からフェアだったっつーのかぁ?え?
始めから貴様なんてなぁ、」
「わかってるよ。だから言うけどお前の憎しみは間違っている」
「なんだぁ?」

このっ、

「クソ宗教でラリっちまってるかもしんねぇけどてめぇが信じてるもんはなぁ、てめぇが憎んだそいつが作り上げた偶像なんだよ。お前もラット、実験体でしかないんだよっ、」
「はぁ?
 ラリっちまってるのはてめぇじゃねぇのか」
「なんだっていい。お前はこの国のために生きこの国のために滅ぼされる、それだけのことだよ」
「あ?」

 相手はラリっているが。
 頭にくれば話くらいは聞くらしい。
 元々ネズミは話を聞けるようになんて生まれてきていないんだと、祥真は片隅でまだ箕原を蔑んだ。

だがそれは、俺も一緒だ。

「…笑って良いよ。この組織は国に辟易としたラットが作った“裏”だ。裏に必要なのは表。そうして表裏合体するために作られた戦場だ。お前が称した“ミサ”という大量殺人も、あの男の快楽でしかないんだよ、覚えてないのか、俺の“昴の会”はそうしてこの世界が、この“昴の会”が、誰かぶっ壊してくれここから出してくれと、いつも願っていたんだよっ!」
「だからなんだっていうんだ」
「はぁ、俺が創造主のところに送り込まれた“モグリ”だと言ったら殺してくれるか、なぁ!」
「冒涜だな、」 

ダメかもしれないな。
…わかっていたけど。

 少しくらい、情けをかけて中途半端に火をつけたのが悪かったのかと祥真はバレルを親指で上げる。それくらいの力はある。

 きっとあの日のヒーローはこんな気持ちだっただろう、彼も一介の人だった。神なんかじゃない。だが俺はこんな形に破滅を望むらしい、カヤヌマイツミ。

…利き手じゃない。左手で蟀谷撃ち抜こうなんてバカげてるとは思うよ。片腕の重心だってないのにね、どこに当たるか、わかんないけどね。

気が狂ってるなんて物心ついた時からそうだった。ハデス、果たしてあんたはこの孤独を知って破滅を蒔いたのか。
多分、そうじゃないんだ。

「君が殺せないのは自分じゃない“神”じゃないかミノハラ。過去も未来もそこには何もない」
「じゃぁ神はなんだという、」
「紛れもなく“自分”だね」

君にはわからないだろうね。
破壊から執着して神を作り続け、鳥籠に居続けた君には、これはだけど、やってることは人なんだ。全て──

「祥真ぁ!」

 同族の、
咎めるような、けれどこの冒涜を止めるような。狂犬の声がした。

「なにしてんだよおい!」

あぁ…。

「流星?」

なんで来ちゃったんだよ。
いや、本当は少しわかっていたんだけど。

「ぶっ殺してやるから降ろせよ祥ちゃん!」

……やっぱりね。
君に言って正解だったか、俺いまいちわからないわ、潤。

 少し、緩んだように祥真は振り返る。

潤、

 言おうとして発砲音がした。

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