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淡々と語ってしまう高田創太に対して流星は、それを眺めることしか出来ないでいた。
「そして俺は…軍から失踪し、まぁ、モグリみたいなことをやっていただけあってそれなりに顔が利いた。
一成が慈悲で作った各国の孤児院を薬付けにして人間兵器を作り上げた。そうでもしなけりゃ国の情勢なんて宗教、武器があればやっていける。
これを必要悪にした、これが答えだな。宗教には逆らえない。政治家、警察組織、丸め込めるもんさ、人の道徳なんて」
「…どうして、」
「簡単じゃないか流星。平和には悪役がいるというだけの話だ。俺はそれを痛感したが君はそんなこともわからないの?犬の癖に。
俺のやって来たことを見てごらんよ流星。世界はいつだって平和だった、違うかい?」
そんなことは。
「…そんなことでこんな、…こんなことを、したって言うんですか」
「バカな犬にはわかるまいよ。
俺のしたことは君たちのそれなんかより遥かに、大きくて」
「それだけで祥真や…環や、銀河は、樹実は、雨さんは…、みんな、死んでいったって言うんですか高田さん」
それだけで。
そう、たった、それだけ。
「そういう国だろ」
「あんた、日本人だろ、なぁ!
仲間を悼み続けるしかない、そういう人種じゃないのか」
「知った口利いてんじゃねぇよクソガキ」
殺気立った。
「お前には遠い話かもしれない。この国の平和は俺たちが作った。そこにはシャブや宗教や兵器もある。これは海外の話じゃない、日本だ。俺の愛すべき国はそうやって成り立ってるんだ」
「…だからぁ?」
銃を震わせた流星が歯を食い縛ってそう言った。
それに過去を見るような気がした。
「…俺はどこの誰だか自分で…。
わからなかった、でも、思い出した。スラムの日本人で、新興宗教もよくわからなかった。
まわりで子供は殴られていく、そんな白い箱の中で育った。
もしかしたら俺は見て見ぬふりをしていたのかもしれないのに。
だが、それをぶっ壊しに来たのはサブマシンガンを抱えた…樹実だった。それで日本人だ、それでいい。
それまで俺は、忘れちまうくらい辛かったのかもしれない。だけど、今があるんだよ…、」
「…何が言いたい」
「…単純だよ高田さん。
あんただって本当は辛かったんだと思う、世界が変わっちまったのかもしれない。それを塗り替え塗り替え、気が狂っている。
けど本当にそうなのか?ただ、怖いまま待っている、だから、」
だから、俺に。
誰かに。
「…そんなくだらねぇことに荷担しようだなんて、虫酸が走るんだよ、」
「…あ、そう。
いつまでも誰もなつかないなあ、俺には」
だけど。
「…殺しちまったら死んでも…あんたはそれを墓に入れることになる」
「優しいもんだねぇ」
高田創太はスチェッキン・マシンピストルのスライドを引く。
だけど。
「俺も辛かったんだよ高田さん」
「…だろうね。だから君は俺を殺すべきだろう」
『一人を殺したらもう戻れないんだよ』
「…そうかもしれない」
だけど。
銃声がした。
同時に右腕が折れて裂けるのを感じ、反射的に跪いた。
右腕は持っていかれたに等しかった。
「…っ、」
「…痛いだろう、なぁ、流星」
そのまま椅子から立ち上がり、スライドを引きながら田は流星の元へ歩む。
が。
扉が荒々しく空いた。
「動くんじゃねぇクソ野郎、」
背後で声と、カシャッという音がする。
「りゅう、」
「撃つな、潤っ…、」
先輩を遮り流星は痛みに震える声でそう叫んだ。
「撃つな、何があっても撃つな、それは…っ、ダメだ、」
背負ったって。
そんなものはサブマシンガンと変わらないんだ。
「おい、流星、」
腕を押さえ、力尽きるように倒れた流星に「おい、おい、」と寄ろうとする仲間に「うるせえぶっ殺すぞ」と田は低く唸り流星に銃口を向けたまま二人を睨み付ける。
傷口を足蹴にされた流星は声なく唸る。
「てめぇ、高田っ…」
「銃を下ろせよ星川。じゃなきゃ撃つぞこいつを」
「…なんだってぇんだよ、おい、お前マジで」
途端に高田の銃を持った利き手が動いたのに流星が反応して足を掴んだ。
ここで死なれては、
ここで死なれてはどうしようもないじゃないか。
体制を崩した田は「あっ、」と短く言う。銃は暴発しどこへ弾丸が飛んだかはわからない。だが、這いつくばった高田を見て脳天ではないようだと安堵した。
「こんの、」
前髪をひっ掴まれ、結局拳銃は額に当てられてしまう。それを見て「なにしてんだよ、」と構わず潤が踏み込むが、
「君になら殺されてもいいと本気で思ってんだ、流星」
高田の低い声に、潤は立ち止まってしまった。
そうか。
疲れきった高田の瞳に全ての感情を読み取った気になった。
見た気に、なりたかった。
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