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「あぁ、よく言われます」
「え、サバ読んでない?」
「いや、ホント世間知らずなだけです。今でもビビっちゃって…萎縮してます」
怖いバレるって。ムチャだって。
「ウチぶっちゃけ若さ売りにしてないからいいよ?むしろ若すぎて君大変だよ」
「すみません24です」
流石に28とは言えない。だが大学卒業して落ち着いたくらいで、なおかつ見た感じこの店の平均そんなもんだろ。という年齢設定ならなんとかいけるだろうと咄嗟のサバ読み。虚しい、俺のこの微妙な心境なに?
「だよね。大学生ではないよね。あーよかった。ウチの最年長が26なんだ。君が平均くらいかな」
俺が最年長か。やっぱりそうだよな。
「まぁ最近あんまいないんだよなー。皆若くなってるからそろそろそれくらいの子欲しかったし。
どう?働いてくれる?」
「はい、是非」
再び引き出しから別の書類を出し、浅井は俺の目の前に置いた。
「はい、サインよろしく」
一応目を通すが、どれだけ違法性があろうと所詮俺はいない人間なので取り敢えずサインはする。いくつか微妙な書き方をしている違法かもしれない項目を発見。あとでこの契約書類は押収しておこう。
「じゃぁ彗星、頑張って。最初は俺もいるから」
「あぁ、はい、よろしくお願いします」
ふと、誰かがバックヤードに入ってきた気配がした。そして、迷わずこの個室に来て、浅井と目が合う。精悍な顔立ちの、肩幅がしっかりした青年だった。
「あぁ、いたんすか浅井さん。
アフター入ります…。新入りですか?」
「そう。須和間彗星くん。いい名前だと思わない?」
「あぁ、そうですね…」
「彼は和田龍生《わだりゅうせい》。こうみえて18歳なんだよ」
「マジっすか」
大人っぽい。俺はてっきりこの店の最年長の奴かと思った。
「この前入ったばっかり。龍生、」
「はい、」
あ、思わず返事してしまった。
「すみません…」
「名前確かに似てるよね。
龍生、アフター行くならはい、これ」
二人のやり取りを見ていると、浅井は和田と言う青年にコンドームと、なんか毒々しい濃いピンクの薬を渡していた。
明らかなる風営法違反だろう。
浅井からそれらを受け取った和田は、涼しい顔をして立ち去った。
浅井をまじまじと見ると、物凄く嬉しそうな顔で和田の背中を見つめ、「あいつも大人になったなぁ」と呟くように言った。
「最初は客も取れなかったんだよ。やっぱ女性と言うのは男を成長させるね」
なんだろこいつ、常識と言うか、なんかそーゆーのを知らないのか?
「はぁ、え?」
「あいつも色気出たもんなー」
いやいや。
別にそれを売りにしてる訳じゃないからグレーだろうけど。推奨してコンドームと変な薬渡してんのは明らかにアウトなんだが。この人大丈夫かな。
「あぁ、君もはい」
とか言って俺も同じ二点セットを渡された。そもそもこの薬なんだよ。
「これは…?」
「あぁ、アフターピルだよ」
しれっと言いやがるのがまたベンジーだな。
「うち、妊娠は100%アウト。まぁ最近は、ちょっと飲ませない方がいいかもしれないけどね」
「は?」
「客がね、なんか変な薬持ってくるらしくてさ。飲み合わせとか悪くて死なれたら面倒じゃない?」
変な薬はこれですけど。
結構なクソ野郎だな。
「まぁ、そうでしょうね」
「男なら本能に忠実な方が綺麗だよね」
胡散臭ぇな。
「だからさ、ちょっと遊んでく?」
「はぁ…え?」
「俺君タイプなんだよね」
「ん?」
「未知なる体験もたまには刺激的でいいよ?」
え、なにこれ?
大して聞いてなかったらなにこれ。
お前もしやジャンキーなの?さっきからマジメにワールドわかんねぇけど。
「浅井さん、」
後ろから声がした。
後ろからさっきのボーイが覗いていた。
「なんだい洋巳《ひろみ》。来るときはインカム入れろって言ってんだろ」
「来栖《くるす》さんがいらっしゃってます」
「え、嘘。今日…火曜だよね?マジか。わかった。
あぁ、彗星。君も準備が出来たら来て。ウチの大口だから」
そう言うと浅井は、焦ったように個室を出て行った。
なぁんだへテロか。
「…彗星、さんですか」
「あぁ。申し遅れました。須和間彗星です。世話になります。君は?」
「あ、はい…。山中洋巳《なかやまひろみ》です」
そう照れ臭そうにそいつは言い、俯いた。
「気に入られたみたいですね、彗星さん」
「…まぁ、そうだね…」
「浅井さん、どっちもいけるタイプなんです」
「はぁ…へ?」
「…気を付けてくださいね。なんとなく、貴方は押しに弱そうだから…なんか初対面で失礼なんですけど…」
「いや…。わりと的を射ています。凄いね。よく言われる…」
てかヘテロより性質悪っ。
「貴方はわりとなんて言うか、一目見て魅力と言うか、他とは違うものもあるような気がします。浅井さんが気に入るのもわかる」
「…ありがとう」
そうストレートに褒められるとちょっと困る。
「薬とか売り付けられないでくださいね。最近よくあるから」
「…へぇ…どんな?」
「媚薬だったり、美容薬だったりするらしいんですが、多分嘘ですね。
さっき言ってた大口の人も、ちょっと…」
「そうなんだ。来栖さん、だっけ?」
「はい。…まぁ、お気をつけて。正直、あんまり行って欲しくないな」
「…君は優しいね」
物腰が凄く柔らかでどこか儚げ。伊緒を連想する。
「…そうでもないです。他のメンバーにはわりと冷たいって言われますよ。シフト作ってるのは俺だし」
へぇ…。
「まぁ、行ってくるよ」
「はい。すみません引き止めちゃって。…俺も行きます」
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