10
店の外に連れ出す。その場にいた全員の視線を浴びているので、俺は久留主に「大丈夫ですか?」とか、「浅井さん呼ぼうか?」とか声を掛けながら。
店の外に出てエレベーターに乗ってすぐ、さっきまで具合悪そうなの様子とは打って変わり、来栖は俺に抱きついてきた。
目を見合わせ、思わず笑ってしまった。
「貴方なかなかやるわね」
「あんたこそ。俺少し、マジで具合悪いのかなとか思ったわ」
そこからキスしようとしてくるけど。
「ちょっと待って。てかこれどうするの?ちょっと出てくるって言ったけど」
とか言っていたら、エレベーターが止まった。
8階?
来栖はエレベーターから出ると1階を押し、下ボタンを押した。エレベーターだけが降りていく。
薄暗い、どうやら何もテナントが入っていない階のようだ。
一ヶ所だけ右手側の奥に、鍵すら開け放たれた部屋があって。
来栖に手を引かれ入ってみると、4帖半くらいで、シャッターカーテンにテーブルとソファーベッドという、なんかいかにも怪しい組織の事務所みたいな場所だった。
事務所?の鍵を閉めると、妖艶に微笑み、ソファーベッドへ誘導する。正直あまり気乗りはしないがまぁ、こちらもそんな誘導の仕方をしたのはわかっているので諦めた。来栖は、ソファーベッドの背もたれを難なく倒す。
すげぇ、倒れるんだ。
「なにこれ、すごいね」
てか最早何用だよ。
「便利でしょ」
そう言うと、ちゃっかり持ってきた鞄から、さっきの薬包を取り出した。
然り気無く手を重ね、「まだ待って」と言って取り上げ、ジャケットのポケットにしまった。
「強引ね」
「そうかもね」
「気持ちよくなるわよ」
「俺はこんなの必要ないよ」
「あらそう?」
「試してみようか」
でもぶっちゃけ本当に薬物かどうかも知りたいから、飲ませといて様子を見てみるのもいい気がするかな…でもそれはあまり健全じゃないな。
キスされそうになったので首筋を甘噛みすると、来栖は熱の籠った吐息を漏らした。
後ろのファスナーを下ろしてドレスを下げて。下着のホックを外せば今度は、声にならない声で悶える。
あとはちょっと微笑むだけでよかった。それだけで、相手のスイッチを押したようで。
完全に全てを脱がせて微笑むと、あとは自分から全てをリードしてくれた。これは楽だ。
事はするすると済んでいく。ただ思ったよりもしつこい女ではあった。
「他にあるの?」
「うん、たくさんもらってるから」
「へぇ、どこで?」
「向かいの…」
「え?何?」
彼女は求めるタイプの女だ。こちらが動きをやめてしまえば、「む、向かいの…ホストクラブ…」と白状する。
「妬いちゃうなぁ。他に行かないでよ」
こんな調子でものの10分ほどで聞き出した。聞き出してしまえばこんな女は抱いていてもしょうがない。早めに切り上げてあとは適当に気を使うフリをしながら部屋を後にした。
店には戻らずそのまま然り気無く二人で外に出る。店の前まで送り出した後、その背に聞こえないように、「今の女、後付けさせて」と盗聴器に話しかける。政宗のことだ、女としていた会話やらなにやらで店の付近に誰か一人派遣しているだろう。
そのまま俺は車に戻る。助手席に乗り込むと、「ご苦労さん…」と、複雑な表情で政宗は言った。
ポケットからタバコと一緒に薬を取り出し、政宗に渡す。火をつけて一口吸う。
ぽろっと、中身の無いコンドームの包装が出て来て思わず「あっ」と漏らすと、政宗が「バカ…」と呆れ、自分もタバコに火をつけた。
「お楽しみだったようで…」
「嫌味ですか。おあいにくさま」
「嫌味じゃねぇよ!お前こっちの身にもなれよ!」
「鼻血出る歳でもないでしょ」
「後ろ見てみろ!諒斗を!」
言われて後部座席を見てみると、後部座席で口と鼻を手で覆って俯いている諒斗と、対照的に、クールな顔をしてイヤホンをする瞬がいた。
「二人ともお疲れさん。諒斗、どうしたよ」
「お疲れさまです」
「潤さんが…」
「いやもう聴いてなくていいから!特にあいつは!」
「え?何?じゃぁ政宗俺の甘ったるいヤツ聴いてなかったの?」
「聴いてられるかよ!途中で取ったわ!空気読んで終わった頃につけたんだよイヤホン!」
「あぁそう。
その薬、向かいのホストクラブで貰ったってよ。なんでも通いつめると貰えるらしいよ」
「ああそう…」
諒斗がイヤホンを取るのが見えた。真っ赤な顔をしている。
「…来栖万里子《くるすまりこ》、32歳。銀座宝石商、クルス宝石店の娘さんだと。来栖万里子はまだ、宝石商は継いでいないが、どうやら洋服ブランドだのなんだの、結構いろいろ自分で立ち上げてるみたいだな」
「へぇ…まぁ世間知らず感ハンパねぇもんな」
「ちなみにあのビルの8階はパッと調べたら空き家物件で検索引っ掛かったぞ。少なくとも、浅井零士名義で借りている部屋はないな」
「てことは…どのみち不法占拠、不法侵入、不動産略奪あたりで引っ張れるな。浅井じゃなくても、来栖をな」
「てかそもそも本当にそれだけのために使ってんのかそれ」
「そこは抜かり無い。盗聴器を設置してきたよ」
「流石だな…」
そんな話をしているうちに霞が帰ってきた。後部座席に乗るなり、にやっと笑った。
いつも以上に派手な、もう胸見えてんじゃねぇかって言うくらいガバッと空いたフリフリすけすけのピンクのトップスに、目に優しくない蛍光イエローのミニスカートに厚化粧という、最早目のやりどころに困る云々の話ではないような衣装だった。
一体霞はどこでこの服を手に入れたんだろうか。私服だろうか。
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