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 喫煙所でタバコを吸ってみるがなかなか頭が冴えない。このまま残らず現場に直行しようか。動いていた方が頭が回るんじゃないかと思えてきた。

よし、そうしよう。

 だが予定を立てなければこれはだらだら仕事をやることになってしまう。

 まず、會澤組を潰す前に、Hestiaを潰す前にやらなければならないこと。重要な鍵となるのは今のところ証券会社ゼウスだ。
 高田はどうして突然焦り始めたのだろうか。

 先を急ごう。今日だけでもいい。俺はまだ、情報を得ていない。

 少し経ってから政宗が喫煙所に来たので、すれ違いざまに、「少し出てくる」と伝えると、「そうか」と返され、腕を掴まれた。
 振り返れば、「まぁ、タバコくらい付き合えよ」と、鋭い目付きで睨むように言われた。

「…急ぎか?」
「…いえ、別に」
「そのわりに余裕のねぇ面してんのな」

 仕方なくタバコを取り出し一本くわえて火をつける。

「お前さ、」
「なんですか?」
「やっぱなんかおかしくないか?」
「…確かに、隠し事はあるんです。だけど、今は言えない」
「なんで?」
「密令と言うやつだからです。俺は特本部の部長でありながら…高田の部下でもある。今回のヤマは警察内部の…」
「あー、わかったよ、俺が悪かった」
「…そう言ってくれるとありがたい」
「だが無理すんな。今のお前のキャパもちゃんと考えろよ」
「…はい」

こんな時、政宗は優しい。だから、任せられる。

 タバコの火を消し、「では、行きます。よろしくお願いします」と軽く頭を下げて喫煙所を後にした。政宗が緩く片手を挙げたのが見えた。

なんとしても無駄にしたくないんだ。

 まずは5課に寄ろう。まだ高田からガサ入れ通告を受けていないと信じたい。
 その足で5課の部署へ向かう。
 いつも通り、緩そうに仕事をしていた。顔を覗かせると、武宮さんが気付き、急に真面目そうな表情で「どうも」と言い、外に追いやられた。

「どうしました?」
「いえ、これから行こうかと思ったんで顔出しただけですが…えらく気まずそうですね」
「そんなことありませんよ、人が悪いですね」
「昨日のケータイと拳銃の件はウチで預かりました。紙幣番号と麻薬はどうですか?
あとは取り調べはどんなもんかなと思いまして」
「は?紙幣番号?」
「え?まさか調べて無いんですか?」

これで使っちまってたら笑うんだが。いや、笑えないんだが。

「いや、まだ…」

 溜め息を吐いてやった。

「ウチに回してください。どこの銀行から引き出されたか、割り出しますから」
「いえ、すみません…ウチでやります…」
「お願いします、いつまでに出来そうですか?」
「明日までには…」
「今日もう一度来ます。では、行ってきます」

…使えねぇな。
これじゃほとんどウチ持ちじゃねぇか。てめぇら取り調べしか出来ねぇのか。

「ちなみに麻薬は…」
「あ?」

あ、やべ。
露骨に不機嫌が出ちまったぜ。

「あれは…お宅では解明出来ましたか?」

 えらく挑戦的に武宮さんが聞いてきたので、「はい。出来てますけど」と、しれっと返してやる。

「お宅がまだならそうだなぁ…血液検査液とかに最初浸けてみるといいでしょう」
「…は?」
「あれ、人の臓器とかも入ってますよ。嘘だと思うなら一度やってみてください」

 唖然とした武宮さんに背を向け、その場を後にした。高田に文句を言おうにも、そう言えばガサ入れしろと言われているのだった。

 イライラが募る。

 車に乗った時にふとケータイを見てみると、高田から着信が入っていた。

ヤバイな。

 気付かない振りをして電源を切った。
 俺はもう少し潜入させてもらう。少なくとも、ゼウスの鮫島《さめじま》ともう一度コンタクトを取るまでは。
 着替えて錦糸町に向かう。

 會澤組の事務所について早々、會澤に「座れ」とソファを促された。なんだか空気が不穏だ。

「おはようございます…どうかしましたか?」
「お前、ケータイどうした? 」

あぁ、なるほどそーゆーことか。

 しかし會澤からの着信履歴は取り敢えずない。それを見せて、シラを切ることにした。

「何かありました?」
「惚けんな。変えたのか?」
「いや、連絡入ってないでしょう?昨日貰ったのと機種も変わっていない。何かおかしいですか?」
「…いや。
 お前、何モンだ?」
「はぁ…。あんたは俺を何モンだと思ってるんですか?」
「わからないから聞いてんだよ」

 どうやら、そんじょそこらのバカなヤクザとは違うらしい。これは面倒だ。一歩間違えば俺は東京湾海底コースだ。

「…まぁいい。お前があまりにも仕事が出来るんでなぁ。
その調子で枝野、お前連れてけ」

え、なにどこに?

「はぁ…いいんですか?」
「いいから行ってこい。俺は今から忙しいんだ」

 どうやら不機嫌なようである。

「ただ無理強いすんなよ。動向を探って一度戻ってこい」

 取り敢えず外に出て枝野に事情を聞いてみた。枝野は、真っ青な顔でこう告げた。

「ウチから捕まった野郎の居場所が分かってな。岩倉組《いわくらぐみ》にいるらしい」

 岩倉組…。確か龍ヶ崎連合会の中の…。

「だがそいつはどうもなぁ…」
「今から、そいつんとこへ?」
「いや。今は国立帝都大学《こくりつていとだいがく》のえっらい学者んとこだよ」
「なんでまた」
「物々交換ってやつだな。まぁこっちはあとは出資もしてるしな」

 世の中信じられないくらいヤクザまみれなモンだな。

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