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 ワシントンで発砲事件が起きた。これは、ただの発砲事件なんかではなかった。

 大統領選挙真っ最中、有力者の副大統領候補の暗殺計画説が浮上、その話はFBI日本支部にももちろん話は回ってきていて。しかも首謀者は元自衛隊員の日本人だという。

 だがまだ未遂だし、あまり手掛かりもないのは事実で、犯人はいつのまにやら航空警察の目も掻い潜り、日本に帰国してしまったのではないか、という話すら持ち上がる。

 ここまできて漸く我々が投入される。水面下で捜査を行うもこれもまた難航。実に3ヶ月以上の月日を費やしてしまっていた。

 確かに調べてみれば日本で、当てはまる時期に自衛隊が集団で辞職するという事案もあった。だが全員、日本からの渡航歴はなく、謎が深まるばかりで。

 しかし、ある日犯人が思わぬ形で捕まる。どうやら|警察庁《けいさつちょう》の|機捜隊《きそうたい》が検挙したらしい。しかも厄介なことに犯人は同じ機捜隊員だったことが発覚。そこから事件は日本で大きく動き出す。
 警察組織のスキャンダル。警察庁上層部はこの事件に煙を掛けてしまおうと考えた。

 俺は、その事件で祥ちゃんに出会った。
 現場は、警察庁の屋上だった。
 機捜隊員3人が、暴動を起こしたのだ。

 その日、俺はたまたま、本当にたまたま警察庁の、その建物にいた。単なる野暮用をこなすためにちょっと寄ったら、なんだか騒がしくて。
 廊下を慌ただしく走る職員を捕まえて聞いてみたら、「なんか、機捜隊のやつらが屋上で騒いでるらしい」と答えたので。

「へぇ、なんで?」
「ほら、例の大統領候補の…」

 FBIの中でもそのころ話題の事件。しかも、警察庁の不振な動きに苦言を漏らしているFBI側の人間としては、まぁ興味がない話でもない。

 取り敢えず行ってみようかと思い、ふらっと屋上に行ってみた。

 目にした光景は異様だった。

 一人は30代くらいの男で、取り押さえられている。
 一人は難いのいい20代半ばくらいの茶髪の男。銃を構えてこちらを威嚇している。
もう一人も20代半ばくらい、銃を右手に、構えることなく持ち、何故かフェンスの向こう側に立っていて、24階の下を眺めていた。それが、祥ちゃんだった。

「落ち着け、山下」

 集まっていた警部たちは何故かフェンスの向こう側の、自殺でもしそうな人物に声を掛ける。普通は手前にいて銃をこっちに向けて震えてる方にその言葉は掛けるべきじゃないのか。そもそもなぜ彼はこんな中一人、そんな状況なのか。

「別に落ち着いてますけど。どっちかってーと、そいつの方が危なくない?俺は平和的解決を望んでますけど」
「うるせぇ、みんなこっちくんな!」

 そう言って銃を持った方は後ずさる。

こいつら何がしたいんだ。
 そしてその他5名ほどの警部さん方は、なんだってこんなクレイジー野郎共を相手にしてるんだ。

「あのー」

 後ろから声をかけると、警部さん方は一斉に振り返った。「誰だ!」とか、お決まりの文句を言い捨てて。

「たまたま通りがかったんで。あんたら何してんの?」
「部外者は立ち入り禁止なんだが」
「誰に向かって口聞いてんの?けーぶさん」

 丁度一人、少し前まで雑用で見知った顔がいたので睨み付けてやると、そいつが、「やめとけ厄介だから」と、他を注意し、俺のご説明をどうやらしているようだった。

 その間に俺は犯人側に交渉でもしてみようかと前に出る。

「お前、なんだよ!」
「名乗るほどの者じゃないよ。通りすがりの特殊公安です」
「くんな!こっちはな、全部データだってあんだぞ!」
「大貫《おおぬき》、多分やめた方がいいと思うぞ」

 そう言うとヤマシタは、フェンスの扉を開け、タバコに火をつけてこちらに歩いてきた。

「なんだよ山下」
「それにデータ持ってんのお前じゃねぇし。
 けーぶさんたち、聞いてますかー?」

 挑発するようにヤマシタは言った。その声に警部5人の視線は山下へ向けられる。

「このデータ、コピーも俺が持ってんだ。俺らここで殉職するから見届けてくれるかな?
 俺が死んだらしかるべき場所にデータが転送されるようになってる。今回の大統領事件の、あんたらが知らない詳細まで鮮明に記されたものだ。
 信憑性を揺るがせないためにも、俺らは殉職した方がいいかと思うんだよね」

 ヤマシタはジャケットの懐からCDーRを取り出し、見せ付けてから再びしまう。

「何言ってんだお前」
「多分、わかんないよなぁ、あんたらには。
 犯人検挙したの俺なんだよ」

なるほど。
そーゆーことか。

「つまんねぇ理由だろうね」
「つまり出世が目的なのか君は」
「はっ、それはもっとつまんねぇな。
 あんたらが一番わかってんだろ?本当は何が起きたか。でもな、残念なことにそれは本当じゃないんだ。警察庁の詰めの甘さ、隠蔽体質が産み出した幻想なんだよ。
 本当の犯人は誰か。まあ、警部殿は知らない方がいいだろうけどね」

 これは所謂、クーデターと言うやつだ、多分。

「山下、お前…」
「…平和なんかじゃないなぁ、」

何が平和だよ。
タバコを吸ってダルそうに蟀谷に拳銃を当ててリボルバーのハンマーを引く奴の何が平和だと言うんだ。

あぁ、アイツを思い出すな。
思い出すだけで虫酸が走る。

 ただ彼はあまりにも揺るぎなく、擦れていた。
 そんな自己防衛もあるのかと、不思議な気持ちになった。

「笑えるな」

 そう言って一歩一歩、歩いてみると。
 ヤマシタより前にいた大貫と言うやつは明らかにびびっていて。それが今回の首謀者が誰であるかを物語っていた。

「なんだよ、てめぇ」
「たまたま通りがかるんじゃなかったなぁ…」

 気付いたら目の前まで来ていて、大貫は視界から消えていた。

「いっ…!」

 どうやら俺は、大貫をぶん殴って退かしたらしい。

「あんた、かっこいいな」

揺るぎない犠牲。それが自分であること。

「てめぇ!」

 大貫が立ち上がり、立ちはだかる。取り敢えず拳銃を持った手を蹴り上げ、凶器をすっ飛ばした。
 元自衛隊員というのはマジかもしれないな。
 大貫は怯むことなくそれから、ナイフを取り出した。

面倒臭ぇ。
だけどうぜぇ。
てめぇに用はねぇんだよ。

「あんた、何がしたいんだ?」
「あ?」
「警察組織に爪痕を残したいのか?」
「お前になんて、何がわかる!俺は、俺たちは裏切り者だ。だが本当は違う」
「いや、裏切り者だし嘘吐きだろ、大貫」
「違う!山下!」
「何だよ」
「お前は何も思わないのか?一緒に戦ってきた仲間に対しても、隠蔽しやがったこいつらに対しても!」
「別に。俺はお前ほどイカれていない」
「てめぇ!」
「めんどくせぇから仲間割れはよそでやってよ」
「うるせぇ!部外者は黙って」
「お前、人殺したことある?」

 そう聞くと大貫は、「…は?」と、間の抜けた顔で間の抜けた返事を返してきた。

「仲間仲間言ってるけど、お前、どれだけ仲間が大切?仲間のために人殺せる?無理だよな、お前くらいの覚悟じゃ、無理だよ」
「何が、」
「疲れる。要するに生温いって言ってんの、この犯罪者が」
「てめぇ、」
「人を殺すってのは…」

 そのまま大貫を抱き締める。腹が裂かれる感触が生々しい。

「えっ、」

 持つ手を強く掴んでやって。大貫が離れようとする抵抗でより深く、位置が悪くナイフが自分の腹に入ったのが分かった。

「…こーやんだよ、バカ」

あぁ、痛ぇ。
俺何してんだろ。

 そのまま多分、大貫に寄り掛かるように俺はぶっ倒れて。
 銃声が聞こえた気がして。
 走馬灯のように、流星のあの日の背中を思い出した。

 次に起きたときは白い天井と消毒臭い空間で。

「よう、死に損ない」

 そう言ったのはクソだせぇ銀縁眼鏡を掛けた優男、口元の小さな黒子が印象的なにやりと笑った笑顔で。
 何故そんな状況なのか皆目見当がつかなかった。

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